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夏は打倒智弁和歌山 市和歌山の決意を見た【第91回選抜高等学校野球大会】

市和歌山―習志野  習志野に敗れ、応援席へあいさつに向かう市和歌山ナイン=甲子園【写真提供=共同通信】


準々決勝。

 市和歌山、習志野、明石商の公立高校が8チームの中に3校残ったのは清峰が優勝した2009年以来だった。また、これらは全て市立と言うのも特徴だったと言える。

 第1試合、その市立校同士、市和歌山と習志野がぶつかった。

 市和歌山は奇しくも2009年、普通科ができて市和歌山商から校名が変わった高校だ。かつて「しわしょう」と言えば、1964年のセンバツで藤田平(元阪神監督)を擁して準優勝している名門校。2004年夏、05年春と川端慎吾(ヤクルト)がいて2季連続出場、16年は春夏連続出場していて、県内で智弁和歌山を倒せる唯一の相手、という位置付けにある。

 1回戦、やはり市呉を開幕戦の延長で下して市立対決を制した。2回戦は四国の古豪、高松商にそつない攻めで6対2と快勝した。

 この日は先発に柏山崇(3年)を送る。初戦で完投した2年生エース・岩本真之介は2回戦もリリーフ登板していた。

「岩本の負担を軽くするために先発は柏山で行きました。序盤、よく凌いでくれた」と半田真一監督。

 柏山は初回に先制されるが3回までその1失点で粘った。

 打線は1回裏、2番の下井田知也(3年)内野手から、4番の柏山のツーベースなど4連打で3点を挙げ、すぐに逆転。
そして岩本が登板したのが4回表。予定通りのスイッチだった。

 ベンチの思惑はこうだ。
「岩本に代えて、後半、リズムを出そうと思っていた」

 ただ、5、6、7回にに1点ずつ加点されて逆転された。
 6回表、無死二、三塁。ピッチャーゴロを挟殺プレーと相手ミスのダブルプレーで、チャンスを一旦脱したまでは良かった。が、岩本が死球を与えてしまったのが痛かった。直後に同点タイムリーを許す。

「6回、ピンチをしのいだ後に、無駄な死球を出してしまった。6、7回はリキんでコントロールミスが多かった。疲れはないと思ったんですが、今日は変化球があまり、曲がらなかった」
 岩本は悔やんだが、そこは責められない。

「投手陣はよく投げてくれたと思います。岩本は自滅はしていなし、各イニングを最少失点で切り抜けてきた。この場で大きくなってくれたと思います」
監督は成長を喜んだ。

 岩本の球速は130キロ前後。腕を振るのでキレがあり、多彩な変化球を丁寧に投げる技巧派だ。

「8強入りできて、速球ピッチャーでなくても抑えることを証明できたと思う。それが甲子園での収穫です」と胸を張った。

 敗因は2回の頭からリリーフした習志野の飯塚脩人(3年)投手を打てなかったことだ。

「予想上にキレがあった。コンパクトに振ろうと言ったんですが。前の打席を生かしたりして対応することができなかった。どんなピッチャーでも攻略できる力をつけないと。中盤に追いつかれて逆転されるところは粘りが足りないなと思いましたし、苦しい中でも1点を取れるチームにしないと」
 監督の反省だ。

 岩本は中学時代も知られた投手だった。
 岩本悠部長が言う。
「実は智弁和歌山さんからも誘われていたんですが、うちも何回も誘いました。こちらが勧誘合戦に勝ちました」

 岩本もその理由を明かす。
「倒して成長したかったので(市和歌山を)選びました」

 岩本は通学に1時間ほどかかる広川町に実家がある。

「彼は学校の近くのアパートで一人暮らしをしています。食事も自炊をしてるんです。洗濯とか生活もしっかりやっているし、人間的にも素晴らしい」と岩本部長。

 自分で作ったおにぎりを食べて体重は秋から数キロ増えたそうだ。
 ボールに力が乗るようになった。また、夏への課題は見えたはずだ。

 結局、智弁和歌山も明石商にサヨナラ負けして準決勝には進めなかった。両校ともベスト8止まりだったが、市和歌山にとって、この難敵を下さなければ、夏はない。

 主将の米田航輝捕手は「智弁は僕らのプレースタイルを唯一変えてくれるチーム」だと評した。自分たちを高め、努力を促す存在なのだ。

 そして、緒方隆之介遊撃手(3年)が言う。
「智弁和歌山は中学の時の憧れのチーム。でも中2の時、市高(いちこう)の甲子園での活躍を見て、市高で憧れのチームを倒すんだ、という思いに変わりました」

 半田監督と智弁和歌山の中谷仁監督は中谷監督が一つ年上。小、中学校が同じで軟式野球チームで一緒にプレーした仲なのだと言う。

「今でもプライベートは仲がいいです。でも、練習試合はしません。先輩はこっちをライバルと思っているかどうか(笑)馴れ合いにならないように、こういう真剣勝負の舞台で智弁さんとやらせてもらえればと。智弁さんを大きな存在と言っていたら勝てないので、そう、思わないように選手たちには刷り込んでます。倒すことを目指してやっってきましたし、夏は2校出られないですから」

 監督が続けた。
「オープニングの接戦をものにできたことも素晴らしいし、四国チャンピオンにも勝てた。思い出作りに来てるわけではないですから。今日のように終盤、対応しきれなかったことも収穫でした」

 米田主将が力を込めた。
「一つ上の代では夏の決勝で敗れ、僕らは秋も負けている。なんとか智弁に勝ちたい」

 智弁和歌山に勝った時、市高の春のこの成績も評価される。

(文・清水岳志)