- プロ野球
2017.02.20 10:58
不本意を本意に変える―ロッテ井口、代打の切り札として学ぶ“新しい野球”

NPB最年長野手。ロッテ井口資仁には、今季からこんな枕詞が付くようになった。「ここ1、2年くらいで同年代が結構辞めたから。今年43歳になることを考えれば、最年長野手でもおかしくないかな」と笑うが、引き締まった身体、鋭い目、精悍な顔つきから老け込んだ様子はまったく感じられない。もちろん、本人にもその自覚はない。
■今年43歳のNPB最年長野手、1打席勝負の代打で「チャンスは3球」
NPB最年長野手。ロッテ井口資仁には、今季からこんな枕詞が付くようになった。「ここ1、2年くらいで同年代が結構辞めたから。今年43歳になることを考えれば、最年長野手でもおかしくないかな」と笑うが、引き締まった身体、鋭い目、精悍な顔つきから老け込んだ様子はまったく感じられない。もちろん、本人にもその自覚はない。
「ないですね。自主トレでも一緒にやった19歳に、一応ついていけるから(笑)。もちろん、143試合に出られる練習をしているし、体力そのものはある。メンタルは年々強くなってきているしね」
ダイエー(現ソフトバンク)では二遊間を守り、メジャー移籍後は二塁手として華麗なグラブさばきを披露してきた。だが、若手の台頭や打撃に専念してほしいというチーム方針もあり、2013年からは一塁へ転向。翌2015年からは代打出場の機会が増えた。
「もちろん先発で出られないのは、自分の中では不本意。本当はレギュラーで出られるのが一番いい。でも、チームとして何が足りないかを考えた時、代打の強さは必要だと思うんです。今は僕と福浦(和也)で右左の代打がいるから、相手の嫌がることはできているのかな」
一人の選手としてのプライドもあるが、それ以上に優勝したい。チームが1勝でも多く積み重ねるために、自分がどんな役割に徹するべきか考えた時、代打という役割をスッと受け入れることができた。昨季は出場79試合のうち代打で41試合に出場し、打率3割という勝負強さを発揮。先発であれば1試合3、4打席トータルの中で相手投手との駆け引きがあったが、代打は1打席限り。与えられた舞台でのアプローチも変わった。
■ベンチから見る“もう1つの野球”「本当にいい勉強になる」
「基本的に代打はいいピッチャーとしか当たらない。彼らをどう打ち崩すか。決め球のレベルが高いから、追い込まれる前に何とかしないといけないんですよ。さらに、代打が出るのは走者が二、三塁にいる場面。そこで相手がどういう配球をしてくるか。今までにはなかった配球の読みをするようになりましたね。
最初から相手の決め球だけを狙うこともある。今まで以上に積極的になりましたね。攻めないと。チャンスは3球。打席では常にそう考えています」
代打はいつ出番が回ってくるか分からない。だからこそ、先発以上に準備が必要なポジションでもある。
「うちの場合、チャンスだったら試合中盤でも代打の可能性がある。だから、僕の場合は試合の流れに合わせて動くようにしています。試合が始まったら、守備の時は必ずベンチに出てきて戦況を見る。攻守交代したら、ベンチ裏で代打準備に入る。先発していた時とリズムを変えない工夫をしています」
ベンチで過ごす時間が増えた現実は、正直に言えば「辛い」。だが、今与えられた状況を生かすも殺すも自分次第。「いずれはそういう形(監督)でユニフォームを着たい気持ちはある」というベテラン野手は、ベンチで過ごす時間を「いい勉強」の時間と捉えている。
■日米通算300本塁打へ残り7本、「今年中に打たないと先は長くないから」
「今までと違った角度から野球を見たり、考えたりするようになりましたね。場面場面で、うちの監督はどういうサインを出すんだろう? 相手の監督はどういうサインを出すんだろう?って。代打が出てきたら、投手は誰を出して、その次は誰にするんだろう? 自分が監督だったら、この場面はどうするのかなっていうことを考えてます。
ベンチにいると、相手ベンチの中が全部見えるんですよ。監督やコーチの動き、選手の動きが全部。そうすると、次はこう来るなっていうのも見えてくる。そういう意味では、試合の展開や作戦っていうのは、前よりもずっと見えるようになってきた。
監督やコーチの選手に対する声の掛け方にも気が付くようになりましたね。どうやって選手にやる気を出させるか。控え選手にモチベーションを保たせるのか。本当にいい勉強になりますよ」
2017年の目標は、もちろん2010年以来7年ぶりの日本一だ。同時に、個人としては日米通算300本塁打まで残り7本に迫っている。昨季は176打席で5本塁打を記録した。
「あと7本。今年中に打たないと先は長くないから(笑)。結果を残して打席数を増やして、10本くらいは打ちたいですね。いや打ちますよ」
頼れるベテランが幕張の空にいくつものアーチを描いた時、偉大なる金字塔が打ち立てられ、そしてチームも12球団の頂点に輝くのかもしれない。
佐藤直子●文 text by Naoko Sato