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創志学園の2年生エース西 帽子を飛ばして16奪三振

写真提供:山陽新聞/共同通信イメージズ


岡山・創志学園の2年生ピッチャー、西純矢は両手で丁寧に握手をした。握手の相手はU―18侍ジャパン日本代表の永田裕治(前報徳学園監督)監督。

「良かったよっ。今までで一番、良かった」

これは前日、金足農の吉田輝星投手が14奪三振を鹿児島実から奪って、完封したゲームの後と同じ光景だった。

結果からいうと西は長崎・創成館を被安打4、無四死球。ヒットで出たランナーが盗塁死など塁上で3人がアウトになっていて、残塁が1というのも珍しい。記すべき創成館の攻撃の戦評がないのだ。

さらに驚異的だったのが16という奪三振の数だ。毎回三振で先発全員から奪った。ゲーム後、三振の数を聞かれて、「知りません。打たせて取ろうと思っていたので。16個はこれまでで一番多い数だと思います」と他人事のように言った。

創成館は昨年秋の明治神宮大会で大阪桐蔭を破っている実力チーム。センバツもベスト8まで勝ち上がった。創成館の稙田龍生監督が「特に投手陣に関しては歴代最高のチーム」と言うように、左腕エースの川原陸をはじめ、右の戸田達也、酒井駿輔らの複数制で甲子園に歩みを進めてきた。今回も優勝候補の一角に挙げられていた。創志学園も侍ジャパンの代表候補に選ばれている西を擁しダークホース。両校がぶつかった好カードだ。

創成館の稙田監督は強気だった。

「西君は速いし、かなりいいピッチャー。でも、うちもセンバツでこの甲子園でやった経験値がある。速球派ともやって来た。ここというときにはバッターは打ってくれると思う。センバツで負けた瞬間に、また夏にくるぞと。あの〝最高の負け〟を生かしたい」

ところが終わってみると、前出のように惨敗だった。

西は投げ急がないために今では少数派になった、ゆっくり振りかぶるフォーム。そしてたびたび、リリース後に帽子が飛ぶのだが、それがトレードマークでもある。

「帽子が飛ぶときはバランスが悪いとき。飛ばないようにしたい」と言うが、この日も数球に1回は飛ばしていた。

そして三振を取ったときは、ガッツポーズが出て、雄叫びをあげる。

「ピンチを切り抜けた時など、無意識に出てしまう」
同じように数回、マウンドでガッツポーズを見せた。力感と気迫のマウンドが西の真骨頂でもある。

ゲーム前に「球速は意識していない。スライダー、チェンジアップで打たせていきたい」と意気込みを語っていた。

ゲームは創志学園が4回に5連打を浴びせて4点。7回には3点を追加して7対0と予想に反して完勝した。

西の投球が観衆を魅了した。最速149キロのストレートに加え、スライダーが切れる。創成館の左バッターがインコースに食い込むスライダーを空振りした。

リードした創志学園のキャッチャー・藤原駿也が言う。
「相手は縦の変化についてこれないと思った。低めにスライダーが決まっていたし、しっかりインコースもつけた」

一方の創成館の左の中軸が証言する。
四番の杉原健介。
「スライダーが真っすぐのような軌道で見極められなかった」

2三振を喫した六番の野口恭佑。
「ボールの勢い、質が違っていた。フォームがゆったりしているんで手元でビュッとくる感じ。スライダーでもストレートでもカウントを取れる。大阪桐蔭・根尾昂ばりのストレートだった。今まで対戦した中でも上位クラスでした」

そして稙田監督が肩を落とした。
「16奪三振…投手がすごかったです。この夏で一番、良い投手と当たってしまった。こういうチームが優勝できるんだと思う」

西はお立ち台で心地よく汗をぬぐいながらインタビューを受けた。
「これまでで一番のピッチングでした。スライダーでかわすことができた。いつもより、帽子は飛ばなかった(笑)テンポも良かったです。それと被災地の方々を元気にしようと思って投げられました」

そして最後にポケットから数珠を取り出した。昨年秋に父親を亡くしていると言う。
「監督に岡山の県大会の決勝日に渡されました。ポケットにいれて投げました。そして、今日も。自分は長男なのでしっかりしないといけない。また、チームでも背番号1をもらっている。いろんな責任感を感じています」

創志学園の長沢宏行監督が隣で優しい顔で笑っていた。
「甲子園でこんな、ピッチングをするなんて思ってもみなかった。4番でエース、という力を秘めてる。そんな選手に育ててあげたい。人間的な成長ができてるかな、お父さんを亡くして。父親がわりにはなれないけど、お爺さんがわりにはなれるかな」

(文・清水岳志)