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侍ジャパン

外国人投手のツーシームはなぜ厄介なのか

写真提供:共同通信


■侍ジャパンを苦しめたもの

 第4回WBCでは、150キロ前後を計時するツーシームの使い手をそろえたアメリカ代表に惜敗した侍ジャパン。準決勝で敗れたチーム関係者のコメントにもあったが、「動くボール」への対応が課題に挙がることはもはや国際大会では約束事のようになっている。NPBでも近年は手元で動く速球を武器に活躍する外国人投手が増えており、昨季外国人投手として史上2人目の沢村賞に輝いたジョンソン(広島)が代表的な存在だろう。NPBでは希少な190センチを超える長身左腕で、ツーシームやカットボールを低めに集めてゴロの山を築くスタイルの持ち主だ。

 もっとも、シュート系のボールを日本人投手が操っていないかといえば、決してそうではない。古くは平松政次、東尾修、西本聖らが切れ味鋭いシュートを投げ込み、一時代を築いたのはよく知られているところだ。NPBの直近5年間の投球割合を比較してみると(表1)、シュート系の割合は確かに外国人投手の方が多いが、打者が見慣れない、というほどの差ではないように思える。では、なぜ外国人投手の操るツーシームに苦戦を強いられるのか。今回は、このシュート系のボールにフォーカスしたい。

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■外国人投手のシュート系は7キロ速い

 もちろんWBCの公認球とNPBの公式球、または球場の気候などに違いがあり、アメリカ代表の投手たちと同じ扱いにはできないが、NPBの中だけで見ても、やはり球速の違いは際立つ。今季のデータを調べると、外国人投手と日本人投手のシュート系には、7キロ近い球速差が存在する(表2)。これは、外国人と日本人の基礎的な球速の差、ということもあるが、日本人の速球派投手がこれらのボールをあまり用いないことも要因の1つだろう。

 ここ5年間で500球以上を投げた投手を対象に、それぞれストレートの平均球速ごとにグループ分けし(横軸)、各グループに属する投手たちがどのくらいの割合でシュート系を投じたか(縦軸)を表したのが、上のグラフだ。これを見て分かる通り、外国人は球速の速い投手ほどシュート系を多く使う傾向があり、逆に日本人は、球速が遅い投手ほどシュート系を用いる割合が高くなっていた。確かに日本人投手の場合は、大谷翔平(日本ハム)のような速球派はストレートを磨き、石川雅規(ヤクルト)のような球速の遅い投手はシュート系のボールに活路を見いだす、というのがパターンの1つになっている。こうした文化の違いのようなものが、「外国人投手のシュート系は速い」という状況を作り出しているのかもしれない。

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■速いシュート系ほど、ゴロになりやすい


 ではシュート系の球速が増すと、打者のバッティングにどのような影響をもたらすのか。そこで、球速ごとに空振りやゴロ打球の割合などを調べた結果が表3となる。これを見ると、球速が速いほど、ゴロ率が高くなっているのが分かる。これは日本人投手、外国人投手で分けてみても、ほぼ同様の傾向だ(表4)。ゴロの打球は、フライやライナーに比べて安打ないし長打になりづらいため、結果として長打率も球速が速いほど低くなっている。そもそもシュート系のボールは一般的に、バットの芯を外して凡打を打たせる目的の球種だ。どうやら球速が速くなることで、よりいっそうその効果を期待できる、ということらしい。こうしたメリットが、日本の打者が外国人投手の速いシュート系に手を焼く理由の1つであると考えられる。

 最後にシュート系の平均球速の変遷を紹介したい。データのある2004年が136.4キロだったのに対し、17年は140.2キロと、14年間で4キロほどスピードアップしている(表5)。今後、速球派の日本人投手にシュート系を武器とする投手が増えてくれば、全体的な球速向上の流れにも拍車がかかるだろう。昨季引退した黒田博樹のように、ストレートをほぼ使わずツーシームを主体とする「黒田2世」が現れるかにも注目したい。

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※データは2017年6月7日現在

文:データスタジアム株式会社 小林 展久