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もしも清宮幸太郎の体格が“規格外”ではなかったら

写真提供:共同通信

■“規格外”の体格を誇る清宮幸太郎

・身長184cm、体重101kg、右投左打の一塁手
・高校通算107本塁打、甲子園での最高成績は1年夏のベスト4
・リトルリーグ時代に世界一を経験
・父親は日本ラグビー界の名将・清宮克幸氏

 約2年半の間、高校野球の話題の中心に居続けた早稲田実の清宮幸太郎。そのプロフィールを4行で書くとこのような感じだろうか。

 リトルリーグで世界一になった東京北砂時代、すでに183cmの身長があったという清宮。7月30日の西東京大会決勝・東海大菅生戦で敗れ、甲子園へと続く高校野球の舞台からは卒業することになったが、その規格外の体格から放たれる放物線はこれまで多くのアマチュア野球ファンを魅了してきた。

■清宮の体格はどのくらい規格外なのか?

 では、清宮の体格は他の球児と比べてどのくらい規格外なのだろうか。上の図は間もなく始まる第99回全国高等学校野球選手権大会に出場する選手の身長、体重を表した図だ。あくまでも「公称」の身長、体重のデータではあるが、ご覧の通り清宮は他に比べて右上に位置しており、平均的には174cm、72kgという甲子園球児の中では規格外であることが分かる。

 次に、清宮の体格をプロ野球選手(NPB)と比較してみると上のような図になる。この図では外国人選手や、野手だけでなく投手も含めて表示している。プロ野球選手の平均身長は181cm、平均体重は84kg。清宮の体格は規格外というほどではないが、プロの中に入っても大きい方ではある。

 ただ、メジャーリーグの選手とも体格を比較してみると、さすがの清宮も埋もれてしまう。メジャーリーガー(ロースター40人枠を対象)の平均的な体格は187cm、95kg。清宮は体重こそ平均を上回っているが、規格外の体格ではない。

 このように比較してみると、やはり高校野球界での清宮の体格は規格外だということがよく分かる。もちろん、体格だけで高校通算107本塁打を放ったわけではないが、少なくとも、他の選手よりも相対的に使えるエネルギーが大きいというアドバンテージはあったはずだ。

■第99回選手権大会に出場する規格外な選手

 清宮は甲子園出場がかなわなかったものの、今夏の甲子園でも清宮クラスの大柄な選手がいるので、ここで紹介しておこう。今大会では190cm以上の選手が5人、95キロ以上の選手が4人登録されている。最も身長の高いのは前橋育英の4枚看板の1人・根岸崇裕。根岸は体重も95キロを超えており、今大会で唯一、身長190cm以上かつ体重95kg以上の選手だ。

 上記の図に登場する8人中のうち、1ケタの背番号をつけている選手は横浜・万波中正と日本航空石川・上田優弥の2人だ。2人とも下級生ながら高校球児として規格外の体格であり、地方大会ではそれぞれ本塁打を放つなどパワフルな打撃を見せている。

 そのほかの6人のうち身長190cm以上の4名は、地方大会では根岸も含めて控え投手としてのベンチ入りであり、また上田、根岸を除く体重95kg以上の2人はともに地方大会では代打での出場となっていた。相対的に長身の選手は投手、体重のある選手は代打として、身体形態の特長を生かした活躍が期待されているようだ。

■体格が大きいことはどのように有利なのか?

 さて、清宮のように相対的に体格が大きいということは、野球選手としてどのような利点があるのだろうか。過去10年のプロ野球のデータを用いて、体格別に野手の長打力(IsoP:長打率-打率)と打率を調査した。

 今回はまず、上の図のように BMI(ボディー・マス・インデックス)を用いてプロ野球選手として標準的な体型を定義した。プロ野球の公式情報を基に計算すると、過去10年の選手の約7割のBMIは23以上~27未満の範囲に入るため、まずはこの範囲を標準的な体型として定義した。その上で、身長を「175cm未満」「175 cm以上180cm未満」「180cm以上185cm未満」「185cm以上」の4つのカテゴリーに分け、それぞれのIsoPと打率の年度推移を比較した。

■大柄なほどIsoPが高い

 横軸に年度、縦軸にIsoPを置いて過去10年の推移を見ると「標準的な体型」のプロ野球選手では、やはり身長が大きいカテゴリーの方が高いIsoPを残していることが分かる。近年は「175cm未満」と「175cm以上180cm未満」ではさほど差がなくなっているが、おおむね、大柄な選手の方が長打をよく打っているといえそうだ。

 一方、縦軸に打率を置いて比較すると、必ずしも大柄な選手の方が高いというわけではない。むしろ、10年前は「小柄なほど打率が高い」というような傾向も見られていた。ただし、近年はその傾向も変わってきており、ここ4年は185cm以上のカテゴリーに属する選手が最も高い打率を残している。

