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プロ野球

スピードガンも嘘をつく

写真提供:共同通信


■自己最速の148キロ

 そのことに初めて気付いたのは、西武の野上亮磨が投げているのを見ていた5月6日のことだった。自身3勝目をかけてメットライフドーム(旧名・西武プリンスドーム)の先発マウンドに上がった野上は、初回から140キロ中盤のストレートを連発。野上といえば多彩な変化球と破たんのないコントロールでゲームをつくっていくタイプで、総合力で勝負する投手のイメージが強い。しかし最速で148キロをたたきだしたこの日の野上の姿は、明らかにこれまで見たことのないものだった(昨季までのストレートの最速は147キロ)。

 ただどこか違和感を覚えたのは、野上自身がそれほど力を入れて投げているようには見えなかったことだった。また、ストレートの割合がそこまで高くない、いつものバランスの取れた配球のように見えたこと。そして、対戦した楽天打線に初回から捉まって5点を献上し、3回で降板に追い込まれていたこと(表1)。この日の野上はどう見ても好調な姿には映らなかった。

 そこで抱いた疑念は、今年のメットライフドームはスピードガンが甘めに出ているのではないか、ということだった。表2は西武に所属する投手がメットライフで登板した際の、過去3年分のストレート平均球速を表している。野上は2016年の138.7キロから3.5キロの上昇が確認でき、他の投手も軒並み球速の向上が認められる。

■2キロ強のプラス

 ただ、西武の投手陣が軒並みスケールアップして球速の底上げに成功した可能性もゼロではない。そこでより正確にスピードガンの実態を測るため、パークファクターという指標の手法を用いて球速のデータを検証した(表3,4)。パークファクターとは特定の球場で計測された結果が他の球場と比較して偏りがあるかを判定するもので、通常は本塁打や得点などの傾向を測るために用いられる。本拠地とそれ以外の球場の値の比率で表され、1より大きいほど本拠地で発生しやすい(高く出やすい)事象であることを示している。なお、球速データは投手個人の資質や登板環境に左右されると思われるため、下記の条件で対象となるデータをある程度絞っている。

・ストレートの投球を対象
・シーズンのストレートの平均球速が135キロ以上の投手
・本拠地とそれ以外の登板数の比率が3:1、または1:3以内に収まる投手
・同一リーグの対戦かつ、本拠地で行われた試合のデータを対象
・敬遠球や敬遠気味に外したボール、バントの構えに対して投じた投球は含まない

 メットライフのパークファクターは1.015でトップ。他球場の投球時と比較して2キロ強のプラスが出ていて、やはり今季はスピードガンの数字が高めに出ていたことが分かる。野上も今季の本拠地以外でのストレートの平均球速は140.8キロで、本拠地の投球時ほどスピードは出ていなかった。

 今季のメットライフの1.015というパークファクターは過去と比較しても高い数字で、過去10年のNPB本拠地の中でも2番目の高さにあたる(表5)。実は昨季のZOZOマリンスタジアムも1.012(HOME/144.5 Others/142.8)と高めの数字が出ていたが、それも上回る水準となった。メットライフはこれまではそれほど数字の出やすい球場ではなく、昨季のパークファクターも0.996(HOME/143.1 Others/143.6)、2015年は1.000(HOME/143.8 Others/143.8)と比較的フラットに近い値を残している。

 スピードガンの基準が変わった原因を正確に突き止めるのは難しいが、影響として考えられるのがマウンドの変化だ。これまでのメットライフのマウンドは軟らかい土で形成されていたが、投手陣の要望などもあって2016年オフに硬いマウンドに改修を行っている。一般に硬いマウンドの方がストレートのスピードが出やすいとされていて、今回の高速化にも何らかの影響を与えている可能性が考えられる。

■スピードと結果は必ずしも連動しない

 スピードガンの数字が出やすい球場とそうでない球場が存在することについて、これまでも話題として取り上げられる機会は少なくなかった。パークファクターによれば最大で3キロほどの振れ幅があり、球場やテレビ中継のスピードガン表示の数字を鵜呑みにすることはできない。さらにスピードガンの不確かさを表す一例として、もうひとつ数字を紹介したい。

 上の散布図は、2012年から2016年の規定投球回到達者を対象に、先発時の試合単位の球速と登板結果の関係を表している(n=3558)。Y軸はシーズンの平均球速と登板試合の平均球速の差分で、数字が大きいほどいつもよりスピードが出ていることを表す。X軸のGameScoreはセイバーメトリクスの指標のひとつで、おおよそ50を基準として数字が高いほど先発投手として優れた登板結果を残していることを示す。これらの数字が相関していれば「いつもより球速が出ている試合ほど、好成績を残している」と言えるが、相関係数は0.10と低い数字となった。

 個人の成績で見るともっと分かりやすいかもしれない。表8は菅野智之(巨人)の今季先発登板の一覧で、スピードと結果が特に連動している訳ではないことが理解できる。4月18日から5月2日にかけての3試合連続完封の期間はいずれもシーズンの平均球速を下回る一方で、平均150.4キロと今季最速だった6月6日のメットライフでの西武戦では6回5失点の結果に終わっている。環境にも左右されるスピードガンの数字で、その日の投手の調子を測るのは難しい。プロ野球観戦を盛り上げる舞台装置のひとつであるスピードガンだが、時には疑いの目で見ることも必要だ。

※データは2017年6月13日現在

文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