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プロ野球

打者の一軍定着までの成績推移パターンを求める【NISSAN BASEBALL LAB】

村上宗隆(ヤクルト)

写真提供:共同通信社

 交流戦も佳境に入り、今シーズンも折り返しを迎えようとしている。長くレギュラーとして活躍を見せているスター選手が存在する一方、村上宗隆(ヤクルト)など、今年に入って頭角を現し一軍に定着した新顔も多く登場した。

 長い時間をかけて一軍・二軍を行き来した後に一軍に定着した選手、プロ入り後早々に一軍に帯同して定位置を掴んだ選手など、檜舞台に上がるまでに歩む道のりは様々だ。

 打者が一軍に定着するまで、どのような成績推移を辿るのかは明確な形で示されておらず、経験の少ない選手が一軍定着を果たせるかどうかを事前に判断することは難しい。今回は打者に注目して、一軍定着に至るまでにどのような成長の道をたどるのか、「一軍定着までのロードマップ」を明らかにすることを試みたい。

■出場選手登録されている期間をもとに一軍定着を定義する

 NPBでは、どのくらいの選手がどの程度の期間一軍に滞在しているのだろう。まず始めに、2014~18年までの5年間のレギュラーシーズンの出場選手登録・抹消情報を元に確認をしておこう。558人の選手が3114回出場選手登録されており、その登録期間の分布は表1の通りだった。

表1出場選手登録期間

 今回は、No.7の出場選手登録期間が3カ月以上の選手を一軍に定着している選手と定義し、話を進めていくことにする。

■着目する指標を選定する

 次に成績の推移を観察する際に着目する指標を考える。今回は出場機会が少なく打席数をこなせていない選手の成績も扱うため、打席結果ベースの指標(例えば打率など)は十分なサンプルサイズを持たない可能性を考慮し、1球単位のデータから算出する指標を中心にリストアップを行った。

 今回使用する指標を表2に示す。各指標の基準を分かりやすくするため、2014~18年までのNPB平均値を表3に示している。

表2

表3

 これらの指標は、

・投球を打つ・打たないの判断力(スイング率)
・打つと判断した際にバットに当てる能力(コンタクト率)
・バットに当てるだけでなくヒット性の打球を打てるか(BABIP)

という、打席を完了するまでに必要な一連の能力を説明しうる指標となっている。なお、BABIPに関しては打席結果ベースの指標にカテゴライズされるが、バットに当たってからの結果を参照するために採用している。

■検証方法

 検証は以下の手順で行う。

1.出場選手登録されていた期間ごとに各指標を計算する
2.計算した値をもとに、数値の大小を基準に1~7までのクラスに変換する。出場選手登録されているものの、出場機会がないなどの理由で、該当指標のデータがないケースに1を割り当て、BZスイング率は昇順、それ以外は降順で数値を割り振っている

 例えば2014年7月21日から26日まで出場選手登録された山川穂高(西武)は表4、5のように打撃成績の変換が行われる。

表4、5

3.変換したクラスを用いて、時系列分析を行い各選手が記録した成績推移を求め、出場選手登録期間が3カ月以上の選手が、それまでに辿った成績推移の頻出パターンを抽出する

■今回算出された法則とその考察

表6,7

 表6と表7は山川とバティスタ(広島)が一軍に定着するまでの、連続した出場選手登録期間のコンタクト率とBABIPの成績である。山川は、2015年シーズンは3月に1度出場選手登録をされていたが、出場機会がなく、9月26日からの出場機会でこの年初めて今回対象にした指標が観測された。

 山川、バティスタいずれの選手も、コンタクト率の上昇の後、BABIPの値が悪化するパターンが見られる。

表8

 算出されたルールの発生確率が高かったもの上位3つを表8に示す。SZスイング率の増加に伴いFSスイング率も増加することは、感覚的にイメージしやすいかもしれない。一方で山川やバティスタのようにコンタクト率の向上と同時にBABIPの悪化が見られるのは、意外性を伴う結果かもしれない。

■本検証の今後の可能性

 出場選手登録情報・抹消情報と5つの指標を用いて、NPB選手の一軍定着までのパターンを一部明らかにした。上記のようなパターンをさらに抽出し、一軍定着までのロードマップを作成することで選手の成長度合いを測ったり、一軍定着時期や成長の予測ができるようになる可能性があるが、課題もまた残されている。

1.「定着できなかったケース」の検証

 今回はあくまでも「一軍に定着した選手」の成績推移パターンをもとに分析を行っているため、再現の可能性を必ずしも保証するものではない。より精緻な検証を行うのであれば、「一軍に定着できなかった選手」の成績推移のパターンも考慮することが望ましいと考えられる。

2.一軍定着を説明することに適した指標の選別

 1球単位のプレーデータを用いて算出可能な指標の中から、特に有効と思われる指標を5つ用いてパターンの抽出を行った。そのため、一軍に定着することを説明するために重要な指標を十分カバーできていない可能性が考えられる。

 極端に少ない打席数、投球数の中から算出をせざるを得ないものもあり、選手の能力を測る上でサンプルサイズが不十分であるケースは少なからず存在するとみられる。

 二軍の成績やトラッキングデータなど、様々な角度からより多くのデータを参照することが可能となれば、より精度の高いレベルでのパターンの抽出(一軍定着までのロードマップの作成)を行えるだろう。一定の打席を経験させることで、一軍に定着できるポテンシャルを秘めているかを比較的早い段階で見極めることも可能となるかもしれない。

3.チームの戦力事情の考慮

 一軍に登録できる人数に上限がある以上、一軍に昇格を勝ち取れるか否かは所属チームのライバル選手のレベルに影響を受けているはずであるが、今回はその点を考慮していない。例えば絶対的なレギュラー選手が多く在籍するチームと、選手が充足していないポジションが多いチームでは、実際に定着するまでの難易度が異なるはずである。

 選手の定着を予測しようとする場合、このような外的な要因も考慮する必要がある。

 また、今回は成績の集計を出場選手登録から抹消までを1つの期間としているため、一軍に帯同していく中で少しずつ出場機会を増やし、一軍に定着していった選手の成績推移パターンを拾いきれない可能性がある。より厳密に定着までのパターンを抽出することを考える場合、定着の定義や適切な集計期間も改めて検討していく必要があるだろう。

※データは2019年6月19日時点

文:データスタジアム株式会社 大川 恭平