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社会人野球

[詳説日本野球研究] 2015年ドラ1候補は田中正義ら8名。 外れ1位を取るなら投手よりも野手?

小関順二
photograph by NIKKAN SPORTS

右肩の不安を報じられている田中だが、1位指名は確実だろう。むしろスカウトと球団の力量は田中の“外れ1位”に見えるのかもしれない。

右肩の不安を報じられている田中だが、1位指名は確実だろう。
むしろスカウトと球団の力量は田中の“外れ1位”に見えるのかもしれない。

 春先にはドラフトで全球団の1位入札があるかも、と言われていたのが創価大の本格派、田中正義だ。ストレートは最速156km/hに達し、2015年6月29日に行われた大学日本代表の壮行試合では2番手として登板し、NPB選抜のプロ若手から7者連続三振の離れ業を演じている。

 この逸材に逆風が吹いたのが’16年春のリーグ戦、共栄大戦である。右肩関節に炎症が発生し、この試合を含めて春季リーグ戦の登板がわずか2試合にとどまったのだ。侍ジャパンへの参加を見送り、ひと夏を治療・リハビリ期間に充て、復活のお披露目となったのが秋のリーグ戦。ここまで3勝0敗は悪くはないが、物足りないのが完投の少なさ(1人で投げ切ったのは7回降雨コールドで引き分けになった東京国際大1回戦だけ)。防御率0.00だった’15年秋は6勝0敗のうち5試合が完封勝利だった。

 この田中の状態を何と形容したらいいのだろうか。低迷、停滞ではないし不振、不調でもない。横這い、あるいは足踏みでもいい。要するに良いことは良いが、というはっきりしない状態なのだ。

■セ・リーグ各球団に潜む“ドラフトあるある”。

 田中の足踏み状態を横目にスカウトの評価が上がっているのが佐々木千隼(桜美林大)だ。4年になってからの進境が著しく、10月8日には東海大を完封で退け、在籍する首都大学リーグでは菅野智之(東海大→巨人)以来の年間7完封を記録した。

 佐々木の1位入札が有力視されているのが巨人と阪神というのは、ドラフトを考えるとき非常に暗示的だ。『ドラフトあるある』という本があったなら、「その年ナンバーワンの選手に向かわないセ・リーグ」という項目が必ず入るからだ。たとえば、次に紹介する名選手に入札した球団はパ・リーグのほうが多い。

 ’89年・野茂英雄(新日鉄堺)……パ=ロッテ、日本ハム、ダイエー、オリックス、近鉄、セ=大洋、阪神、ヤクルト
 ’85年・清原和博(PL学園)……パ=南海、日本ハム、近鉄、西武、セ=中日、阪神
 ’98年・松坂大輔(横浜)……パ=日本ハム、西武、セ=横浜

■ある球団スカウトは「2000%の選手」と田中を絶賛。

 3人以外でもセよりパのほうが有力選手に向かうことが多いのは間違いなく、今年なら「その年ナンバーワンの選手」は田中で、その田中にはパの球団のほうが多く獲得に向かうと思う。

 セの各球団は田中の肩不安発生に、獲りにいかない口実ができたとホッとしているのではないか。セは1位選手の競合を嫌い、パは有力選手を“金の卵”としてリーグ総掛かりで獲得に向かう、というのは歴史的事実である。

 田中の評価は特Aで一致している。私の中では’98年の巨人1位(逆指名)上原浩治(大阪体育大・投手)以来の即戦力候補で、ある強豪球団のスカウトは9月の段階で田中を「2000パーセントの選手」と評価した。肩の不安は大きな問題ではないと思う。春先の人気が飛び抜けていたためその反動が大きかったということだろう。

■「高校ビッグ4」筆頭格は今井、東京ガスの山岡も。

 高校球界に目を向けると、甲子園の優勝投手、今井達也(作新学院)という人気と実力を兼ね備えた1位候補がいる。大会前に高橋昂也(花咲徳栄)、藤平尚真(横浜)、寺島成輝(履正社)を「高校ビッグ3」と命名したため、最も活躍した今井の行き場所がなくなり、マスコミは仕方なく「高校ビッグ4」という冠を今井に被せたが、完成度、スケールの大きさとも今井が飛び抜けている。

 夏の甲子園期間中連載していたNumber本誌には「(ストレートは)速くて、ボリュームがあって打者近くでの伸びが失われないという超高校級の球質で、カットボールと見紛うようなスライダーは、大阪桐蔭時代の藤浪晋太郎(阪神)を彷彿とさせる」と書いた。

 田中は肩の違和感発生まで人気を独占してきたため逆風によるマイナス方向への針の振り幅が大きく、今井は評価が定まった後の登場のため、実力を正しく評価されていないきらいがある。甲子園大会、台湾で行われたU-18アジア選手権で大活躍した堀瑞輝(広島新庄)も“遅れてきた青年”の1人で、「上位候補」と言われても「1位候補」と言われることが少ない。

 ドラフトまで残り数日だが、私は「ドラフト1位候補」とはっきり言おうと思う。ここまで紹介した7人に、社会人ナンバーワンの山岡泰輔(東京ガス)を交えた8人が、私が考える1位入札の有力候補である。

■8人を外したとしても……外れ1位候補14人を紹介!

