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プロ野球

田中正義獲得でドラフトは満点か?
ソフトバンクに潜む“中継ぎ問題”。

田尻耕太郎=文
photograph by Hideki Sugiyama

セットアッパーの森は3年連続50試合以上登板、防御率も2点台をキープした。ただ“勤続疲労”を考えれば、新たな人材を確保する時期だったかもしれない。

セットアッパーの森は3年連続50試合以上登板、防御率も2点台をキープした。
ただ“勤続疲労”を考えれば、新たな人材を確保する時期だったかもしれない。

田中正義がやってくる。

 それだけで今年のホークスのドラフトは「勝ち組」「満点」などという声を随分聞いた。

 田中については今さらココで説明するまでもない、大変素晴らしい素質を持った未来のエース候補だ。そんな彼が入団してくるのだからその評価は分からなくもない。さらに2位以下も、チームの補強ポイントや中長期的展望に見合った指名を行ったように思う。

 2位指名の古谷優人(江陵高・北海道)は最速154キロを誇る楽しみなサウスポーだ。近年、ホークスがドラフト上位で指名した投手は右腕ばかり(’15年1位高橋純平、同2位小澤怜史、’14年1位松本裕樹、’13年1位加治屋蓮、同2位森唯斗)。チームバランスを見ても、圧倒的に若い左腕は足りていなかった。

■3位・九鬼、4位・三森も補強ポイントの野手だった。

 3位指名は今年の春夏甲子園でも活躍した九鬼隆平(秀岳館高・熊本)。チームで4番も務めていた強打の捕手には、’05年の城島健司(元マリナーズ、阪神)退団以来どれだけ補強を繰り返しても正捕手を固めきれないホークスの弱点を埋めるという、大きな期待を込められている。

 4位指名の三森大貴(青森山田高)は身長183cmの長身遊撃手。このポジションには不動のレギュラー今宮健太がいるが、バックアップ要員があまりに手薄だった。さらにセカンドには本多雄一、明石健志、川島慶三といった名前が並ぶが、いずれも30代となった。若手の牧原大成や高田知季がチャンスをつかみ切れていない現状もある。

 指名は以上の4名。支配下ドラフトでは12球団で最も早く「選択終了」の文字が浮かび上がった。

 果たして、それで良かったのだろうか。

 本当に100点ドラフトだったのか、どうも腑に落ちないのである。

 筆者としては即戦力投手(下位なので特に言えば社会人出身か)を指名した方が良かったのではないかと思うわけである。

■3連覇を逃した陰の要因は中継ぎの不安定さだった。

 今年、パ・リーグと日本シリーズの3連覇を逃したホークス。その敗因は様々挙げられている。シーズン終盤に和田毅と柳田悠岐という投打の軸を欠いたのは確かに痛恨だったし、打線はシーズンを通して迫力不足だった。だが、それ以上にずっと気になっていたのは、中継ぎ陣の不安定さだった。

 ホークスの持ち味は強固な勝利の方程式にあったはず。それでなくても、現在のプロ野球では“ブルペンのチカラ”がそのままチーム順位に反映されると言っていいほど重要なポジションを担っている。それが、今季はあまり感じられなかった。

 だから即戦力新人――かといって、その彼が来季のブルペンの屋台骨となるかと言われれば、そんな都合のいい話はないだろう。ましてやドラフト下位である。それでも、ホークス球団には攝津正(’08年5位)、三瀬幸司(’03年7位)といった好例もあった。少なくとも“姿勢”を示してほしかったわけである。

■来季のブルペンは、どのような布陣で臨むのか。

 だが、今さら無いものねだりをしていても仕方がない。では来季のブルペンは、どのような布陣で臨むのだろうか。

 まずは2連覇を果たした昨シーズンと今シーズン、主な救援陣の成績を比較する。(※カッコ内は年齢)

サファテ(35) ’16年 64試合 0勝 7敗 43S 8H 防御率1.88
         ’15年 65試合 5勝 1敗 41S 9H 防御率1.11

五十嵐亮太(37)’16年 33試合 0勝 1敗 7H    防御率3.62
         ’15年 54試合 3勝 1敗 2S 31H 防御率1.38

森唯斗(24)  ’16年 56試合 4勝 3敗 1S 14H 防御率2.98
         ’15年 55試合 5勝 2敗 16H  防御率2.69

バリオス(28) ’16年 11試合 0勝 2敗 3H  防御率7.82
         ’15年 30試合 0勝 2敗 1S 20H 防御率3.18

森福允彦(30) ’16年 50試合 2勝 1敗 16H    防御率2.00
         ’15年 32試合 0勝 2敗 14H    防御率5.82

スアレス(25) ’16年 58試合 2勝 6敗 1S 26H 防御率3.19
         ’15年 ――――――――――――――――――

■守護神は来季もサファテで決まりだが、問題はその前。

 守護神は来季もサファテで決まりだ。

 肝心の中継ぎ陣。新加入だったスアレスを除けば、左腕の森福以外は軒並み成績をダウンさせた。その森福は今季中に取得した国内FA権行使を示唆している。来季の戦力としては不透明だ。

