BASEBALL GATE

高校野球

金足農 東北の悲願ならず
大阪桐蔭が2度目の春夏連覇

【写真提供=共同通信社】金足農―大阪桐蔭 5回裏大阪桐蔭無死一塁、根尾が中越えに2ランを放つ。投手吉田、捕手菊地亮=甲子園

ついにその瞬間が訪れた。
5回までマウンドに立ち続け、1回戦から881球を投げた金足農のエース、吉田輝星が両肩を落としてライトのポジションに向かっていた。金足農の中泉一豊監督の決断の瞬間だった。

 金足農と当たるチームはとにかく、ピッチャーの吉田をどう打つか。ゲームの鍵はその一点に絞られる。決勝までの5チームは結局は打ち崩せなかった。大阪桐蔭の西谷浩一監督がゲーム前に言った。
「吉田君は質の高いピッチャー。抜きながら投げることも、変化球も牽制もうまい。完成されてるクレバーな投手。こういうピッチャーと対戦できる喜びがある。打ち易いストライクを取りに来るボールに絞って打ちたい。甲子園ではいいピッチャーを乗り越えていかないと優勝できない」
 西谷監督は青写真ができていたはずだ。
 金足農はここまで選手を一人も代えずに9人野球を貫いてきた。吉田も準決勝までで5連続完投して、749球を投げていた。
 一回裏、大阪桐蔭の攻撃。先頭の宮崎仁斗が低めも高めも変化球もストレートも見極めて四球で歩く。2番、青地斗舞はライト前に。2死後、5番の根尾昂も内外角のストレートを見極めて四球を選んだ。満塁から6番石川端貴の初球にスライダーがワンバウンドしてワイルドピッチになって、桐蔭が先制した。
その石川もストレートを4球投げさせ、3―2のカウントから147キロのストレートを右中間へライナーで持っていって、2者が生還した。実は3番の中川卓也も、4番の藤原恭大もスライダーで空振り三振に倒れるが、140キロ中盤のストレートをファールにして、吉田の調子を体感できたのではないか。吉田は1回だけで35球を費やした。大阪桐蔭の攻撃はしつこく重苦しい。さらに切れ味鋭く吉田を攻めた。
 四回裏、先頭の7番、山田健太がカウント3―2から打ち取られるがセカンドゴロエラーで出塁する。このエラーが大きかった。続く8番、小泉航平は見極めて3―2から四球。柿木はスリーバント失敗に終わるが、1番、宮崎がファールで3球粘って3ランホームランを放った。
「4回ぐらいから体が重くなった。レフトが行方を見なくてもわかるようなホームランで、持って行かれたなと。低めに伸びのあるボールを投げたかったが、桐蔭打線はコンパクトにどこに投げても、打ってやるという気持ちが伝わってきました。ボコボコにやられたので、交代はしょうがない」
 吉田はゲーム後、うなだれた。
 これで大方の流れは決した。
 それでも、大阪桐蔭は容赦ない。
 五回、藤原がヒットで出ると根尾がセンターバックスクリーンにライナーで自身、今大会3本目のホームランを叩き込む。「外角に外す予定が甘くなってしまった」(吉田)。シュート回転して真芯に当たりどころのコースと高さだった。
 この回、5安打と自分のフィルダースチョイスもあって6失点。吉田は目は虚ろ、肩で息をしていた。投げ終わった後の蹴り出す右足の着地点は自分の真横当たり。体重移動をして右前方に跳ね上げることさえできていなかった。金足農の冬の練習は過酷なメニューがある。75メートル四方を何周もするインターバル走があって、吉田はいつもトップなのだそうだ。それでも最後に力尽きた。吉田の帽子のひさしに「マウンドは俺の縄張りだ 死ぬ気で全力投球」と書かれている。しかし、六回からマウンドを降りた。
 根尾はゲーム後、「吉田君はこの夏、最高のピッチャーでした。疲れていなかったらどうなっていたか」とゲーム後に言っている。吉田は「最初、根尾君、藤原君と対戦が楽しかった」とも。でも、甲子園での2打席目以降は通用しなかった。
しかし、吉田のプライドが見えた言葉があった。万全の体調で対戦したかったか、とゲームを終えて問われたときだ。
「疲れた状態の方が本当に自分の実力だと思うので完敗だったと思います」
 将来、再び、対戦する時もあるだろう。

藤原と根尾。二人がそれぞれ今大会で3ホーマーづつ。驚異の4、5番だった。
「あいつより打ちたいという気持ちはお互いあると思います」と根尾が言えば、「入学当時から、こいつを超えてやろうと思いました。根尾の存在が成長の要因のひとつ」と藤原も言う。このライバル関係が吉田を打ち崩したとも言える。

 大阪桐蔭は柿木蓮が先発した。「決勝で投げさせてください」と柿木は監督に直訴したそうだ。被安打5本、2失点で準決勝に続いて完投した。根尾も「決勝で投げたかった」と言うが、背番号1の柿木が大役を果たした。

 103年ぶりの秋田県勢の決勝進出。東北の初優勝はまたも、ならなかった。金足農の中泉監督が言う。
「吉田はストレートにもうちょっと力があってもいいのかなと思いました。一回り目は勝負になっていたのかな。でも、甘い球は打たれますね。圧倒的に打たれて負けましたけど、練習通りの野球ができた」と選手を労った。

 13対2。大阪桐蔭の完勝。
 応援席に一礼するとキャプテンの中川は泣き崩れてしばらく立ち上げれなかった。昨年の3回戦、ファーストを守っていた自分がベースを踏み損ねて、そこからサヨナラ負けをしていた。
「去年、自分のミスで負けた。それ以来、強い気持ちでやってきた。周りのみんながこんなキャプテンを支えてくれた」と優勝インタビューでも涙ぐんだ。

 最後に、中川を抱き起こした西谷監督が賛辞を送る。
「去年の夏の悔しい負けから、この代は2年分の思いを背負って毎日、連覇と言ってやってきた。根尾と中川を中心に3年生が最強のチームを作り上げた」
 大阪桐蔭は夏5回目の優勝。そして史上初、2回目の春夏連覇を達成した。

(文・清水岳志)