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高校野球

明徳義塾が星稜との27年ぶり対決を制して初戦突破。馬淵監督の強行策実る【11/15 第五十回記念明治神宮野球大会・高校の部1回戦 明徳義塾vs星稜】

 明徳義塾と星稜が公式戦で対戦するのは27年ぶり。前回対戦は1992年の選手権大会であの「松井秀喜の5打席連続敬遠」があった試合だ。このカードはそんな因縁から、ファンの関心が高まっていた。
8-5と明徳義塾の勝利で終わった試合後、両監督は清々しい顔で記者たちの前に現れた。1992年夏は2番ショートとして出場していた星稜高・林和成監督は、試合をこう振り返る。

「馬淵さんと試合ができることは、喜びでしかなかった。采配の差を見たかなと思います。馬淵監督もロースコアと仰いながら、序盤から攻めの姿勢が見えました」

 明徳義塾高・馬淵史郎監督はまず2回無死1塁の場面で、5番・新澤颯真にエンドランのサインを送った。これは失敗したものの、4回無死1塁の場面で、3番・鈴木大照に強打を指示。チャンスを広げてこの回の4得点につなげた。

 明徳打線は二巡目に入り、星稜の先発右腕・荻原吟哉を捉えた。馬淵監督は選手に送った指示をこう明かす。
「変化球ピッチャーだと分かったので、ツーシームとスライダーの低めのボールを見逃せば対応できるのではないかと。変化球を打ってもいいけど、ベルトより上を打てと伝えた。鈴木のホームランはスライダーの抜け球ですね」

 明徳義塾は5回には一死一、三塁から鈴木大照が3ラン本塁打を放つ。4回4得点、5回3得点と集中打でビッグイニングを作ったことが勝因だった。

3ラン本塁打を放った鈴木

3ラン本塁打を放った鈴木

馬淵監督は試合前から「強攻策」を想定していたという。
「チャンスで畳み掛けるような攻撃が出来ないとなかなか全国大会は勝てない。バントとかスクイズは使わないつもりだった」
明徳義塾はそもそも鍛え抜かれた嫌らしい野球を売りにしてきたチーム。その彼らが小技を使わないのは少し不思議にも思える。

指揮官はこう説明する。
「明徳は1アウトでもランナーを送って、スクイズのチャンスがあったら2ナッシングからでもやる野球でした。今でも練習ではそれをやっている。でも年をとったせいか、最近は限界も感じましてね。甲子園で勝つためにはビッグイニングを作らないといけないし、負けるときは相手にビッグイニングを作られている。明徳がもう一段二段上へ上がるには、そう言ったところが必要なんじゃか。ということで、去年からウエイトトレーニングの器具を学校に買っていただいて、ウエイトトレーニングをやらせて、食トレもやっている。やっている以上は全国大会で試してみないといけない」

27年前も指揮していた馬淵監督にまたも軍配が上がった

27年前も指揮していた馬淵監督にまたも軍配が上がった

 明徳義塾は今秋の四国王者として、来春の選抜大会出場を確実なものとしている。そういう「余裕」があるからこその采配であろう。馬淵監督が小技を全否定しているわけでもない。

「終盤のダメ押しのスクイズなんかはありでしょう。でも前半中盤だったら畳み掛けていくべきですよね。そういった部分でああいう結果が出たのは良かったと思います。でも小技と大技と選択肢が多くないとね」
小技があるから大技が効き、大技があるから小技が効く。四国の名将はそんな「相関関係」も口にする。

「向こうは『小技があるんじゃないか』とウエスト気味のボールを要求したりする。そうなるとカウントが悪くなる。カウントが悪くなったらストライクを取りに来る。ウチらもそうですけど、小技を警戒してカウントを悪くして、ガツーンと歌われるのが監督として辛いわけですよ」
27年前も今も、高校野球の人気は変わらない。しかしその中身は進化していく。馬淵監督のようなベテランも、新しいチャレンジをしている。
「僕も来週64歳になるけれど、野球ってまだ色々勉強せなアカンのでしょうね」

 パワフルな強打で畳み掛けて、大量得点を奪う。そんな明徳義塾と馬淵監督の「令和バージョン」が見えた一戦だった。

■1回戦:明徳義塾高vs星陵高
明徳義塾高 000431000=8
星稜高   001020011=5 
【星】●荻原、野口、安土―内山
【明】◯新地―鈴木
本塁打:明徳義塾・鈴木(5回3ラン)、星稜・倉知(8回ソロ)

文=大島和人
写真=馬場遼