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守備シフトは日本球界に根付くか【NISSAN BASEBALL LAB】

ノートを片手に選手交代を告げるDeNAのラミレス監督

写真提供:共同通信




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■日米で増加中の守備シフト

 今年のNPBは日本ハムやDeNAを中心に、従来あまり見られなかった戦術が用いられている。リリーフを先発で起用するオープナー、そして守備シフトがそれに該当する。アルモンテ(中日)らに対してオープン戦からシフトを敷くシーンが散見されていて、シーズンに入っても日本ハムが開幕戦から吉田正尚(オリックス)に守備シフトを敷いた。

MLB:左右打者別シフト割合 図1

 先行して守備シフトが普及しているMLBでも、今年に入って特に対左打者で割合が大きく上昇している(図1)。この急激な増加は、2015年から運用が始まったStatcastと呼ばれるシステムによって、角度(水平角度、垂直角度)や初速などの詳細な打球データを取得できるようになり、その分析が進んだ影響が大きいと考えられる。

 どのコースに投げた球を、どのカウントで、とあらゆる状況を考慮した打球傾向を打者ごとに洗い出し、それを踏まえた守備隊形を用意していると推測され、試合中に内外野とも目まぐるしくポジションを変更する様子が見受けられる。

■シフトの目的とリスク

2016-18年 MLB左打者:ゾーン別打球方向(図2)

 守備シフトは、より多くアウトを奪うため、定位置ではなく相手打者の打球傾向を考慮した守備隊形を取ることを指す。

 図2はBaseball Savantに公開されている過去3年分のStatcastデータを用い、フェアゾーンを22分割した上で内野手の守備範囲をホームベースから200フィート(約60メートル)以内の飛距離の打球と定義して、そのゾーンに飛んだ左打者の打球割合を示したものだ。

 赤色が濃いほど多くの打球が飛んでいることを意味しており、この打球傾向に従って左打者に対しては内野手を一塁側に寄せるシフトが一般的となっている。右打者は左打者とは逆で三塁側に内野手を寄せて、レフト方向の打球をカバーする。

 そして、守備シフトは内野に限ったものではない。日本ハムが4月7日の試合で森友哉(西武)に対し、三塁手の淺間大基を左翼定位置付近に配置して外野に守備者が4人いるシフトを敷いたが、これは三塁側へのゴロが少なく、フライが多いという森の傾向を踏まえた上でアウトの可能性を高めるためだと推測される。

 打球が守備網にかかればよし、かつ相手打者がシフトを意識して持ち味が消える、あるいは打撃フォームを崩すなどの影響が出ればシフトの効果が出たといっても良いだろう。

 ただし守備シフトを効果的に機能させるためには、いくつか条件がある。まずシフトの意図をバッテリーが把握していなければならない。

 なぜなら、打球傾向を加味したシフトを敷いても、その傾向の出やすい状況や配球を理解し、そのとおりに投げ込まなければシフトを敷く意味が薄れてしまうからだ。また通常の守備隊形ならば定位置の打球が、シフトを敷いたために安打になるリスクもある。

 事前に守備シフトのメリット、デメリットを首脳陣が選手たちに納得させる必要があるだろう。

2016-18年 MLB:左右打者・シフト有無別打率(表1)

 では、実際に守備シフトが有効なのかを見てみると、少なくともMLBでは効果を上げているようだ(表1)。シフトによる打率の変化は左打者に顕著で、18年からは右打者に対してもシフトを敷いた方がヒットを防ぐことができていた。

2016-18年 MLB左打者・シフト有時打率変化(図3)

 もう少し掘り下げて、どのゾーンで有効なのかを見ていきたい。図3はシフトの有無によって左打者の打率がどう変わったかをゾーンごとに示したものだ。

 これを見ると、定位置ならば一塁手と二塁手の間に相当するU、Vのゾーンでシフトが効果を発揮している。またNからQのゾーンに飛んだ打球は大半がセンター返しと呼ばれるもので、シフトがなければ打率5割を超えるが、内野手を二塁ベース側に寄せていることで、通常ならセンター前に抜けている打球も守備網に収まってしまう。

 守備隊形を俯瞰できる機会の少ないテレビ観戦で、そこを守っていたか、と感じさせる代表的なシーンだろう。

2016-18年 MLB右打者・シフト有時打率変化(図4)

