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プロ野球

巨人、阪神だって決して悪くない! 全球団が60点以上の豊作ドラフト。

小関順二=文
photograph by Kyodo News

一時は12球団指名も、と騒がれた田中正義はソフトバンクへ。 昨年の高橋純平に続き工藤監督がくじ運の強さを発揮した。

一時は12球団指名も、と騒がれた田中正義はソフトバンクへ。
昨年の高橋純平に続き工藤監督がくじ運の強さを発揮した。

 投手に好素材が揃った2016年ドラフト。最もうまい指名をしたのはどの球団なのか。70点以上の球団、それ以下の球団と分けて採点を進めていきたいと思う。

ソフトバンク 90点
1位入札→〇田中正義(創価大・投手)
2位 古谷優人(江陵・投手)、3位 九鬼隆平(秀岳館・捕手)、4位 三森大貴(青森山田・内野手)

 最高得点を与えたのはソフトバンクだ。最大の目玉・田中正義に5球団が1位で重複、抽選の結果ソフトバンクが交渉権を獲得した。春先の肩の違和感が完全には解消されていないが、持っている素質が破格。武田翔太(来季24歳)、千賀滉大(24歳早生まれ)、東浜巨(27歳)、岩嵜翔(28歳)の20歳台カルテットの一角に割り込み、和田毅、バンデンハーク、中田賢一、攝津正、大隣憲司らと強固な先発陣を形成しそうだ。

 2位以下では、過去2年間と同様に高校生を指名した。筑後市に12球団随一の充実した広さと設備を有したファーム施設を建設、さらに近年若手を育て上げた自信がこの指名に表れている。

 その中で最も注目するのが、3位の九鬼隆平だ。甲子園でランニングホームランを放ったことがあるが、このときのベース1周タイムは15秒を切る14.99秒。十分俊足と言えるレベルだ。

 高校日本代表の4番を務めた打力、捕手としてはイニング間の二塁送球が最速1.76秒を計測。私が計った中ではプロ・アマ含めて松本直樹(西濃運輸・来年の候補)に次ぐ速さである。数年後には栗原陵矢(21歳)としのぎを削り、城島健司のメジャー移籍以来実現していない正捕手誕生の期待がかかる。

ロッテ 85点
1位入札→×田中正義(創価大・投手)→外れ1位→〇佐々木千隼(桜美林大・投手)
2位 酒居知史(大阪ガス・投手)、3位 島孝明(東海大市原望洋・投手)、4位 土肥星也(大阪ガス・投手)、5位 有吉優樹(九州三菱自動車・投手)、6位 種市篤暉(八戸工大一・投手)、7位 宗接唯人(亜細亜大・捕手)

 1位で入札した田中正義を抽選で外し、第2入札で佐々木千隼を指名した。佐々木が最初の入札で名前が出なかったことにも驚いたが、抽選負けした5球団すべてが佐々木に向かったのにはさらに驚かされた。山室晋也球団社長が5分の1の確率を引き当てなかったら大きな悔いが残っただろう。

 ロッテは故障者こそ多いが、救援陣は西野勇士、益田直也、内竜也、大谷智久、藤岡貴裕、松永昂大、南昌輝、高野圭佑と充実している。対照的に先発は両輪の石川歩、涌井秀章以外の唐川侑己、古谷拓哉、チェン、関谷亮太に安定感がなく数も少ない。つまり佐々木には働き場所がたくさんある。

 先発タイプの2位酒居知史、4位土肥星也にも同じことが言える。キレのあるストレートと多彩な変化球でゲームメークできる酒居にはローテーション入り、角度のあるストレートとキレのいいチェンジアップに威力を秘める土肥には慢性的な左腕不足解消の期待がかかる。

 3位島孝明は最速153キロを誇る超高校級の本格派右腕で、これは若手抜擢に定評のある伊東勤監督へのプレゼント、というのが私の実感で、ゆくゆくは短いイニングをまかせられる抑え候補になりそうだ。

■高校卒の本格派を育てた歴史がある西武は今年も。

西武 80点
1位入札(単独)→今井達也(作新学院・投手)
2位 中塚駿太(白鴎大・投手)、3位 源田壮亮(トヨタ自動車・内野手)、4位 鈴木将平(静岡・外野手)、5位 平井克典(Honda鈴鹿・投手)、6位 田村伊知郎(立教大・投手)

 ドラフト前は田中正義への入札が予想されていたが、夏の甲子園優勝投手・今井達也を選択した。古くは稲尾和久、池永正明、東尾修、近年では松坂大輔(現ソフトバンク)、涌井秀章(現ロッテ)、菊池雄星、高橋光成と高校卒の本格派がチームを牽引した歴史がある。私は田中よりも今井のほうが西武らしい指名だと思った。2位で未完の大器、中塚駿太を指名したのも頷ける。即戦力候補はほしいが、上位チームの日本ハム、ソフトバンクを上回るにはスケールもほしい。そういう思いが濃厚に伝わってくる。

 3位の源田壮亮は守備名人。都市対抗で9番を打っていたように「打つ人」ではない。柔らかいフィールディングと全打席全力疾走に象徴される“自己犠牲的”精神に富んだバイプレーヤーで、現チームのレギュラー候補、呉念庭、外崎修汰、永江恭平にはない個性を持っている。

 4位鈴木将平は2年春、選抜大会で木更津総合のエース早川隆久と対戦したときの姿が印象に残っている。プロ志望届を提出していれば間違いなく3位以内に指名されたであろう好左腕から2打数2安打、四球2、死球1と出塁率10割を記録。2本の安打のときの一塁到達が4.28秒、4.26秒と速く、どこをとっても文句なし。甲子園は1年夏、2年春・夏の3回出場し、この選手がプロで活躍しない姿が想像できなかった。よく4位で指名できたと思う。

