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球速比率で見るスライダーの性質【NISSAN BASEBALL LAB】

【写真提供=共同通信】

 

■最も投げられている変化球

 言うまでもなく投球の基本は全投球の約半数を占めるストレートだ。しかし、投手はストレートだけで抑えることは難しく、ありとあらゆる球種を駆使して打者を打ち取りにかかる。そんな中で最も多くの投手が投げる変化球がスライダーだ。

 今季NPBで一軍のマウンドに上がった347人のうち、約90%にあたる305人が投じており、ストレートを除くと最も投球割合の高い球種となっている。では、スライダーには一体どのような特徴があるのだろうか。今回はスライダーの球速に着目し、それぞれの性質を探っていきたい。

■ストレートが速いほどスライダーも速い

 まず、スライダーはどのような球種なのだろうか。そこで、今季のNPBでストレートとスライダーをそれぞれ100球以上投げた143投手を対象に、ストレートとスライダーの平均球速を散布図にしたのが図1だ。

 横軸にストレートの平均球速、縦軸にスライダーの平均球速を示している。これを見ると、基本的にストレートとスライダーの球速には相関関係があり、ストレートが速い投手はスライダーも速いことが分かる。しかし、美馬学(楽天)と玉井大翔(日本ハム)のように、ストレートの平均が140キロ台中盤と同程度であっても、スライダーの平均が約20キロ異なるケースが見受けられるなど、例外もあるようだ。

■スライダーは速いほどゴロになりやすい

 では、それぞれのスライダーにはどのような特徴があるのだろうか。スライダーの性質を分類するため、2010~19年のデータを対象に年度、投手ごとのスライダー球速をストレート平均球速で割った値をスライダーの球速比率とし、1%ごとに区分けする。球速そのものではなく、ストレートとの球速比率を用いたのは、スライダーの性質をより適切に分類するためである。

 そこで、スライダーの球速比率ごとにストライク・ボール別のスイング率を示したのが図2だ。これを見ると、スライダーの球速比率が上がるにつれ、スイング率は上昇していることが分かる。つまり、速いタイプのスライダーほど打者はスイングを仕掛けてくるということだ。

一般的にバッターはストレートに合わせてタイミングを取ることが多いため、速い球に手を出す傾向があるのかもしれない。

 次に打者がスイングし、バットにボールが当たった場合の打球に着目したい。

 先ほどと同じ条件で打球の性質を見ると、ゴロ割合は球速比率88%台が最も低く、それ以上になると右肩上がりに上昇していることが分かる。スライダーは一定の水準を超えれば、速ければ速いほどゴロになりやすいようだ。ゴロはフライよりも凡打になりやすく、長打になる確率も極めて低いため、投手にとっては安全な打球といえる。

 つまり、ストレートとの球速差が少ないスライダーは、インプレー打球になったとしても、痛打されるリスクが比較的低い球と考えられるだろう。

■スライダーが高速化するDeNA投手陣

 そんな中で年々スライダーの球速比率が上昇しているチームがDeNAである。16年に127.3キロだったスライダーの平均球速が、今季は132.4キロと大幅に上がっており、ストレートとの球速比率90.9%は、12球団で最も高い数値だ。特に左投手の球速アップが顕著で、今季のスライダーは平均134.2キロと昨季から実に5.5キロの上昇を見せており、球速比率も2.7%アップしている。

 個別に見ていくと、今永昇太、濵口遥大の球速上昇が著しい。今永は2年目の17年からスライダーの球速が上がり始め、今季はスライダーを100球以上投げた日本人の左投手でNPBトップとなる平均136.9キロを計測するなど、ストレートとの球速比率93.4%を記録。濵口に至っては、今季のスライダー平均球速が134.9キロとルーキーイヤーの17年から約15キロアップしており、球速比率95.5%はストレートとスライダーをそれぞれ100球以上投げたNPBの投手で最も高い数値だ。軌道もカーブに近い軌道からカットボールのような軌道に変わるなど、別の性質を持つ球となっている。17年12月の報道によると、濵口は今永の速いスライダーを参考にしたようで、「速い変化球を覚えたい。スライダーとカットボールの中間のようなスラッターです」とスライダーの改良に取り組んだようだ。

 では、彼らの高速スライダーはどのように機能しているのだろうか。両投手のスライダーゴロ割合を示したのが図6だ。濵口のスライダーはもともとゴロになりやすい性質を持っていたが、今季は69.6%とさらに上昇しており、これはスライダーを200球以上投げたNPBの投手で最も高い数値となっている。今永もルーキーイヤーの16年はゴロ割合が37.0%と平均以下だったものの、今季は52.1%に改善。打球がフライになりやすい今永にとって、ストレートと同じ軌道から微妙に変化させてゴロを打たせることのできる高速スライダーは非常に有効で、長打のリスクを軽減させる球種として欠かせない存在となっている。

■高速スライダーが球界のトレンドに?

 今回はさまざまなスライダーの中で速いタイプに焦点を当てた。高速スライダーはカーショー、シャーザー、バーランダーらメジャーを代表する投手も操る球だ。NPBでも今永のように速いスライダーを有効に使う投手が出現し、それに影響を受けた濵口が取り入れるなど、DeNAで高速スライダーが流行し始めている。投手によって特徴の異なるスライダーだが、近い将来に速いスライダーが球界のトレンドとなる時代が来るかもしれない。

※データは2019年9月8日時点

文:データスタジアム株式会社 山内 優太