 右打者のグラフ(図4)でも左打者と同様にLからNのゾーンで打率が大きく減少している。

 一方で内野手を寄せたFからHにかけての打率がさほど減っていないが、これは守備者を配置するゾーンと一塁までの距離の関係で、左打者のときのように右翼手の前に守備者を置くような陣形を取れないからだと考えられる。

■シフトの有無による安打増減を検証

 ここからは守備シフトがNPBでも普及した場合、どのような変化が起きるのかを検証したい。

 今回の検証では、特定ゾーンに打球を放ったときにヒットになる確率を一般的なものに設定している。

 例えば三遊間に打球を放ったとき、俊足の打者とそうでない打者でヒットになる確率に差が出るが、今回の検証ではゾーンを細かく分けたことによって選手固有の傾向といえるほどのサンプルサイズを確保できていないため、加味していない。

 またMLBデータは機械的に取得されたトラッキングデータを用いるのに対し、NPBデータはデータスタジアムのオペレーターが入力したものを使用する。

 打球性質、ゾーンの定義が異なることに加えて、内野の守備範囲と定義した打球の飛距離や強さの精度で見劣りすることは否めないが、可能な限り現実に即した調整をしているものとして、読み進めてもらえればと思う。

 検証は以下の手順でおこなうものとする。

1. 過去3年のNPBで打球が安打になった割合を
  ・打者の左右
  ・打球性質
  ・ゾーン
  ごとに算出

2. 過去3年のMLBで打球が安打になった割合を
   ・打者の左右
   ・打球性質
   ・ゾーン
   ・シフトの有無
  ごとに算出し、シフト有無による打率の比を算出

3. 過去3年のMLBでシフトが敷かれた割合を
  ・打者の左右
  ・塁状況
  ・ストライクカウント
  ・アウトカウント
  ごとに算出

4. NPBの打者ごとに打球を3と同じ状況で分ける

5. 1、2、3、4を掛けたものから、1、3、4を掛けたものを引き、シフトの有無で増減すると考えられる安打数を算出

 算出の詳細は割愛するが、本来ヒットになった打球がシフトによって防がれてしまう、あるいはシフトのせいでアウトになった打球がヒットになる、これらをシフトが敷かれるケースを考慮して推定するというものだ。

2016-18年NPB:守備シフト時の安打期待値変化ランキング(表2)


 1~5の計算をおこなった結果が表2で、過去3年間で標準的な守備シフトを敷いた場合、最もヒットを損する結果になったのは阿部慎之助(巨人)だった。

 今回の検証では選手個人の能力差を考慮していないため、俊足とはいえない阿部はヒット性の打球をさらに多くアウトにされる可能性があり、柳田悠岐(ソフトバンク)や秋山翔吾(西武)らは逆に内野安打が増えることも考えられる。

 中島卓也(日本ハム)のような極端にレフト方向のゴロが多い打者に標準的な対左打者のシフトが通用しないことは明らかで、むしろ対右打者のようなシフトの方が有効かもしれない。

 選手ひとりに対して3年間でヒットを5本ほど防いだことを多いと見るか、少ないと見るかは個人によりけりだが、少しでも多くアウトを稼いでチームの勝利につなげるという狙いがあるのであれば、守備シフトを試す価値はあるだろう。

■シフトの穴を狙うか、それとも……

 守備シフトというと特別な策を選択しているように聞こえるが、野球において状況によって守備隊形を変えること自体はさほど珍しくない。

 内野や外野の前進守備ならば1点を防ぎにいくため、バントシフトは相手の送りバントを失敗させるために守備位置を変更するもので、目的を達成しやすいポジションに野手を配置するという点は共通のはずだ。

 もちろんシフトを敷かれたときに相手打者がどう対応してくるか、というデータが少ないのであれば、全面的に守備シフトを実施すべきとはいえない。

 当面は日本ハムやDeNAのようにリスクを承知の上でシフトを敷くか、シフトが有効な打者の傾向などをつかみ、リスクを少しでも軽減できる打者に対しておこなうかという選択になると考えられる。

 また今後守備シフトを敷く回数が増えた場合には、打者の対応にも注目だ。シフトを無視するか、シフトの逆を突くか、シフトにかからない打球を打ち上げるか、打者自身も守備シフトによって選択を迫られる。

 いずれにせよ今後の分析が進み、MLBのように明確な結果が伴ってくれば、かつては王貞治氏に、最近では柳田にも一部で敷かれていた守備シフトが強打者でなくても見られる時代になるかもしれない。

※データは2019年5月6日時点

文:データスタジアム株式会社 小林 展久

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