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現役続行か引退か、悩む楽天生え抜き外野手 戦力外通告に親友が発した言葉


主役として称賛されることは少なかったが、その堅実な守備力と、時に見せる長打力で、チームを何度も救ってきた。楽天・牧田明久外野手。23日に球団から戦力外通告を受け、24日に発表された。2005年から始まった球団の歴史の中で、ただ一人の生え抜き選手が、クリムゾンレッドのユニホームを脱ぐ。

■楽天生え抜き和製大砲が戦力外に、知られざるエピソードと親友・鉄平の言葉

 主役として称賛されることは少なかったが、その堅実な守備力と、時に見せる長打力で、チームを何度も救ってきた。その試合を振り返った時、「そういえば、アイツの活躍も大きかったよね」と思わせてくれる選手だった。楽天・牧田明久外野手。23日に球団から戦力外通告を受け、24日に発表された。2005年から始まった球団の歴史の中で、ただ一人の生え抜き選手が、クリムゾンレッドのユニホームを脱ぐ。

「もっと落ち込むかと思っていましたけどね。覚悟はしていましたから。思ったより普通です。今は」。宣告を受けた翌日、チーム関係者にもあいさつを済ませ、沈む様子もなく口を開いた。

 今季はわずか16試合の出場にとどまった。楽天在籍時では、最少の数字。34歳。「外野手で誰が要らないってなったら、やっぱり僕なんだろうな、と思ってました」。1年間で何千万円もの給料が上がる選手もいれば、華やかな舞台への出場資格を突然失う選手もいる。プロ野球選手にとってはまさに天国と地獄が入り混じる季節だ。

 2000年にドラフト5位で近鉄に入団。近鉄時代は2軍暮らしだったが、分配ドラフトで楽天に行ってから、1軍デビュー。以降徐々に出場機会を伸ばし、2012年には自身最多の123試合に出場した。楽天では貴重な右打者。キャリアハイは2012年の9本塁打だが、筋骨隆々の上半身で見せるスイングの豪快さから和製大砲とも呼ばれ、中軸を担うことも多かった。

■「9番・中堅」で放った本塁打、スコアボードに並んだ名前

 世に牧田という名前が一番広まったのは2013年11月3日、巨人との日本シリーズ第7戦だろう。4回の第2打席で澤村投手から左中間へソロ本塁打を放った。この試合、先発の杉内投手に対して、右打者の中島俊哉外野手、そして牧田のスタメン出場が決まった。左腕対策として抜てきされた牧田だったが、序盤に杉内が降板し、右腕の澤村に代わっても退くことはなかった。そして生まれたホームラン。スライダーをすくい上げ、美しい放物線を描いてスタンドへ届いた。

 実は試合前、田代富雄打撃コーチ(当時)はおとなしい牧田の性格を鑑みて、プレッシャーの少ない「9番・中堅」という案を星野仙一監督に提出した。長打が魅力の男の9番起用。「僕も9番は記憶にないし、ビックリでした」。だがこれが思わぬ副産物をもたらす。9回に、大エースだった田中将大投手が抑えとして登板し、最後を締めた。前日、160球を投げ抜いた男の連投は伝説として語り継がれている。現在も幾度となくテレビ等で流される、スコアボードに田中の名前が点灯するシーン。すぐ上には「牧田」の名前が。「胸を張っていいのかどうかわかりませんが、結果的に名前が残りましたね」と笑った。

 これで、球団創設時を知る選手はチームにいなくなる。ユニホームも完成していない状態で始まった春のキャンプ。まさにドタバタの連続だった。「あの当時のこと、ですか。いろいろありすぎましたからね。今じゃ考えられないようなことが」と回想しつつ、ふと思い出したように続けた。

「僕は最初のうちは2軍暮らしだったんですが、当時の2軍は練習も試合も山形だったんです。あの時はチームバスもまだなくて、みんな各自で移動ですよ。夏くらいに、遠征のバスが出るようにはなりましたが」

■鉄平からの言葉、「だから悩みますよね」

 現在は2軍の練習場は仙台市の泉区。球団事務所のあるKoboスタ宮城からは車で30分ほどだが、車で2時間弱の距離を、それぞれで通っていたという。「当時はお金もそんなに持っていなかったし、ガソリン代もバカにならない」。そんな若かりし頃の“救世主”が仙台~山形間を走る高速バスだった。「1000円くらいで行ける(片道930円、現在)のでそれに乗って球場に行ったりもしていました」と苦笑したが、ムキムキのプロ野球選手が大きいバッグを携えながら公共のバスに乗り込む姿もなかなか見られるものではないだろう。そういう時代も経験しつつ、楽天の歴史を作ってきた。

 今後についてはまさに五分五分。今季、出場は16試合ながら31打数11安打。打率.355。まだまだ体は健在だ。だが、仙台に来て10年が過ぎ、家族ができ、2人の愛娘もここで大きくなった。「もし、次の場所が見つかったとしたら単身赴任になる。家族との時間を大事にしたいという気持ちも自分の中で大きいですし……」。

 引退という可能性も頭の中に当然ある。戦力外通告を受けたその夜、元同僚の鉄平(現・楽天ジュニアコーチ)から言われた。「今辞めるのはもったいない」。同い年で、今年、現役を引退した親友の一言。「鉄平がそう言うとは思わなかった。ほかにも、まだやれると言ってくれる人もいます。だから悩みますよね。みんなが『辞めたら?』って言ってくれたら、スパッと辞められるのに」。冗談交じりに胸中を明かした。

 11月半ばに行われるトライアウト。それまでには、結論を出すことになるだろう。「しっかり考えて、悔いのない答えを出します」。ひとまず、生え抜きとして支えてきた楽天の選手生活は終わった。次のステージへ、悩める日々は、もう少し続きそうだ。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

【了】

「パ・リーグ インサイト」編集部

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