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早稲田大・小宮山悟監督独占インタビュー(後編)「自転車を乗れるようになった頃を覚えているか?」

4月20日に東京六大学野球春季リーグのチーム開幕戦を控える早稲田大。その指揮官の座に就いた小宮山悟監督に、前編ではチームや指揮官としての理想を聞いたが、後編では「選手たちに求める」ものや自身の現役時代の姿勢などについても話を聞いた。

早稲田大・小宮山悟監督独占インタビュー(前編)「ボビーのような形で学生にやる気を促したい」

★主力選手たちに求めるもの
 チームの主将を務めるのは早稲田実業高時代に清宮幸太郎(日本ハム)らとともに甲子園4強入りを経験した加藤雅樹(4年)だが、主将として特別なものは求めていないという。

小宮山:それぞれが自分で規律を守って行動すれば、なんてことはない。全員がそういう思いで取り組めば良いって話なだけで、「キャプテンだから」みたいなものは存在しないと思っています。
私が石井連藏(早大在学時の監督)に「キャプテンをやれ」と言われた時にそういう教えを受けたので(キャプテンが何も言わなくても良い状況)それこそが正しい姿だと思っています。加藤に対しても何もそういう注文はつけてないし、ミーティングで「キャプテンがどうこうの」という話もしたことはありません。全員をいち学生として見ていて、その代表が加藤というだけの話です。

 一方で木更津総合時代からドラフト候補に挙がっている左腕・早川隆久(3年)には、大きな期待をかけている。

小宮山:土曜日(1回戦)に適任ということに加えて、高校生の時の姿も見ていたので「2年間、本当に何をやっていたんだ」という思いが強くて。高い能力を持つ選手が発揮できていない現状をなんとか打開しないといけないということで頑張らせていますね。見る限り、高校時代を凌駕するようなピッチングはできていると思うので、卒業するまでの間にプロのスカウトが見ても唸るぐらいのピッチャーには育つと思います。
(指導にあたってからすぐに)身体の使い方や投げ方の話はしました。こちらの話した通りに身体を動かせているので、この辺りは彼の持っている才能です。

★「壁の向こうに何があるのだろうか」
 当然、指導をすぐに理解し実行できる才能を持っている選手たちばかりではない。小宮山監督自身が二浪の末に入学を果たしたように一般入部してきた選手たちもいる。だが、その中での努力こそ尊いものだと力を込める。

小宮山:指導は人それぞれで、その中でどうするのが良いのかというアドバイスを送っていますけど、理解してその通りに身体を使いこなせる子と苦労してトライしている子、両方いるのはもう仕方がないですよ。
でも彼らに言っているのは「自転車を乗れるようになった頃を覚えているか?」ということです。人それぞれ能力差があって、あっという間に自転車に乗れる奴もいれば、まったく上手くいかなくて後輪に補助輪つけるところから始める奴もいる。努力の過程が人によってバラバラですよね。
でも、「一回覚えたら絶対忘れない」。そのために「今どういうことをすれば良いかを考えて頑張れ」「今できてなくても必ずできるようになるんだと思って取り組めば必ずできるようになる」と伝えています。
「彼らが真剣に自分の姿を見つめてどこまでできるか」という努力の尊さが学生野球のすべてだと思っています。
才能があるか無いかでいうと、そりゃ才能ある奴ばかりが集まったら楽ですよ。でも才能がない奴でも努力次第では才能があるやつを超えられる可能性はある。僕の知りうる限りでは、だいたい才能ある奴って才能にあぐらかいてやっている奴の方が多いんでね。そういう隙をつけば、いくらでもひっくり返せると思います。そこを彼らに力説しています。

 二浪の末に入学した早稲田大で通算20勝を挙げ、ドラフト1位でロッテに入団。その後、20年(2003年は現役浪人)にわたり日米通算480試合に登板するなどプロで戦い抜いた小宮山監督だけに、その言葉は重く深い。「長く現役のプロ選手でいられた理由」と問うた時の回答も核心をつくものだった。

小宮山:(即答で)これはもう「野球が好きで野球を研究するのが楽しかったから」です。考える行為が苦にならない性格だったので、これがすべて。僕は「壁の向こうに何があるのだろうか」という好奇心があったから、「どうやったらこの壁を超えられるのかな」と、考えるのが楽しくてしょうがなかった。
(その好奇心を)持っているかどうかだと思います。プロに行きたいと話す選手には「頑張ってこい」って送り出しますよ。その代わり、きちんと説明もします。苦労しそうな選手には「苦労するよ」と伝えます。「プロで10年20年やるなら今のぐらいの練習じゃダメだよ」って。
怖いのはゴール設定をどこにしているか。「プロ野球選手に“なること”が夢でした」じゃ困るわけですよ。そこらへんは言っても理解できないから、それぞれがどれだけ欲を思って取り組んでいるかですよ。

★「言い訳を口にするようなら断罪」
現状を踏まえた上で今春について「勝たないといけないとは全然思っていないです」と話す。

小宮山:まずグラウンドを見た時に「勝っちゃダメだろ、これじゃ」という思いの方が強いです。4連覇の時の隙のないチーム、あれを理想とするならば今は足元にも及ばない。そんな中で勝ったりしたら失礼。とにかく襟を正すことをまずしたいっていうのが本音なので。そのためにどこからどうすれば良いのか、「それぞれがベストを尽くすことを見せつけてくれ」と伝えています。
それによって勝ったら「そりゃベストを尽くしたからね」って話だし、負けたとしてもベスをト尽くしていたら「力がなかったんだから、もっと頑張んなきゃいけないんだ」となりますよね。まずはそれをやりたいです。
準備不足でいい加減な気持ちでグラウンド立って「打てません」「打たれました」って言い訳っぽいことを口にするような奴がいたら、それはもう断罪ですよ。「なんのために準備をして臨んできたんだ」と。そこをきちんと説教しないといけない立場なので。そういうことに時間をかけて良い形にしたいです。

 優勝は2015年秋から遠ざかっているものの、昨秋は最終週の早慶戦1回戦で敗れて優勝の可能性が潰えてから、意地の連勝で宿敵・慶應義塾大の3連覇を阻止した。特に3回戦は最終回に2点を奪っての逆転勝ちとファンや関係者の胸を熱くさせる戦いを見せた。慶應に対して特別な思いがあるからこそ、そこまでの過程をとても大切にしている。

小宮山:去年の秋は本当に立派だったと思います。最後の試合で追い詰められてからひっくり返した精神力は全ての早稲田大学野球部関係者が称賛する試合だったと思います。だからこそ「そこに至るまでの間に、どれだけのことをしていたんだ」って話なんですよ。4年生はもちろん最後ってこともあったけど、残された3年生以下があの試合をどう捉えているかです。
慶應は慶應でその屈辱を晴らすべく必死になってやってくるので、早稲田は早稲田でその思いを跳ね返すだけの気持ちで臨まなければいけない。
「お互いがライバルとして良い関係を築きながら最後に大一番を迎えられるように」という思いでやっています。そこを学生たちが、「最終戦に早慶戦が組み込まれているから」と、なんとなーく試合をするようじゃ困るんですよ。
だからこそ他の大学には申し訳ないけど「慶應に対する思いだけは別物だ」ということも含めて、彼らに「早稲田の人間としてこうあるべきだ」という話は都度していますので。それを選手たちが神宮で示してくれるかどうかです。

(おわり)

試合中、頻繁にメモを取る小宮山監督。いよいよ初陣に臨む

インタビュー・構成・写真=高木遊