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全国制覇12回の名門を支える練習とは 埼玉栄女子硬式野球部に訪問!【野球女子 vol.5】

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 春、夏合わせて、12回の全国制覇の実績を誇る、女子高校野球の強豪・埼玉栄。OGにも、埼玉アストライアで活躍する磯崎由加里選手や、奥村奈未選手といった女子プロ野球選手も輩出しており、女子高校野球界では確固たる地位を築いている。

 だが、春夏連覇の目標を掲げる中で臨んだ、今年3月の全国高等学校女子硬式野球選抜大会では、準決勝で神戸弘陵に6対0と力負け。連覇どころか、春の全国制覇も逃す悔しさを味わった。

 春の敗戦から何を感じ、夏に向けてどのような課題を掲げているのか。女子高校野球の名門の取り組みに迫った。

キャッチボールを行う埼玉栄女子野球部の選手たち

キャッチボールを行う埼玉栄女子野球部の選手たち

■粗削りな面が浮き彫りとなった春の全国大会

 今年3月に行われた、全国高等学校女子硬式野球選抜大会で、準決勝で神戸弘陵に6対0と完封負けを喫した埼玉栄。チームを率いる鈴木佑監督は試合を振り返り、投打共に粗削りな点が浮き彫りになったことを口にした。

「相手投手は2種類のカーブがあり、それに翻弄された形となりました。今年のチームは、投打ともに力のある選手はいるのですが、全体的に荒削りです。伸びしろがあることは魅力ですが、大会では悪い方に出たと思います」

 主将で4番の石垣麻弥乃(いしがきまやの)や、U18強化プログラムの強化選手に選出された藤田捺己(ふじたなつき)を中心に、力のある選手が揃っている今年の埼玉栄だが、その力を実戦で発揮できないところに鈴木監督は大きな課題を感じている。

ボールを片手に笑顔を見せる石垣麻弥乃選手

ボールを片手に笑顔を見せる石垣麻弥乃選手

 もちろん選手たち自身も、チームの課題は十分に自覚している。

 中でも主将を任される石垣は、チームの課題をさらに深堀し、試合で力を発揮できるチームを作っていきたいと強く意気込む。

「練習で出来ていることが、試合で出来ていないのは、試合やピンチの場面になると焦りがでて、自分のことだけに集中してしまうからだと思います。どんな時でも冷静にプレーできるようになることが、夏に向けての課題だと思います」

 またチームの主砲である藤田捺己も、石垣に賛同する。練習では、95メートルのフェンスを越す程の豪快な打球を放つ藤田だが、「本当に試合では打てなくて、春の大会でも自分だけ打ってない試合もありました。コースに逆らわずにそのまま打つことを心がけて、とにかく試合で打てるバッターになりたいです」と続けた。

笑顔を見せる藤田捺己選手

笑顔を見せる藤田捺己選手

 この状況を受けて、鈴木監督は課題である「荒削りさ」、「試合での弱さ」を克服するため、より数多くの実践練習に取り組んでいきたいと強く語る。
そしてこの実践練習の多さこそが、これまでの埼玉栄の強さを支え、女子高校野球界での地位を不動のものにしたと言えるのだ。

■埼玉栄の強さを支える紅白戦の多さ

 「荒削りさ」、「試合での弱さ」が浮き彫りとなった埼玉栄であるが、この弱点を打破するために、鈴木監督は紅白戦を中心とした、実戦練習により力を入れて取り組んでいきたいと話す。

 「元々すごく紅白戦をやるチームで、年間に何十試合もやります。紅白戦をやると不測の事態が起こるので、試合を想定した練習になります。限られた時間の中なので、あとは自分で考えて自主練習に取り組んでもらっています」

 鈴木監督は常々、全体練習で上手くなろうと思うのではなく、全体練習はあくまで確認の場であることを選手たちに伝えている。技術の上達は、自主練習やフリーバッティングの打球処理などで行い、あとは紅白戦でひたすら実践感覚を養う。埼玉栄は、この練習法をチームに定着させることで、全国でも勝ち続けることが出来るチームになっていったのだ。

守備練習を行う埼玉栄女子野球部の選手たち

守備練習を行う埼玉栄女子野球部の選手たち

 鈴木監督は今年のチームにおいても、これまでの紅白戦中心の練習を継続することで、夏に向けてチームを仕上げていきたいと話す。

 「野球って、練習ではできるけど試合では出来ない選手を表す言葉が多いなと感じています。『ブルペンエース』とか『バッティング練習のホームラン王』みたいな。
今年のチームにも似たような感覚があり、その感覚を実戦練習重ねて少しでも無くしていきたいと思っています」

 また、チームの主軸である藤田も、実践練習による自らの打撃のブラッシュアップを誓う。藤田は、コースを絞り切れないところが、実践力の弱さに繋がっているのではないかと推測し、実戦練習の中でクリアしていきたいと意気込む。

 「色んなコースに手を出すと、バッティングフォームが崩れてしまうので、実戦の中で一番好きなコースを思い切り振っていくことから心がけていきたいと思います」

 夏の大会の開幕まで、残り2ヵ月を切っている。

 春、夏合わせて、12回の全国制覇の実績を誇る女子高校野球の名門が、残りの期間でチームをどれだけ仕上げることが出来るか注目だ。

素振りをする藤田捺己選手②

素振りをする藤田捺己選手

取材・文・写真/栗崎祐太朗(Woodstock)