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プロ野球

野球好きライター✕野球そうでもないライター対談 「どうして野球を観なくなっちゃったの?」

WBCが盛り上がる一方で、近年、野球人口の減少や奮わないプロ野球中継の視聴率、放送機会の減少へによる野球人気低下の危機感が叫ばれているが、議論はなかなか野球ファンの外まで広がらない。

そこで今回、野球に人生を捧げてきたベテラン野球好きライターの田澤健一郎と、野球が好きかと言われたらさほどでもない若手ライターの朽木誠一郎が本音で対談。「野球に興味がない人が、野球をどのように見ているか?」という視点から、野球人気復活、新たなファン獲得のヒントを探ってみた。

田澤健一郎(写真右):1975年生まれ。編集・ライター歴17年の元高校球児。
朽木誠一郎(写真左):1986年生まれ。ライター歴は4年。大学まで12年間以上、陸上競技をしていた。

田澤:ということで、本日はよろしくお願いいたします。あれ、浮かない顔をしているね。

朽木:そりゃそうですよ! 「野球ファンの方々が集まる媒体」で「野球を観なくなった理由を語る」なんて、ものすごい苦行じゃないですか!

田澤:わはは(笑)。まあまあ、それが野球業界のためになればいいじゃないか。朽木くんはそもそも、野球のテレビ中継は観ていたの?

朽木:スポーツ全般が好きなので、観ていました。実家にいた頃までだから、10年くらい前でしょうか。ヤクルトスワローズが好きで、古田敦也さんのファンでした。リアルタイムで「代打オレ」を観ましたよ。あれは興奮したなぁ。

田澤:でも、観なくなっちゃったわけだよね。

朽木:まあ、そうですね……。

田澤:たしか、学生時代は本格的な運動部だよね。当時、野球にはどんな思い出がある?

朽木:あー、それで言うと、非野球部としては、「なんで野球だけ特別なんだろう」とは思っていましたね。高校の野球応援とか全校生徒で行くじゃないですか。それに、うちの高校の野球部はグラウンドの使い方が荒くて、よく陸上部がトンボでならしてたなぁ……。

田澤:うん、「野球が特別」という校内の雰囲気はあったよね。スポーツ全般が好きな朽木くんでも、それには違和感があったわけだ。

朽木:公平じゃない感じはしていました。特に陸上競技は基本的にマイナースポーツだと思われているフシがあるので。

田澤:ある意味で、昔の野球を取り巻く雰囲気が虚像だったとも言えるね。でも、そこにはちょっとだけ突っ込みたくて。朽木くんの出身高校は?

朽木:えっと、水戸一(水戸第一高校)です。

田澤:なるほど。地方の公立の名門校だね。一方、現在は野球強豪校というわけではない。実は、高校野球の強豪校では、グラウンドは他の運動部と共用じゃなくて、専用の球場やグラウンドがあるケースも多いんだ。

朽木:じゃあ、うちの高校で野球部がグラウンドで威張っていたのって、そもそもおかしな話なんですね。あれ、でもなんで水戸一のことをご存じで……?

田澤:そりゃあ、野球好きライター、特にアマチュアが好きな人間は、全国の野球部のある高校の情報はだいたい頭に入っているからね。有名選手については選手のお母さんのインタビューまで読んでいたりするから。

朽木:ヒッ。

田澤:そういう意味では奇遇なもので、朽木くんの通っていた高校は「日本の学生野球の父」と言われる飛田穂洲先生の母校なんだよね。

朽木:あっ、聞いたことがあるような。

田澤:飛田先生の「野球道」という考え方が、日本野球の価値観、あるいは功罪を作り上げた一因とも考えられるけど……それはまあ長くなるから今回はいいや。最近はどう? 野球はまったく観ない?

朽木:えーっと、つば九郎の“畜生ぶり”なんかのネットニュースは好きでよく追ってますね。あとはダルビッシュ選手と田中将大選手のTwitterでのやり取りを見たり。あとは……、あ、たまに「中田翔に顔が似てる」って言われます!

