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高校野球

投げて打って走った石川 東邦がベスト8へ進出【第91回選抜高等学校野球大会】

広陵戦で6回無失点と好投した東邦・石川=甲子園【写真提供=共同通信】


 ビッグ3。
星稜の奥川恭伸投手、横浜の及川雅貴投手と東邦の石川昂弥投手。

 開幕前にスター候補に挙げられていた選手だ。ベスト8を前にして既に奥川と及川が甲子園から去った。唯一残っている石川は大会の主役になれるだろうか。

 石川の好きな選手はエンゼルスの大谷翔平。大谷は投げて打って、足も速い。そして石川も広陵との2回戦、それにならった。

まず、『走る』。

 先攻の東邦。1回表1死。自らのサードゴロの併殺崩れで一塁に残った。4番・熊田任洋内野手(3年)の5球目、盗塁を決める。

 2番の杉浦勇介内野手(3年)が言う。
「あいつは投手だから走らなくてもいい、ということはないんです。走れる選手です」

 本人の解説だ。
「初回はサインではないです。走れるときは走る。それが東邦のいつもの野球。自分はどのタイミングで走ったら成功するというのが感覚的にわかるんです」
 走ることに関して独特な感性を持っているのだと言う。

 東邦は出場チーム中最多の盗塁を決めてきた走るチーム。まず、主将自ら実践する。
続く熊田が四球で歩いて一、二塁。
石川は、二塁の塁上からも3塁を狙っていた。

「ピッチャーのクセがわかっていたんです。ゲーム前に監督から言われてました。二塁をを見て、バッターを見てから足を上げて投球動作に入る。そのタイミングもあったし、ランナーの位置からピッチャーのグラブの中のボールの握りが見えたんです。チェンジアップでした。ストレートじゃないから走れると」

 スタートを切ると5番・吉納翼外野手(2年)がライト前に弾き返す。石川はゆうゆう三塁を回って先制点を挙げた。6番・長屋陸渡内野手(3年)が三遊間を抜いて、サードに進んでいた熊田を迎え入れて2点目だ。

 石川の積極的な走塁がこの日の東邦の勢いをつけた。

「初戦は走っていなかったので、今日はドンドン、行こうと。自分が走ったので、みんなも続いたと思う」

 石川の次のパフォーマンスは『投げる』。

 1回裏、マウンドに上がる。初戦の富岡西戦で完投していて、中二日でのマウンド。
2番の中冨宏紀内野手(3年)に124キロの変化球をライト前にヒットされたが、4番の中村颯大内野手(3年)を140キロのストレートで三振に斬るなど無難に立ち上がった。そして6回まで投げて被安打4、無失点でこちらも文句のない合格点だ。

「序盤からインコースに投げられた。スピードよりコントロール重視。いい内容だったと思います」

 そして、3回表に真骨頂、『打つ』シーン。先頭で打席に入る。

 インコースのストレートに詰まったファールなどでカウント2―2。6球目の変化球が甘く高めに抜けてきた。

「打った瞬間、スタンドに行ったと思いました」

 石川はファーストベースを回ったところで右手を上げてガッツポーズ。気持ち良さそうに回っているのが感じ取れる。通算43号で甲子園では初の一発になった。

「いつもより、ゆっくり走りました(笑)ファールで逃げるとか、三振しないようにスイングが小さくなるとかではなくて、思い切り自分のスイングをしようと」

8回には大きなレフトへの犠牲フライも。2安打2打点で責任を果たした。

 ゲーム後のインタビューで、大車輪ぶりを聞かれた。中でも『走る』ことについて、一番、時間を割いた。

「足、速くないんですよ。でも、走るセンスはあると思います(笑)今年はオープン戦でも盗塁をしてほとんどアウトになっていないです」

出塁して走るのは自分にエンジンをかける意味もあると言う。

「走ると体が温まる。投球にもいい作用が出ると思うんです」

 石川の最初の盗塁で広陵バッテリーは明らかに初回から浮き足立った。広陵ベンチも警戒はしていた。
「東邦は走ってくるなと思っていた。盗塁でピッチャーを揺さぶる作戦だったでしょう。バッテリーのクセも研究もされていたと思う」
 中井哲之監督は悔しがった。

東邦は合計7つの盗塁を決めた。打っては5本の長打を含め16安打。この日の12対2の大差は石川の『走る』が起点になった。

 石川にはもう一つ『キャプテン』と言う役割もある。

「キャプテンになってよかった。自分がやるべきもの、と思っていましたが、元々、リーダーシップを取るタイプではなかったんです。でも、監督に指名して頂いた。誰かミスをしたら自分から励ますとか、周りを見てチーム全体を考えるようになった」

 東邦に立ちはだかろうとしていた広陵の河野佳(3年)投手。1回戦、150キロの自己最速を記録して、八戸学院光星の強力打線を8奪三振、3安打完封していた。その右腕を3回途中にノックアウトした。

「高めは速いけど見逃せばボール。変化球は1回戦の富岡西のピッチャーの方がキレていた、とみんな言う。選手は余裕があるなと思いました。走れそうならいつでも、走っていいよ。動いて動揺させろと。いつも通りの野球ができた」
 森田泰弘監督はしてやったりの顔だった。

東邦ナインの証言で石川の素質をもう一つご紹介する。
 伊藤樹里捕手(3年)が言う。
「石川は『サッカー』も巧いです。県内でも強豪のうちのサッカー部もほめていました。シュートがすごいです。体格も大きいのでフィジカルが強くディフェンスも堅いんです」

 サービス精神もあってイケメン。才能豊かな石川が大会の主役になろうとしている。

(文・清水岳志)