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通算90勝、FA移籍した「左のエース」 帆足和幸は打撃投手でチームを支え続ける

 帆足和幸、37歳。
 2015年に引退するまでに通算90勝をマーク。西武ライオンズでは、松坂大輔(現ソフトバンク)や涌井秀章(現ロッテ)らとともに先発の柱を担い、その時々で「左のエース」と呼ばれた。‘11年オフにFA権を行使して福岡ソフトバンクホークスへ移籍した。

 ソフトバンクでの4年間では‘13年の8勝が最高で、期待値ほどの成績を収められなかった。だが、それでも数多のプロ野球選手の中でいえば、輝かしい実績を収めた現役人生だった。
ひのき舞台の主役を張った左腕は、そのままソフトバンクに残り、裏方として選手を支える第2の人生を送っている。

その職は、打撃投手。
「70歳の打撃投手」人生の財産

 球界ではちょっと異例だ。12球団を見渡しても通算90勝の打撃投手はなかなか見当たらない。これほどの実績があれば、解説者や指導者の道だってすぐに開けたかもしれない。むしろソフトバンクを構想外になった時点で、いくつかの球団は獲得に前向きな姿勢を示していた。それは帆足本人の耳にも届いていたはずだ。だが、あまりに潔くマウンドを去り、現況を受け入れた。

「FAでホークスに来た時から、ここで終わると決めていましたから。それにホークスが投手陣の層が厚いといっても、他球団ならば先発ローテに入れるとは思わなかった。ホークスで先発を出来なくなったときがオシマイですよ」

 引退会見の時と同様に、笑顔を浮かべながらその理由を飄々と語る。球団からは構想外の通告を受けた席で打撃投手の話をもらったという。1週間ほど考えたが、迷いはほとんどなかった。

「よくプライドが邪魔するとか言われますけど、僕は感じなかった。ずっと苦労してきましたから。高校(三井高)の頃だって甲子園に出たわけじゃないし、社会人(九州三菱自動車)でもチームで都市対抗に出場はできなかった(自身は補強選手として出場)。
特別球が速いピッチャーでもないし、プロに入ってからも苦労ばかりでした。とはいえ、野球しかしてこなかった人生です。これからの人生を歩むにあたって、もっと苦労をした方がいいと思っていました。新しいことをやれるのはプラス。ましてや野球界に残れるチャンスを頂けたわけですから」

現役時代の帆足。独特なフォームでも知られた。写真:日刊スポーツ


 とはいえ、打撃投手という職を初めはやや甘く考えていたのも事実だった。誰もが通る道といっていい。現役のピッチャーからすれば、ストライクを投げることなど当たり前。マウンドの3~4m手前から投げるわけだし、あとはプライドの部分だけ。
「打たせる」仕事と割り切れば、何とかなると思っていた。だが、それが間違いだと気づくのに数日もかからなかったし、一年後の現在も試行錯誤の毎日だと苦笑いする。

「難しいの一言に尽きます。ストライクを投げることが大変なんです。僕、もともとコントロールには自信があったし、右打者のインコースだっていつでも投げられました。ボールを引っ掛けることなんてまずなかった。なのに、今はそれが出てしまう。ボールが指から離れないんです」

 現役を退き、打撃投手に転身したばかりのピッチャーは必ずと言っていいほど、その落とし穴にはまる。帆足の感覚では「3割から4割程度の力で投げる」というが、それが難しいのだ。
仕事や相手というプレッシャーを感じながら、体全体を使って反復動作をしなくてはならない。人間は自然と力む。力を入れる方が簡単だからだ。逆に言えば、心も体も加減する方がはるかに難しいのである。

「もともと横手気味で投げていたけど、打撃マシンのイメージで腕を縦振りにすればコントロールもつくし、打者も打ちやすいと思っていましたが甘かった。今は上半身意識を捨てて、腰で投げるというイメージでやっています。
左腕でトップを作ったら、あとは腰で体重移動して、腰を入れ替えたら腕は自然と振れる。そもそもピッチャーをやってた時も下半身主導ですからね。同じだと打撃投手の先輩に習いました。キャンプ中などは選手が食事休憩している時間に付き合ってもらい、練習することもありました」

打撃投手を1年務め、その難しさも知ったと語る帆足。


 歩み始めた次の野球人生。ゆくゆくはプロ野球で指導者になりたいという目標はある。それでも「打撃投手が今の仕事。やるからには極めたい」。現役時代と同じで、妥協は今でも嫌いだ。
また、今年は打撃投手に加えてもう一つ仕事が増える。球団広報を兼任することになった。まったく畑違いの仕事である。

「現役時代はピッチャー目線でしか野球を見てこなかったのが、裏方の仕事に就いてから野手とかかわる時間も増えて野球の見方も変わってきました。
昨年はスコアラーもやりました。新しい挑戦はすべてが勉強です。何かの役に立つと思っていますし、僕はそれを楽しいと思いながらやっています」
メジャーリーグには「80歳の打撃投手」も!!

 苦労は当たり前。それすら、楽しむ。  
 球団サイドの意図を探れば、ユニフォーム組以外の裏方仕事も任せるのは幹部候補生としての期待の表れともいえるだろう。誠実な左腕には今後あらゆる角度からプロ野球を支える仕事が待っているに違いない。

取材・文・写真/田尻耕太郎 編集/田澤健一郎

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