 このように見ると、プロの一軍で起用されるレベルの選手であれば、打率を上げるという点では必ずしも大柄であることが大きなアドバンテージとまではいえないが、長打を多く打つという点でのアドバンテージは明らかだということが分かる。

 高校野球でも同様な傾向があると仮定するならば、清宮のように高校球児として規格外の体格であることは、野手としてのパフォーマンス、特に長打力を高める上での大きな要因となっているはずだ。

■清宮の体格をプロ野球の一塁手、指名打者と比較する

 清宮とプロ野球選手の体格をもう少し詳細に比較してみよう。清宮の体型、守備能力からすると、プロ野球で活躍するなら一塁手か指名打者が濃厚と思われる。つまり、清宮と比較すべきは一塁手および指名打者となる。上の図は2017年に一塁手、もしくは指名打者として200打席以上立っている12名と清宮との身長、体重の比較となる。

 清宮はさすがに規格外ではないものの、この中で比較しても平均的な体格ではある。中田翔(日本ハム)、ロペス(DeNA)、ビシエド(中日)、内川聖一(ソフトバンク)と近い位置におり、数年後のプロ野球での成功イメージを描くならば、このあたりの選手が目標となるだろう。

 ただし、デスパイネ(ソフトバンク)以外の外国人選手はすべて清宮よりも右上にいるように、外国人の一塁手、指名打者と比較すると小柄な部類になるのは否めない。将来、メジャーリーグでの活躍ができるかと問われた場合、かなりの長打力を期待される一塁手、指名打者として考えるならば、楽観的な予想はしづらい。

 また、過去の研究では体脂肪率を考慮したLBM(除脂肪体重)が野球選手のパフォーマンスに影響を与えるといわれている。ほかにも、体の部位ごとの筋力と野球のパフォーマンスに関する研究も行われている。身長や体重こそプロ野球選手の平均的な一塁手や指名打者と比べてそん色ない清宮だが、より詳細な身体形態を考慮した場合に、他のプロ野球選手に比べてどのような特性を持っているのかは気になるところだ。

 ここまでの野球人生では常に規格外の体格というアドバンテージのあるステージで戦っていた清宮だが、今後はアドバンテージの少ない、もしくはない世界に飛び込むことが予想される。リトルリーグ時代から比べてさほど身長が伸びていないことからも、ここから体格が大きく変化するということは考えにくいため、高いレベルで活躍する上での新たな武器をどのように体得していくのか注目したい。

■体格はあくまでもスポーツパフォーマンス構造の基本要素

 以上、清宮を例に体格の比較を行ってきたが、当然のことながら身体形態は野球のパフォーマンスを決める上での基本要素というだけであって、すべてではない。上の図では東欧におけるスポーツの先行研究を参考に「パフォーマンスを発揮するための前提」と「試合」、さらには各領域で収集可能なデータの「量、種類、とりやすさ」を簡易的に表している。例えば、清宮の高校野球最後の本塁打となった「左中間へ弾丸ライナーの本塁打を放った」という行為を逆算して考えると

「打席で外角低めのチェンジアップをきっちり意識し、集中する(意識)」
「投球に対応してバットを振り、うまくミートさせて逆方向へライナー性の打球を放つ(身体の操作・調整)」
「そのライナーがスタンドまで届くような速度でスイングする(エネルギー)」
「そのスピードでスイングできるだけの身体形態を持っている(体格・身体形態)」

というような構造的な見方ができるはずであり、体格が規格外だから本塁打になった、というだけの単純な話ではないことは明らかである。

 技術の進歩により、今回紹介した身長、体重のデータ、公式記録に加え、1球ごとのデータ、投球間のトラッキングデータ、さらには心拍数などの身体活動のデータも収集できるようになりつつある中で、プロ野球の各球団でもデータから選手のパフォーマンスを測定・評価する手法の開発を進めている。

 今回は基本的なデータを使い「体格・身体形態」の領域に関して多少の考察をしたが、パフォーマンスの全体像を把握するために、今後はパフォーマンスの構造を意識して分析を行う必要があるだろう、ということは最後に記しておきたい。

※身長、体重はすべて公式データから作成。
※「スポーツパフォーマンス構造とデータ」の図は【綿引勝美:ドイツ・ライプチヒ学派トレーニング科学の成立過程に関する研究(3)「鳴門教育大学研究紀要 第32巻 2017」】および、日本スポーツトレーニング研究所代表・小俣よしのぶ氏のスポーツパフォーマンス構造に関する資料を参考に筆者が作成。

文:データスタジアム株式会社 金沢 慧