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侍ジャパン

稲葉篤紀氏も称賛した侍ジャパン大学代表の4番・楠本泰史(東北福祉大)は「1球で仕留める」仕事人

★ドラフト候補のスラッガー

ヘッドを効かせた鋭いスイングで力強い打球を弾き返す侍ジャパン大学代表の楠本泰史(東北福祉大)。今秋のドラフト候補にも挙がるスラッガーは、2大会連続金メダルを目指すユニバーシアード競技大会(台湾・台北市/野球は20日開幕)で、4番打者として大きな期待がかかる。

楠本泰史(くすもと・たいし)・・・1995年7月7日生まれ。神奈川県横浜市出身。元石川サンダーボルト(軟式)→青葉緑東リトルシニア(硬式)→花咲徳栄→東北福祉大4年。180cm77kg。右投左打。

★何もできなかった甲子園

大学入学時から楠本の中で変わらぬ信念がある。それは「大きな舞台で結果を残す」ということ。

3年春にセンバツ甲子園に出場したが、3打数0安打で初戦敗退。

「自分の練習してきた成果が、素晴らしい舞台で何も出せなかったという心残りしかありません」

今でも悔しそうな表情で振り返るのは、その思いを確かな糧としてきたからだ。東北福祉大では1年春からレギュラーを掴み、昨年は侍ジャパン大学代表に初選出され、日米大学野球に出場。今春は打率.415をマークしてリーグの首位打者に輝いた。

そして、大舞台で結果を残したのが、今年7月の日米大学野球だ。2年連続の代表入りとなり、善波達也監督から「昨年の経験を生かして欲しい」と4番打者に指名されると、7月の日米大学野球で打率.389を残し首位打者を獲得。米国開催で史上2度目となる優勝まであと一歩と迫る2勝3敗の成績は楠本の存在なしには語れない。

★稲葉氏も称賛した一打

今季好調の要因について尋ねると「甘いボールを1スイングで仕留めることができるようになったのが大きいです。狙い球が違っても、イケると思った球をスイングして打てるようになりました」と話す。その象徴的なシーンが直前合宿であった。

8月14日に行われたJX—ENEOSとの練習試合で、楠本は初回にドラフト候補右腕・齋藤俊介の初球のチェンジアップを振り抜くと、打球はライトフェンスを超える先制3ランとなった。これには視察に訪れた侍ジャパントップチームの新監督・稲葉篤紀氏も「国際試合はどうしても初対戦の投手ばかりになりますから、楠本くんの対応力は素晴らしいですね」と称賛した。

積極的な姿勢も悔しさを糧にしている。昨年の日米大学野球では15打数3安打で打率.200に終わり、秋のリーグ戦でも打率.256と過去最低の数字となってしまった。

そこで意識を変えた。「上手く打とう」「芯に当てよう」と思うがあまり、消極的になってスイングも弱くなっていた。

だが楠本の魅力は、花咲徳栄高校時代に「嫌というほど鍛えました(笑)」というリストの強さを生かしたスイングスピードだ。その原点に返る思いに加えて「海外投手陣の速いストレートを弾き返すには、強いスイングが必要」という思いもあった。

それが日米大学野球では功を奏した。また、昨年の経験者が少ない若いチームで「“日本人と同じタイミングの取り方では、球もモーションも速い投手に対して、前に飛ばすことができない”というのは他の選手にも口酸っぱく言いました」と言葉でもチームを引っ張っている。

★持ち味を出すために

侍ジャパンのユニフォームを身にまとい、「目標はもちろん世界一です。金メダルを持ち帰る気持ちです」と意気込む今大会。

当然、4番打者としての重圧はかかるが、「“自分がやらなきゃ”と背負いこんではいないです」と意外なほど肩の力が抜けている。そして「良い選手ばかりなので“自分が打てなくても周りがカバーしてくれるだろう”と楽な気持ちで打席に立っています。だからこそ思いきりバットが振れます」と、自らの持ち味を思う存分発揮するつもりだ。

それが「大舞台で結果を残す」ことへの近道だということは、誰よりも楠本自身が知っている。

侍ジャパン大学代表の金メダル獲得に大きなカギを握るエースの東克樹(立命館大)と4番の楠本泰史(東北福祉大)


小兵ながら最速152km/h!侍ジャパン大学代表の東克樹(立命館大)が世界の頂点目指す

文・写真=高木遊