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大学野球

「習わず、遊びで野球を上手に。より楽しく!」早大野球部が示す新たなカタチ(後編)斎藤佑樹らの思い

 (「BASEBALL GATE」編集部取材記事)
 2019年12月8日、西東京市にある早稲田大の安部球場と軟式野球場で行われた『「あそび場大開放」~現役選手と野球あそびで楽しもう~』(主催は早稲田大学 Hello! WASEDAプレイボールプロジェクト)。

 そこに今年も斎藤佑樹(日本ハム)の姿があった。

【斎藤佑樹(日本ハム)】

【斎藤佑樹(日本ハム)】

★押し付けてはいけない

 前編の記事でも紹介したように、同イベントは野球チームに未所属の小学3年生から6年生が対象。その参加者たちが、指導を受けるのではなく遊びの中で上達し、わずか2時間弱でボール投げの数値が平均にして2メートル、最大で8メートルも伸ばす画期的な試みとなった。

 その中で斎藤も子供たちとの笑顔あふれるふれあいを、次の予定のための引き上げ時間を過ぎるほど楽しんだ。

 群馬県で生まれ育った斎藤の幼少期は、現代の社会課題となっている遊ぶ場所(公園)も相手(兄)も困らなかったという。現代ではそうした場が減少し、娯楽や競技選択も多様化し野球人口は大きく減少している。

【斎藤佑樹】

【子供たちとコミュニケーションをとる斎藤佑樹】

 ただ「楽しいことや遊びの選択肢が多様化しているのは良いこと」とし、「自分がやってきた野球を子供たちに“押し付ける”ことは絶対にしてはいけないことだと思います」と強調する。開会式の挨拶でも「たくさんある遊びから野球をチョイスしてくれてありがとうござます」と参加者に語りかけた。

 イベント開始後もまずはフリスビーやトランポリンを子供たちと興じた。かがんで子供たちと目線を合わせて、コミュニケーションを取った。野球はそれから始まった。

「最初はルールを知らなくてもいいと思います。フリスビーとか柔らかいボールを投げて“あ、野球に似てるな”というところから始めてもいいと思うんです。

その手段をこうして早稲田のグラウンドを開放して与えているだけなので。選ぶのはみんなだし、そのきっかけさえ与えられたらなと」

【斎藤佑樹】

【イベントに参加中の斎藤佑樹(日本ハム)】

★目の前のことから手を組んで一歩ずつ

 こうした行動の裏にはあるのは、「野球が楽しい」と誰よりも感じているからだ。それは今も変わらない。「あらためて野球が好きだという思いが年々強くなってきているからこそ、この活動の意義があるなと感じました」とも話す。自身は中学時代に軟式野球部でプレーしたが、「まずは1回やってみよう」と言って仲間たちを集めたという。

「それで彼らも野球を好きになって、今きっと得をしていることがたくさんあると思うんです。僕も人との出会いなど野球をやってきたことの恩恵がたくさんあって、野球に育ててられてきました」

 そしてそれは目の前の一歩ずつから始まると語る。

「野球界の漠然とした大きなゴールを見るばかりではなかなか進まないので、目の前の楽しいこと・達成感を得てそこに繋がると思います」

 こうして「押し付けずに楽しんでもらう」という姿勢は、「習わずに遊びの中で楽しんで上手くなる」という今回のイベントの趣旨に繋がるものでもある。運営の中心の1人である早稲田大OBの日本ハム・大渕隆スカウト部長も「野球を通じて社会課題に向き合う。そのことを理解して田中浩康(元ヤクルト、DeNA)や斎藤らが来てくれました」と話す。

参加者に挨拶する田中浩康氏

【参加者に挨拶する田中浩康氏】

 また今回は早稲田大のライバル校である慶應義塾大の部員も趣旨に賛同して参加。参加者の1人である投手の小菅真路(2年・市川)は「楽しくて子供の頃を思い出しました」と笑顔で話した後、しみじみと続けた。

「子供たちからチームに入れない理由も聞いて自分は恵まれていたんだなと思いました。僕は公園で楽しみながら野球を覚えることもできました。普段は敵の早稲田ですが、1 人の野球人としてこういうことをしていくことが大切だと感じました」

 わずか数時間のイベントではあったが、堅苦しさや肩に力が入ることが無いやり方で大きな広がりを見せる可能性を感じさせた。

 野球を通じて様々な視野を広げる試みが増えていけば、より良く楽しい充実した生活の一翼を野球が担うこともでき、その価値はよりこれまで以上に高まっていくことだろう。

早慶の部員たちで記念撮影

【早慶の部員たちで記念撮影】

文・写真=高木遊