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早稲田大・小宮山悟監督独占インタビュー(前編)「ボビーのような形で学生にやる気を促したい」

 4月20日に東京六大学野球春季リーグのチーム開幕戦を控える早稲田大。その指揮官の座に就任した小宮山悟監督にチームの現状や目指すものなどを聞いた。



小宮山悟(こみやま・さとる)・・・1965年9月15日生まれ。千葉県柏市出身。芝浦工大柏高から二浪の末、早大に進学。東京六大学リーグ戦通算20勝を挙げて89年にドラフト1位でロッテに入団。制球力の高さが大きな武器で、97年に最優秀防御率のタイトルを獲得するなど活躍。99年オフに横浜に移籍、2002年にFAでMLBのメッツに移籍し1年間プレー。1年間の浪人生活を経て、04年にロッテ復帰し05年の日本一に貢献。2009年限りで現役を引退。日米通算480試合117勝144敗。右投右打。

★「4連覇の頃が理想だというのは訴え続けます」

 1月1日付けで現職に就任し、初のリーグ戦に臨む小宮山監督。現在のチーム状態を聞くと「なんせ初めてなので、何が良いのか悪いのかという基準は分からないのですが思い描いた通りかといえばそうではないです」と言う。

小宮山:物足りなさという点でいうと、欲深くいろんなことをするイメージだったので、試合に出る選手たちの淡々としている様が物足りないと映っています。ただこれは性格で、幼少期からそう育ってきていない選手にそう言っても響かないと思うんです。なので、できることを確実にこなしてくれれば満点。そこに近づけるように工夫して指導しているつもりですが、こればっかりは始めてみないと分かりません。

 以前から小宮山監督は早稲田大野球部の理想とするチーム像を「2002年春〜03年秋の4連覇時の雰囲気」と常々話す。

小宮山:あの頃は全く隙がないチームでした。野村徹監督(当時)のもと「同じ目標に向かって同じ熱量の努力をする」ということが末端に至るまで周知・徹底されていたチームでした。同じような形でチームを作り上げたい希望はありますけど、現状相当厳しいですよ。

 始まってすぐにこんなこと言うのはおかしいけれど、あの境地にたどり着かないと思いますよ。この学生気質を理解したら。でもそこが理想だというのは訴え続けないといけません。そこに向けて何が足りないのかはコチラが判断する。学生たちはとにかく目の前にあることを必死に、できることを確実にこなせば、周りに対して迷惑をかけるということは無くなるはずです。「周りに迷惑をかけない」「人に迷惑をかけない」ことこそがチームワークで最も重要なことなので、それをどう調整するのかということで頭を悩ませています。

★理想とするボビー・バレンタイン氏の姿勢

 NPBのロッテと横浜(現DeNA)で18年、MLBのメッツで1年間プレーした小宮山監督。「強いチームにあって弱いチームに無いもの」を尋ねると、理想の指揮官としてロッテ・メッツで同じユニフォームを着て戦ったボビー・バレンタイン氏の名前を挙げた。

小宮山:これを口にすると歴代の監督に叱られるかもしれないけど、監督の能力の点で言えば「いかに選手をその気にさせるかだけ」だと思います。プロのレベルで試合をするにあたって力の差なんてほんのちょっとですよ。でも力量の差以上の差ってやっぱり気持ちの部分なので、言い方悪いですけど「やる気を失うような言葉を普通に口にするような指導者ではきついでしょ」ってなります。その点、僕が長いこと一緒にやらせてもらったボビーのやり方って本当にすごいなと思って横で見ていましたので、ああいう形で学生にやる気を促すような感じで指示を与えればなと。

 ボビーは技術の指導はほとんどありません。その代わり「チームとしてこういう風にするんだ」っていうチーム方針、そのことについてはやかましく言っていました。さらに言えば責任の所在をはっきりさせて、なおかつ選手に要求する部分で言うと当たり前のことしか要求してないです。失敗を咎めることはないです。ただ「失敗をした上で何が原因でそうなったのか」ってことは明確にはしていました。

 例えばチャンスで凡退しましたって時に、その凡退が仮に見逃し三振だったとしても決して怒ることはありません。そこは「使った方が悪い」と。ただ期待して送り出して、その期待に応えようという気持ちが感じられない場合は怒っていました。でもやる気満々で出てって見逃し三振した選手に対しては決して怒っていなかったですね。

 勝った・負けたの「負けた部分」で叱るっていうのが、日本は正しいという風潮でしょ。決してそうではない。なぜそうなったか理解した上で反省しないといけないんだけど、それと違ったところで目くじらを立てることが多いような気がします。昔から叱ることで自分の地位を保つようなところがあるじゃないですか。それに対して俺は間違っていると思っていて、そういうことがないように心がけてはいますけど、学生がそれをどう捉えるかですよね。

(後編に続く)

インタビュー・構成・写真=高木遊