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ガラパゴス化が進む日本球界のツーシーム【NISSAN BASEBALL LAB】

山崎康晃(DeNA)

【写真提供=共同通信】

 

 「ツーシーム」と聞いて、どんなボールをイメージするだろうか。一般的なツーシームは、2本の指を縫い目に沿わせた握りで投げ、球速はストレートとほぼ変わらず、利き手側に小さく変化するボールだ。

 略さずに言えば「ツーシーム・ファストボール(two-seam fastball)」で、回転時に縫い目(seam)が2本(two)見える速球(fastball)であることから、この名がついている。なお、日本で旧来「シュート」と呼ばれてきたボールとは、同一と解釈して差し支えない。

 では、「ツーシームを投げる現役投手」で真っ先に連想するのは誰だろう。これは勝手な予想だが、おそらく山崎康晃(DeNA)を挙げる人はかなり多いのではないだろうか。入団から5年間で163セーブを積み上げた守護神にとって、ツーシームは絶対的な決め球であり、代名詞的存在といっても過言ではないからだ。

 ただし、山崎が投じるのは、上述した一般的なツーシームではない。2本の指を縫い目よりもやや広げた握りで、球速はストレートより8~9キロほど遅く、縦に鋭く変化するボールだ。

 この球は亜細亜大の先輩である東浜巨(ソフトバンク)から伝授されたもので、当時はツーシームとして教わったため、現在もツーシームと呼び続けているという。亜細亜大出身者では、九里亜蓮、薮田和樹(ともに広島)、高橋遥人(阪神)、中村稔弥(ロッテ)らも同様の球種を持つことから、このボールを「亜大ツーシーム」と呼ぶ向きもある。

■ツーシームのトレンドは低速化?

ストレートとツーシームの平均球速01_図1

ストレートとツーシームの平均球速01_図1

 亜細亜大出身者に代表される、特殊なツーシームを投げる投手は、ここ数年でにわかに増えている。図1に直近5年のNPBにおけるストレートとツーシームの平均球速を示したが、ストレートが一貫して高速化しているのに対し、ツーシームは2017年から低速化しているのだ。2016年には0.9キロしかなかったストレートとの球速差も、今季は3.1キロまで広がっている。

 なお、データスタジアムではほぼ例外なく、球種名は「その投手が何と呼んでいるか」を基準に設定している。山本由伸(オリックス)や美馬学(楽天)のように「シュート」と呼んでいる投手や、シュート系の球を投げているが「ツーシーム」と呼んでいることが確認できない投手は、図1も含めて今回の分析対象からあえて外した。また、外国人が言う「シンカー」は例外的に「ツーシーム」として扱っていることも留意されたい。

02_図2

 話を本筋に戻そう。図2は、直近5年ののべ257投手を対象に、ストレートとツーシームの平均球速を散布図にしたものだ。これを見ると、おおむね「ストレートが速ければツーシームも同じくらい速い」という関係と、一連の集団から離れたプロットの点在が読み取れる。この右下に位置する投手たちが、特殊なツーシームの使い手だ。

 普通のツーシームと特殊なツーシームに明確な境界線はないため、今回は「ストレートとの平均球速差が5キロ」で両者を区切った。ストレートより5キロ以上遅いのが特殊なツーシーム、それより速いのが普通のツーシームである。特殊なツーシームに関しては、今や亜細亜大にゆかりのない使い手も多いことと、データスタジアムでは専らそう呼ばれていることから、暫定的に「挟みツーシーム」と名付けた。以降は、この分類に基づいて話を進めていく。

■挟みツーシームは縦の変化球

03_図3

 挟みツーシームが普通のツーシームと異なる点に、使い方の違いが挙げられる。図3は、図2にある投手が実際にツーシームを投じたゾーンを、ヒートマップで表したものだ。色が赤いほど、そのゾーンに多くの球が投げられていたことを意味する。

 普通のツーシームは、投手の利き手側のコースに、赤いゾーンが縦に伸びている。冒頭で述べた通り、ツーシームは利き手側に変化するボールであるから、ストライクゾーンからボールゾーンに逃げていく、あるいは食い込んでいく軌道の、「横の変化球」としての使い方が主であることが分かる。

 それに対し、挟みツーシームは低めのボールゾーンに投球の多くが集まっている。ストライクゾーン低めからボールゾーンに落として空振りを誘う、「縦の変化球」と同様の使い方をされているのだ。

04_図4

 投球の結果を見ると、特に大きな差が出たのが奪空振り率だ。普通のツーシームは変化が小さいこともあり、他の球種と比べても空振りを奪いにくいのに対し、挟みツーシームはシンカーやチェンジアップといった縦変化のボールと比べても、遜色ない数値を残している(図4)。軌道や使い方、性質などを鑑みても、やはり「挟みツーシームは縦の変化球」という認識が実態に即している。

■挟みツーシームをどう扱うべきか

05_表1

 挟みツーシームは、今後も勢力を増していくだろう。というのも、今季の挟みツーシームの使い手を見ると、プロ3年目以内の投手が半数以上を占めるからだ(表1)。特に、2018年のドラフトで入団したルーキーは、実に5人も名を連ねている。今年のドラフトでも、巨人に2位指名された太田龍(JR東日本)らが挟みツーシームを投げており、このトレンドはしばらく続くものと思われる。

 最後に、この挟みツーシームというボールをどう扱うべきかを考えたい。おそらく、世間的には「本人がツーシームと言っているからツーシーム」という解釈が一般的であり、データスタジアムも同じスタンスである。ただ、明らかにツーシームと性質が異なる球種をツーシームに分類することで、多少の不都合が生じるのも事実だ。将来的には、ツーシームのデータに何らかの処理を施す必要が出てくる可能性も考えられる。

 また、この球をツーシームと呼ぶことで、球種が誤って理解されかねないという意見もある。昨年8月13日号の『週刊ベースボール』で、菅野智之(巨人)は自身のコラムにこうつづっている。「投げている本人がツーシームだと言えば、ツーシームなのかもしれないですが、フォークの握りでフォークを投げているのに『ツーシーム』と言うのはどうでしょう」「そういった誤用も、ファストボールの考えが正しく浸透していくことを妨げているように感じています」。結果的に誤解を助長している立場としては耳が痛いところもあるが、球界の発展という大局的な視点で見れば、確かに正していくべき部分なのかもしれない。

 球種名には、投手の感性やこだわりが色濃く反映されることもある。とはいえ、見た目と名前が一致するに越したことはないだろう。もちろん、最終的には投手の自由なのだが、なるべくなら一般的な球種の定義から逸脱し過ぎない範囲で呼んでいただけると、ありがたい限りである。

※データは2019年10月22日時点

文:データスタジアム株式会社 佐藤 優太