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プロ野球

中田翔の同点弾に“4番像”を考える。
広島と日本ハム打線最大の違い。

鷲田康=文
photograph by Hideki Sugiyama

打席の中田翔と捕手の石原慶幸が目で追った先には、レフトスタンドに突き刺さる問答無用のホームランの弾道が描かれていた。

打席の中田翔と捕手の石原慶幸が目で追った先には、
レフトスタンドに突き刺さる問答無用のホームランの弾道が描かれていた。

ようやく4番のバットが火を噴いた。
 日本ハムの中田翔だ。
 日本シリーズ第4戦、1点を追う6回。先頭で打席に入ったその初球。広島先発の岡田明丈の甘く入ったスライダーを逃さずにフルスイングした。“打った瞬間”の打球が、一直線でレフトスタンド中段に突き刺さった。
「変化球狙って、投げミスが来ないかな? っと。ぴったりハマった。ラッキー!」
 この一発が布石となり、8回には相手バッテリーが警戒する中で四球を選んで、ブランドン・レアードの決勝ツーランを引き出している。
 4番が4番の働きをすればチームは強い。その証の勝利だった。
 実は日本ハムと広島の大きな違いの1つが、この4番打者の意味だった。
 広島は4番を固定しない、順応のチームである。
 今季のレギュラーシーズンでも新井貴浩の67試合を中心にエクトル・ルナが59試合、松山竜平が15試合、ブラッド・エルドレッドが2試合、合わせて4人の打者が4番を任されている。このシリーズはケガでルナを欠いているため1、2戦が松山、3、4戦が新井と二人の併用で戦ってきた。

■4番で対応力を作る広島、不動の日本ハム。

 おそらく緒方孝市監督も、4番を固定できるに越したことはないはずである。ただ、そういう絶対的なスラッガーがいないことで、広島はチームの顔を変えることができる。相手投手のタイプや本人の調子にチームを順応させて、4番を使い分けてきたのである。1番から3番までが不動で、むしろ4番を変化させることで、悪い流れを断ち切ったり、チームのムードを変えることができるという利点もあるわけだ。
 一方の日本ハムの4番は不動だ。
 レギュラーシーズンでは腰の張りで6月28、29日の西武戦を欠場しただけで、残りの141試合は全て4番で先発出場を果たしてきた。このシリーズでも全試合で4番を任されている。
 広島のように調子が悪いとみれば代役を立てられる柔軟性はない。不動であるがゆえに、中田の調子が上がらなければ、日本ハムの打線はなかなか得点力が上がらなくなる。中田が死ねば、チームも死ぬ。そういうリスクと責任を背負っているのが日本ハムなのである。

■栗山監督「4番は打てる可能性をいつも感じさせる選手」

 シリーズ1、2戦の連敗は、まさに広島バッテリーが4番を殺した結果でもあった。内角の残像を残して踏み込ませず、「単打ならよし。長打を絶対に打たせない」という攻めで主砲の機能を封じた。
 第3戦では8回2死二塁で大谷翔平を敬遠して4番・中田との勝負に出たのが裏目となったが、これも打球そのものは詰まらせて、バッテリーとしては“勝っていた”勝負だったのである。それ以外の1回1死二、三塁は遊ゴロ、4回無死二塁は二飛と6回の打席も三ゴロと“中田封じ”はできていた。
 それでも栗山英樹監督は、不動の4番との心中を覚悟していたのである。
「自分の中での感覚だけど……」
 栗山監督は言う。
「調子が悪くても、球の強い投手がきても、絶対に打てる可能性をいつも感じさせる選手。特別なタイプの投手を打てないというのは(4番としては)ダメ。どんな投手がきても、何とかしてくれる可能性をいつも感じている打者だから。調子が悪くてもバットを振るし、その可能性がないとチームは背負えない」

■「翔平もいい打者だけど、オレの中では脆さを感じている」

 今季は打者としての素質を完全開花させた大谷翔平もいる。39本塁打を放って本塁打王に輝いたレアードもいる。
「もちろん翔平もいい打者だけど、オレの中では脆さを感じている。いつも期待できる選手じゃないと4番は張れない」
 それは中田しかいないと考えているし、その監督の信頼に中田が応えた。それがこの本塁打だったわけだ。
「基本は変わらないですけど、もう一度、洗い直して色々と考えます」
 第4戦の試合後、改めて中田対策を問われた広島の司令塔・石原慶幸の言葉である。
 シリーズ成績は2勝2敗のタイとなった。
 広島はおそらく第5戦か、地元に戻る第6戦でタナキクマルは固定でももう1度、4番をいじってくるはずだ。一方の日本ハムは不動なのは4番の中田翔だけである。
 不動対順応。
 この4番の違いが、シリーズを制することになりそうだ。