田澤:いや、最後のはどうだろうな(笑)。とにかく、ネットの話題が多いんだね。

朽木:言われてみればそうですね。もちろん、僕がネットで記事をよく書くというのもあるのですが、なんでテレビの野球中継を観なくなっちゃったんだろう……。あっ! そうか!

田澤:おっ、何なに?

朽木:時間ですよ、時間。プロ野球って18:00試合開始じゃないですか。そんな時間に仕事、終わってないですもん。たまに終わってる日でも友だちと飲みに行っちゃってるから、やっぱり観られないですね。どっちにしろ、そもそもその時間にテレビを観るような環境にないんですよ。

田澤:なるほど。いま話を聞いてわかったんだけど、朽木くんってひょっとして、地上波のプロ野球中継の放送数が激減していることを知らないでしょ?

朽木:えっ、そうなんですか?

田澤:うん。いまってもう地上波ではほとんどナイター中継をしていないんだよ。視聴率がどんどん下がって、中継する局がどんどんなくなったの。逆に、地方局では地元チームの野球中継が盛んで、そちらは勢いを取り戻しつつあるんだけど。

朽木:プロ野球の全国放送は巨大産業になっちゃったから、フットワークが重いんですかね。

田澤:かもしれない。そうか、じゃあやっぱり、一番のネックは時間だ、と。

朽木:でもやっぱり、 18時試合開始は、今の都市生活者のライフスタイルに合っていないと思うんですよ。逆に、サッカーは海外の試合を深夜によく放送しているので、たまに観るんです。もちろん国内で深夜に試合をするのは現実的じゃないとは思うのですが、「ネットで配信」とかしてくれればいいのに。

田澤:ネット配信もあるにはあるけど、限定的というか、わかりやすい一括サービスがないというか、ライトな野球ファンには気軽に見てもらいづらい状況かもしれない。ちなみに、テレビの野球ニュースはどう? 

朽木:あくまでも、スポーツニュースの一部として観ていますね。スーパープレーは目をひかれますが、それ以外だと……。そもそも野球のダイジェスト映像って、様式美というか、フォーマットがありますよね。もしかしたらですが、野球を観なくなってしまった人は、それに少し飽きてしまっている気がします。

田澤:たしかに、野球ニュースの編集って、昔からずっと変わっていないかも。そういったことも含めて、野球が「そうでもない」って人にとって、当たり前の話だけど、野球は所詮、たくさんある娯楽の内の1つってことだよね。

朽木:それは、本当にそうです。特別視はしていないですね。

田澤:今までは社会の雰囲気が後押ししたというか、テレビのニュースなどで野球が多く取り上げられてきたけど、そういった風潮がなくなってきて、あくまでワン・オブ・ゼムになってきたってことなのかなぁ。

朽木:ただ、テレビで大々的に放送されなくても、僕は陸上競技が好きだし、ずっと続けてきたし……。あらゆる娯楽が公平に扱われるようになってきた中で、野球は世間の人々にどう選ばれるかというのを一度リセットして考え直すべきなのかもしれません。いや、こんなことを偉そうに、本当に申し訳ないのですが。

田澤:いやいや、ありがとう。ちなみに、朽木くんは、プロ野球の試合を球場で観戦したことはある?

朽木:それがないんですよ。27歳まで地方で生活していたし、わざわざ野球観戦のために上京するほど野球が好きではなかったので。

田澤:なるほど。じゃあこれまでテレビの野球中継やダイジェスト番組以外で野球に触れる機会はほとんどなかったわけだ。
朽木:はい、それもそうです。あれ、この流れは……?

田澤:よし! じゃあ今シーズンは、プロ野球を実際に観戦してみよう。触れる機会が少ないものを実際に体験して感じたことを伝えるっていうのは、まさにライターの仕事じゃないか!

朽木:いや、それはそうですが……。あれ、あれ〜〜〜?

次回予定:野球好きライター✕野球そうでもないライター対談「実際にプロ野球を観戦してみてどうだった?」

(つづく?)

構成/朽木誠一郎 編集/田澤健一郎