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高校野球

普通の高校・国学院久我山 勝利と大敗で得た主体性を未来へ【第101回全国高校野球選手権大会第8日】

国学院久我山の選手が整列した写真【写真提供=共同通信】

【写真提供=共同通信】国学院久我山―敦賀気比 敦賀気比に敗れ、応援席にあいさつする国学院久我山ナイン=甲子園

「一本、出せよ」

 国学院久我山の応援曲の中で特別な曲がある。野球部の間では「一本」と言われているオリジナル曲だ。これが流れると何かが起こって点が入る、選手を後押しする曲だ。

「すごい声援が大きくて〝一本〟が聞こえてきて勇気をもらいました」

 背番号18の控え選手、須田旭(3年)は9回、代打に出て、「一本」をバックにタイムリー二塁打を放った。

 日大三、東海大菅生、二松學舍大学附など、これらは東京代表の高校だ。誤解を恐れずにいうなら、西東京代表の国学院久我山は、「一本」だけではなく、東京の代表校とは一線を画した学校だ。

「うちは普通の高校なんです。それが、甲子園という舞台まで来たんです」

 樋口晃部長はそう、言う。

 普通の学校の国学院久我山にあって、他の代表校と違う事情。例えば練習時間に関して。

「4時頃から6時半ぐらいまで。準備と片付けがありますから正味2時間です。グラウンドはサッカー部と共有で、全面を使ってのバッティング練習は月曜日だけ。木曜日はサッカー部に全面を使ってもらうため、こちらはケアをしたり休養に充てます」と樋口部長が話す。

 途中出場した内山澟外野手(1年)も言う。

「レフトの奥では強豪のサッカー部が練習しているので、ライト一ヶ所で外野は集まってノックを受けます。練習時間は短いのでダラダラしてる暇はありません」

 そして最近は上位の進学実績を残しているのも特色の一つ。そこに野球部も含まれる。

 内山と岡田和也右翼手(3年)が言葉を合わせる。

「久我山は文武両道ということで入りました」

 特進クラスは国立のトップ級の大学や最上位私立を目指すクラスで、エースの高下耀介(3年)を含め、ベンチ入りメンバーの中の数人も籍を置く。

 特進クラスだけではなく、他のクラスの生徒も大学進学を目標にする。野球部の約半数はスポーツクラスだが、テストをすると、上位に入る子が少なくないと、樋口部長が胸を張る。

 だが、進学校ではあるけれど、勉強を強制することはないそうだ。

 部長が続ける。

「本人たちの自覚と目標設定に尽きる。甲子園期間中も、全く勉強しなさいとは言ってない。やりたいものができる時間でやれば良いというスタンスです」

「勉強のできる子はスポーツもできると思います」と部長は言うが、見事に合わせ技を編み出したエピソードを須田旭(3年)外野手が話してくれた。

「ボールをよく見ることと、精神統一の効果があると聞いて打席に立つ前に速読の本を読んでいます。もともとは現代文の問題を速く解くことや集中力をあげるために、買った本なんです。効果があると思います」

 須田は最終回、代打に起用されて、タイムリー二塁打を放った。

 これらの特徴は何を生み出したか。尾崎直輝監督が言う。

「限られた時間の中でメリハリをつけてやってきた。練習試合も勝ちにこだわってきたし、練習もテーマを設けてやった。無駄な練習試合もなかったし、自ら考えてやってきた分、主体性が残ってくれた」

 つまり自主性重視の学校なのだ。

 それはチーム作りにも現れる。尾崎監督が続ける。

「自分達がチーム作りをしているんだ、と良い意識を持たせてきた。自分がどうなりたいのか、良い所を繋げようよ、と」

 そこから生まれた個性が集まって、西東京を勝ち抜き、1回戦、優勝経験のある前橋育英を破った。

 笑顔の絶えない明るいチームだった。

「練習中も食事中も会話が絶えない」(尾崎監督)という。その監督も点が入ると、ベンチ内でいちばん、派手なガッツポーズをしていた。

 でも、敦賀気比の凄まじい打棒は止められなかった。

 1回表、1番打者と2番打者の打球はセンターへの糸を引くようなライナー。アウトになったが、捉えられていた。2死から怒涛の5連打で3点先制。

 高下はインタビューでうなだれた。

「1、2番に良い当たりをされて気付くべきでした。簡単に打ち返されて対策ができなかった。打たれて、情けなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 3対19。明るいチームもショッキングな時間だったに違いない。

 ゲーム後のインタビューで尾崎監督は須田ら3年生がよくやってくれた、と涙ぐみながら感謝を告げる。

「最終回、3年生に力を出そうぜ、と送りだしました。常にベンチで準備できてます、と須田も結果を出しました。問矢(大雅・3年)は投げる機会が少ないのに、いつもブルペンで用意していた。斎藤(栄紀・3年)も岡田も真っ先にチームを優先して動く。技術以上に素晴らしい部分です。

 1回戦は良い所が出た。2回戦はうまくいかない所を突きつけられた。彼らと共に歴史を塗り替えようと言ってきて、一つ一つ、クリアしてきた。まだこの先も、何度でも校歌を歌えるチームにしないといけない」

 監督の印象深い言葉がある。

「過去は消せないものです。エラーは出るものだから、してこい、と。次に繋がれば良いんです」

 そう、大敗の過去も消えない。それを未来に繋げよう。

文・清水岳志