 工藤公康監督の最大の誤算は、実はバリオスの不振だった。昨季はプロ野球タイ記録の17試合連続ホールドをマークした右腕。後半戦は疲れもあって失速したが、指揮官はその経験も踏まえたうえで今季は年間を通してリリーフ陣の軸として活躍することを大いに期待していた。しかし、今季も故障に泣き、さらに投球時にインステップする悪癖が再発し、修正できなかった。10月24日に球団から来季契約しない旨が発表され、ウエーバー公示された。

 その中でスアレスが台頭した。2年前まで母国ベネズエラで建築現場の作業員として生計を立ててアマチュアの草野球でプレーしていた右腕だ。球団は高い将来性を期待しての獲得だったが、結果的には嬉しい誤算となった。クライマックスシリーズ・ファイナルステージでは自己最速の161キロをマーク。仮に守護神のサファテにアクシデントがあった場合は、その穴を埋める一番手となるだろう。しかし、そうなれば中継ぎ陣はますます手薄になる。

■森の不調によって先発の岩嵜と東浜を配置転換した

 一見すれば大きく数字を落としていない森にしても、入団から3年間フル回転している。成績は微妙ながら下降気味で、来季の上積みを求めるのは酷だろう。特に今季終盤は投球内容が悪く、セットアッパーの位置から外されていた。

 代わって起用されたのは先発要員だった岩嵜翔と東浜巨の2人だった。

 10月24日、ホークスはヤフオクドームで秋季練習を開始した。そこで佐藤義則一軍投手チーフコーチ(今季役職・来季組閣は未発表)にその両投手の来季起用法を訊ねてみると、このような答えが返ってきた。

「基本的に2人とも先発として考えているよ。初めからリリーフと決めつけてしまうと、万が一先発が足りなくなった場合に対処できない。今年だって頭数はいると言われたのに、足りない時期があったんだから。それに先発というのは彼らのためでもある。まだ若いし、それだけの力をつけてきた。先発の方が給料も上がる。そもそも投手には『全員先発!』と毎年初めには伝えるようにしている。その中で競争をして、勝ち残れなかった場合は中(リリーフ)をやってもらうかもしれない」

■工藤監督が就任した当初の理想を思い出せるのか。

 調整に関しても、キャンプ時点ならば先発の準備をしながらでもリリーフに対応するのは問題ないという。それについては田之上慶三郎一軍投手コーチ(同)に訊いても同意見だった。

 今ここで、2年前に工藤監督が就任した当初の理想として掲げていた理念を改めて思い出したい。

 指揮官の基本的な考えも「投手は先発を目指すもの」。そして先発投手のレベルアップ、育成のためのひとつのアイデアとして、「先発競争枠」を設けることを挙げていた。先発ローテーション6人のうち、固定して回すのは5人まで。残る1枠は投手陣の競争心をあおるために使うというものだった。

「僕が現役の時もそうでしたが、先発6人をすべて埋めてしまうと、入り込む余地がなくなってしまう。そうなるとリリーフ陣のモチベーションを保つのが難しくなるんです。だから、常に1枠を空けておいて、リリーフで好投した投手をそこに入れていく。そして、先発でチャンスを掴めなかった人をリリーフへ。その投手は悔しいでしょう。ならばまた先発に戻れるように頑張ればいい」

 この理念については監督就任前に自著で記しており、コメントは就任時に聞いたものを再掲したのだが、実際に2年間で実行されることはなかった。理想と現実のギャップもあったのだろう。

 だが、挑戦者となった今、このチームは新しいチャレンジを必要としている。そして、現状のままに来季に臨めば、V奪回の道はより一層険しくなるだろう。岩嵜や東浜がそのまま配置転換となるのか。武田翔太や千賀滉大といった伸び盛りのエース候補たちさえも安泰ではないという刺激を与えるのか。黄金ルーキー田中だって競争に敗れれば……。首脳陣の手腕が大いに試される今オフとなりそうだ。