BASEBALL GATE

プロ野球

【Baseball Gate Analysis】分散から見る投手の“出力”の安定感

 「安定感のある投手」とは、どのようなピッチャーなのか。試合をつくり続けること、構えたコースに投げ込めること、四球を出さないことなど、いろいろな見解があるだろう。その中で今回のコラムは、ストレートの球速に注目。投手が「安定した出力」で直球を投げているかを検証していく。

 まず昨季のデータを対象に、ストレート球速の分散を算出した。分散の求め方については割愛するが、数値が大きければ大きいほど数字にバラつきがあり、小さいほどバラつきが少ないと考えていただきたい。なお、条件をある程度そろえるため、

・所属チームの本拠地での先発時
・球速は計測できた投球を対象。単位はkm/h
・本拠地で球速が計測されたストレートを300球以上投げた選手

以上の条件を前提としてデータを抽出している。

安定感際立つヤクルト・山中

 ストレート球速の分散が小さかった投手の上位をまとめたものが表1となる。対象となった計50選手のうち、最も球速のバラつきが少なかったのは山中浩史(ヤクルト)。与四球率1.29と制球に優れるサブマリンは、一定の球速のストレートをコンスタントに投げ続けることができる、という意味でも安定した存在だ。

 トップ10を見ると、コントロールに定評のある金子千尋(オリックス)や吉見一起(中日)に交じって、荒れ球タイプの武田翔太、中田賢一(ともにソフトバンク)が名を連ねていることは興味深い。球速を出すという一面で見れば、彼らもまた安定感のある投手のようだ。

球速のバラつきは若手に顕著

 表2は表1とは逆に、球速の分散が大きかった投手たちだ。ランキングには昨季がルーキーイヤーだった小笠原慎之介(中日)、岡田明丈(広島)、今永昇太(DeNA)ら、比較的キャリアの浅い選手が多い。そんな中、昨季最も球速にバラつきが見られたのは、球界最速右腕・大谷翔平(日本ハム)だった。

同じ速球派でも傾向は異なる

 表3は花巻東高が生んだ2人の速球派、菊池雄星(西武)と大谷のデータだ。ここでは1試合ごとに分散を算出しており、両投手はそれぞれ異なる傾向を見せている。菊池は1試合あたりの平均球速で145キロを超える試合が14年から増加。それに伴う形で、分散の大きい試合も増えている。一方、大谷を見てみると、こちらは1試合平均で155キロ以上の試合はスピードが安定。逆に下回るとバラつきが大きくなっていた。昨季だけのデータで見ると、菊池は試合によらず球速が一定ではない投手。一方の大谷は、安定感のある日とない日が顕著なタイプといえるかもしれない。

終盤のスピードが落ちた2016年の藤浪

 ボールのスピードが一定しないことは、ピンチによる力の出し入れ、クイックモーションやセットポジションなど、さまざま要因が考えられ特定は難しい。ここでは、その一例を挙げるにとどめたい。

 球数の増加によってスタミナを消耗し、ボールの力もそれに比例して低下していくのは理解しやすい話ではないだろうか。この傾向が当てはまるのが、昨季の藤浪だ。表4を見ると14、15年は球数を投げても一定の球威を保っていたが、昨季はルーキーイヤーと同様に球数が増えるごとに平均球速が漸減していた。16年に最速160キロを出した藤浪だが、今季の課題のひとつには試合を通じて球威を保つことが挙げられるかもしれない。

 今回紹介した「球速の安定感」は、必ずしも投手の能力を証明したり、成績に直結するものでもないだろう。しかし、その投手の特徴の一端をつかむことはできる。平均球速の変化だけでなく、この「球速の安定感」も投手を探るにあたって注目していきたい数字だ。

※データはすべて2016年シーズン終了時点

文:データスタジアム