オリックス 80点
1位入札(単独)→山岡泰輔(東京ガス・投手)
2位 黒木優太(立正大・投手)、3位 岡崎大輔(花咲徳栄・内野手)、4位 山本由伸(都城・投手)、5位 小林慶祐(日本生命・投手)、6位 山崎颯一郎(敦賀気比・投手)、7位 飯田大祐(Honda鈴鹿・捕手)、8位 澤田圭佑(立教大・投手)、9位 根本薫(霞ケ浦・外野手)

 2013年以来、育成を除くドラフトで12球団中最多の27人を指名してきた。チームを作り替えたい、という意欲の表れだろう。その3年間、1位は単独指名だった。それ以前の3年間は、2010年=大石達也、伊志嶺翔大、山田哲人、2011年=高橋周平、2012年=藤浪晋太郎、松永昂大とすべて抽選負け。3年で6回の抽選負け(全敗)は珍しく、それでも駿太、安達了一、松葉貴大を獲得しているのだからスカウト陣は頑張っている。

 今年も、1位は山岡泰輔を単独指名した。さらに2位で黒木を指名。この2人は完全に先発型の即戦力である。抑えの平野佳寿、中継ぎの佐藤達也、塚原頌平、先発は金子千尋、西勇輝、ディクソン、松葉貴大と現在のリリーフの顔ぶれは悪くなく、打線も糸井嘉男、T-岡田、安達、西野真弘に、シーズン後半に頭角を現した吉田正尚、若月健矢と並び、若手の園部聡、大城滉二も控えている。投打に悪い要素はないのに、ただ層が薄い。そういう状況の中で確実に使える2人を上位で指名したのだから評価できる。

 5位小林慶祐、8位澤田圭佑も即戦力候補。小林は187cmの長身から投げ下ろすストレートが東京情報大時代から定評があり、社会人になって低めにコントロールされるようになった。澤田は大阪桐蔭時代の恩師、西谷浩一監督が「澤田はプロではリリーフで成功すると思う」と言った言葉が耳に残る。ちょっと太り気味なので5キロダイエットしてほしい。

■防御率リーグ最下位のヤクルトは投手5人捕手1人。

■ヤクルト 70点
1位入札(単独)→寺島成輝(履正社・投手)
2位 星知弥(明治大・投手)、3位 梅野雄吾(九州産業大九州産業高・投手)、4位 中尾輝(名古屋経済大・投手)、5位 古賀優大(明徳義塾・捕手)、6位 菊沢竜佑(相双リテック・投手)

 チーム打率.256は広島に次いでリーグ2位、チーム防御率4.73は5位DeNAの3.76を圧倒的に引き離すリーグ最下位。6人指名中、投手が5人、捕手が1人という指名内容は大いに納得できる。寺島は重複が予想された超高校級左腕で、真中満監督は「即戦力候補」とコメント。相手打者や展開を見ながら力の入れ具合に強弱をつけ、ストレートと同じ腕の振りでスライダー、フォークボールを操る技術も備えている。「即戦力」と言いたい気持ちはわかるが、テークバック時に体が割れないのは不安要素。2、3年先の戦力だろう。

 2位の星は4年春になってリーグ戦初勝利を挙げた。山崎福也(’14年オリックス1位)、上原健太(’15年日本ハム1位)、そして同学年の柳裕也(中日1位)がいたためリリーフを余儀なくされたわけだが、4年になって先発に転向して春1勝、秋は立大戦を残した段階で2勝2敗、防御率はリーグ3位の2.35と安定感を増している。ヤクルトではいろいろな起用法が考えられるが、不足しているのはリリーフ。最速154キロを主体にしたピッチングもリリーフ向きである。

■阪神、巨人の野手重視は評価に値する。

 私が70点以上つけたのは以上に紹介した5球団。今年は投手に好素材が多く、70点以下でも中日・柳裕也(明治大)、楽天・藤平尚真(横浜)、DeNA・濱口遥大(神奈川大)、日本ハム・堀瑞輝(広島新庄)、広島・加藤拓也(慶応大・投手)が1位で指名された。

 2位で中日は京田陽太(日本大・内野手)、広島は高橋昂也(花咲徳栄・投手)という1位候補の交渉権を確保しているので70点以上をつけてもいいが、全体的にまとまりのない散漫な印象を受けたため、評価を落とした。それでも例年にくらべれば全球団、見ごたえのある指名をしたと思う。

 点数は低いが注目したのは、野手の大山悠輔(白鴎大・内野手)を単独指名した阪神と、外れ外れ1位で吉川尚輝(中京学院大・内野手)を指名した巨人だ。阪神は金本知憲監督の主導で昨年が1位高山俊、2位坂本誠志郎、巨人は’15年が2位重信慎之介、’14年が1位岡本和真、’13年が1位小林誠司、2位和田恋を指名してきた。

 プロ野球の世界は往々にして投手偏重、守り重視で選手を補強するが、一軍は野手16~17人、投手11~12人で構成される。それでいて「投手7~8割」という言葉が常に大手を振ってまかり通る。そういう「守り信仰」に一石を投じる指名だと思う。

 なお、70点未満の7球団に順位をつければ中日、日本ハム、楽天、広島、阪神、巨人、DeNAの順で、採点は60~69点となる。好素材が多い年で、各球団はそれぞれいい選手を指名した。