- 大学野球
2017.06.06 21:40
今年も共鳴した「全員全力野球」の志。上武大が福井工業大との激闘を制し8強入り【全日本大学野球選手権】
★全力応援と全力疾走を貫いた両校
昨年の2回戦でも対戦し、延長10回タイブレークになっていた上武大と福井工業大の一戦は今年も延長戦にもつれ込んだが、上武大が5対4で昨年(3対2)に続いて競り勝ち、準々決勝進出を決めた。
上武大が日本一となった2013年に対戦した際には、8対1の7回コールドで上武大が大勝していた。この時、上武大の全力応援や全力疾走に刺激を受けた福井工業大の選手たちは上武大を目標にした泥くさく、部員全員で戦う気持ちをよりいっそう強くした。
だからこそ似たカラーのチームができあがり、その志が共鳴する好ゲームが2年続けて展開された。
「途中までは力の差を感じましたが、よく食らいついてくれました」と福井工業大の下野博樹監督が振り返ったように、上武大が田中悠太郎内野手(4年・大冠)のレフトスタンドに飛び込む本塁打などで6回までに3点をリードした。
だが7回裏、福井工業大はここまで5安打に抑えられてきた上武大の先発・宮川哲投手(4年・東海大山形)を捕らえ、連打と4番・芳野了哉内野手(3年・日本航空石川)の2点タイムリーで一気に1点差まで詰め寄る。
さらに8回裏には上武大の2番手・西村雅暉投手(2年・熊本国府)から安打と四球で二死一、二塁のチャンスを作ると、1番・樋口拓真外野手(4年・九州国際大附)が、この日3本目の安打をセンター前に放ち、ついに同点に追いついた。
9回表は6回途中から好救援していた左腕・近藤洸投手(4年・福井工大福井)が上武大打線を抑え、サヨナラ勝ちに向けてチームに勢いをもたらす。だが、上武大の西村も怯むことなく、その裏を三者連続三振に抑え、試合は一死満塁から始まる延長タイブレークに突入した。
迎えた10回表、上武大の谷口英規定監督が「本人も周囲も“鳥巣から”と言っていましたので」と、選択打順で3番の主将・鳥巣誉義内野手(4年・久留米商)を送り出した。そして鳥巣は1ストライクからの2球目を逆方向のレフト前に運び、三塁走者と二塁走者の島田海吏外野手(4年・九州学院)が俊足を飛ばして生還。2点を勝ち越した。それでもここから登板した山本凌投手(3年・敦賀工)が後続を抑え、追加点を許さなかった。
10回裏、福井工業大は上武大の左腕・寺沢星耶投手(3年・佐久長聖)から樋口が懸命の走りで内野安打とし1点差としたが、続く2人の打者を浅いセンターフライとファウルフライに打ち取られて試合終了。上武大が1点差で何とか競り勝った。
試合後、勝った上武大の谷口監督は「地方大学が中央でどうにかして名を残していこうという意味では似ているチームだと思います。その気持ち同士がぶつかると、こういう試合になりますよね」と振り返った。また本塁打を放った田中は「チームのモットーである何事にも全力で取り組むことが、間違いではなかったと感じました」としみじみと話した。
一方、敗れた福井工業大は、またも厚い上武大の壁に阻まれた。2度のダイビングキャッチで救った樋口は、その際に肩を脱臼しながらも、なんとか骨を戻して出場を続けて同点打を放った。主将の井坂太地内野手(4年・明徳義塾)は膝が万全でない中で最後までチームを牽引し、試合終了の挨拶後は「いい試合したよ。胸張って福井に帰ろう」と選手たちに呼びかけ、その後に堪えていた大粒の涙を流した。
下野監督は「エースの谷崎を怪我で欠く中、選手たちはよく頑張ってくれました。私自身が鍛え直さないといけないですね。(この春で引退する)4年生が残してくれたものを3年生以下が生かして欲しい。泥くさい気合いと根性のチームですから」と悔しさを滲ませながらも、雪辱を誓った。
両校ともに試合に出ていないベンチや応援席の部員たちも全力で戦い抜いた。学生野球の素晴らしさを体現した一戦で、勝利をもぎ取った上武大は敗れた福井工業大の志も背負い、2度目の日本一を愚直に狙っていく。
★2回戦・上武大vs福井工業大
上武大 1100100002=5
福井工業大 0000002101=4
(延長10回タイブレーク)
【上】宮川(哲)、◯西村、寺沢—吉田
【工】山本(利)、上田、加藤、●近藤、山本(凌)−鈴木、神谷
本塁打:上武大・田中《2回ソロ》
文・写真=高木遊