 さて、今年は田中を筆頭に高校、大学、社会人に有力選手が多い。それは入札した選手が競合し、抽選(クジ引き)で敗れても、外れ1位に好素材の選手が残っていることを意味する。つまり、スカウトは後顧の憂いなく大物選手に向かっていける。今まで名前が出てこなかった中に外れ1位候補がいるので紹介しよう。

◇高校球界……古谷優人(江陵)、高田萌生(創志学園)、梅野雄吾(九産大九産)

◇大学球界……柳裕也(明治大)、加藤拓也(慶応大)、黒木優太(立正大)、濱口遥大(神奈川大)、生田目翼(流通経済大)、池田隆英(創価大)、中塚駿太(白鴎大)、笠原祥太郎(新潟医療福祉大)

◇社会人球界……森原康平(新日鉄住金広畑)、酒居知史、土肥星也(ともに大阪ガス)

 高校生の古谷、高田、梅野の3人はともにストレートの最速が154km/hを計測する剛腕で、大学生の加藤、生田目、池田、中塚、社会人の森原もストレートで押していく本格派で、逆にピッチャーとしての完成度が高いのは酒居、土肥、柳、黒木、濱口、笠原である。

■過去の外れ1位、投手と野手でどちらが魅力的か?

 ここまでピッチャーばかり名前が出てきたが、実は外れ1位で狙い目なのは野手のほう、という話をしたい。逆指名が導入された’93年以降を見てみると、外れ1位で戦力になっている投手は予想外に少ない。投手、野手別に紹介していこう。

◇投手……朝倉健太(中日)、吉川光夫(日本ハム)、岩嵜翔(ソフトバンク)、塩見貴洋(楽天)、増田達至(西武)、松葉貴大(オリックス)、松永昂大(ロッテ)、岩貞祐太(阪神)、山崎康晃(DeNA)

◇野手……荒木雅博(中日)、坂口智隆(近鉄)、T-岡田(オリックス)、坂本勇人(巨人)、山田哲人(ヤクルト)、安達了一(オリックス)

 この選手がいない、という意見もあると思うが、一定以上の成績を挙げた選手の顔ぶれを見てもらいたい。タイトルホルダーがずらりと並ぶ野手陣を見れば、外れ1位は野手で、と言いたくなる気持ちもわかっていただけると思う。

■外れ1位の投手は「即戦力候補」が多いが野手は……。

 どうしてこういう現象が起きるのだろうか。外れ1位で指名されるピッチャーは「即戦力候補」と呼ばれる大学生、社会人が多い。そもそも「即戦力候補」という高い評価を得られるピッチャーが毎年それほど多いのかという疑問がある。それにくらべて野手は1、2位の上位指名自体が少ない。それは力のある野手が大して注目されず、そのへんに放って置かれている状態を想像してもらえばいい。

 今年の上位候補の野手は次の選手たちだ。

◇高校生……九鬼隆平(秀岳館・捕手)、古賀優大(明徳義塾・捕手)、細川成也(明秀日立・外野手)、鈴木将平(静岡・外野手)

◇大学生……京田陽太(日本大・内野手)、吉川尚輝(中京学院大・内野手)、大山悠輔(白鴎大・内野手)、石井一成(早稲田大・内野手)

◇社会人……源田壮亮(トヨタ自動車・内野手)、原口大陸(JR九州・内野手)

 投手にくらべて数はぐっと少ない。しかし、プロ野球の一軍は野手17人、投手11人ほどで構成され、1シーズンを戦っていくのである。ドラフト前に名前が知られていなくても、低い評価でプロ入りしても、プロ生活の中で必ず必要とされる時がくる。それは偶然ではなく必然としてやってくる。
戦略のある球団にしかドラフトの勝利は訪れない。

 荒木雅博は福留孝介(近鉄)、原俊介(巨人)の外れ外れ1位、坂口智隆は雄平(ヤクルト)の外れ1位、T-岡田は辻内崇伸(巨人)の外れ1位、坂本勇人は堂上直倫(中日)の外れ1位、山田哲人は斎藤佑樹(日本ハム)、塩見貴洋(楽天)の外れ外れ1位、安達了一は高橋周平(中日)の外れ1位……T-岡田と山田以外は野手を獲りに行って抽選で外し、外れ1位(あるいは外れ外れ1位)でも野手を獲りに行って逸材を手にしている球団ばかりである。

 投手を獲りに行くが抽選で外して、やむを得ず残っている候補の中で評価の高い野手を外れ1位で指名しました、という球団には野球の神様は微笑まない。戦略のある球団にしかドラフトの勝利は訪れないのである。