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丸佳浩 同一リーグFA移籍のインパクト【NISSAN BASEBALL LAB】

丸佳浩選手

写真提供:共同通信

  

■首位・巨人の貢献者

 8月に入り、ペナントレースは勝負の夏場を迎えた。セ・リーグの首位を走るのは巨人。各チームが派手な連勝、連敗を繰り返す中で安定した戦いぶりを続け、7月の中盤には6割を超える勝率を記録してペナント争いをリードしている。

 DeNAや広島が猛烈な追い上げを見せるなど予断を許さないが、5年ぶりのリーグ制覇に向けて着実に歩を進めている状況だ。

 ここまでの巨人の戦いの中で最も目立っているのが坂本勇人だろう。今季はキャリアハイのペースで本塁打を量産し、リーグの本塁打王、打点王の二冠が視野に入る活躍。投に目を向けると移籍3年目を迎えた山口俊がリーグ最速で10勝をマークし、不調に苦しむ菅野智之に代わってローテーションの柱となっている。

 もし巨人がこのままリーグを制覇した暁には、2人はMVPの有力な候補となるだろう(編集部注・山口は8月1日に右ひじの張りで登録抹消)。

 そして坂本や山口に劣らない働きを見せているのが丸佳浩だ。昨オフに広島からFA移籍した丸は、打っては3番打者、守っては中堅手としてチームに貢献。打撃、守備、走塁などさまざまな角度から選手を評価するWARという指標では、坂本に次ぐチーム2位の4.5を記録(表1)。

 この数字は控えクラスの選手と比較して、4.5勝のプラスをチームにもたらしたということを示している。今季の巨人が丸を獲得できず控えクラスの選手しか用意できなかったと仮定した場合、現在の貯金13(52勝39敗1分)が貯金4前後まで減っていた可能性がある、といえばその価値の大きさが分かるのではないだろうか。

■牙を削ぎ、己の牙に

 2年連続MVPに輝いているトップクラスの選手である以上、今季の丸個人の活躍は驚くほどのものではないのかもしれない。ただ、少し切り口を変えて昨季のチーム状況を踏まえると、丸の果たしている貢献の意味合いは少し変わる。

 図1、2は打撃(wRAA)、守備(UZR)の両面でそれぞれのポジションのリーグ平均と比較して得点貢献、あるいは失点阻止に貢献できたかを表している。相対的に見て、チームのどのポジションに強みがあり、弱みを抱えているのかを把握することができる。

 2018年の巨人(図1)は主に遊撃手のポジション、すなわち坂本の活躍で多くのプラスを生み出していた。そして攻撃面、守備面のいずれもリーグ平均以下で、総合して最もマイナスの大きいポジションが中堅手だった。

 そして2019年(図2)、チームのプラスを生んでいるのが遊撃手と中堅手。12球団でも最高クラスの中堅手である丸の獲得は、チームのウイークポイントを埋める最善の一手となっている。

 補強による戦力向上だけでなく、最大のライバルである移籍元の広島に与えたダメージも大きい。昨季の広島の最大の強みは、丸が守る中堅手だった(図3)。打撃だけでポジションのリーグ平均よりも60点多く生み出しており、当然ではあるが替えのきかない選手だった。

 今季は野間峻祥などの若手を中心に丸の穴埋めを図ったものの、ここまで攻守ともにリーグ平均に満たない水準にとどまる。遊撃手の田中広輔、左翼手の松山竜平らの不振などさまざまな想定外はあったものの、今季の戦いぶりが安定しない最大の要因は丸退団による影響と考えられる。

 スポーツの世界にifはないが、もし丸が今季も広島でプレーしていたら、巨人と広島の現在の順位は逆転していたとしても不思議ではない。

■予算との兼ね合い

 大きな痛みを伴う丸の移籍だったが、広島のフロントサイドからすると放出を容認せざるを得ない事情もある。この10年で、選手に支払う年俸の総額は10億円以上増加した(表3)。かつて広島は12球団で最も総年俸の低いチームだったが、黒田博樹の復帰を契機として12球団でも中位を行き来する規模の額となっている。

 リーグ3連覇への功労者たちへの支払いがかさんだこともあって、これまで持たれていた「清貧」の印象とはそぐわなくなってきている。予算を抑えつつ、丸を口説こうとする他球団と渡り合える金額を用意することは難しかった。

 丸の後を追うように、3連覇の中心選手たちのFA権の取得が続く(表4)。今季中に国内FA権を取得したのは菊池涼介、野村祐輔、會澤翼の3選手で、菊池はポスティングによるメジャー挑戦の可能性も報じられている。来季には田中広輔も国内FA権を取得する見込みで、すべての選手と契約を更新するためには相応のコストが求められる。平成の最後に黄金時代を築いた広島に、過渡期が訪れようとしている。

※データは2019年7月29日時点

文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