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オリ田口2軍監督に影響与えた3人の名将 日米の経験で導き出した指導とは


昨季セ・リーグ6球団の監督はすべて40歳代だったことに代表されるように、球団首脳陣に少しずつ世代交代の波が押し寄せている。唯一メジャー経験のある野手として指導・育成に当たるのが、昨季からオリックス2軍監督に就任した田口壮氏だ。

■1年目は「見ること」、2年目は「瞬発力」がテーマ、監督・田口壮のチーム牽引術

 昨季セ・リーグ6球団の監督はすべて40歳代だったことに代表されるように、球団首脳陣に少しずつ世代交代の波が押し寄せている。それに伴い、少しずつ増えているのが、海外リーグでプレー経験を持つ指導者だ。2014年からヤクルトで1軍投手コーチを務め、今季から2軍監督になった高津臣吾氏(ホワイトソックス他)、中日の1軍投手を務めるデニー友利氏(レッドソックス・マイナー)ら投手陣が目立つ中、唯一メジャー経験のある野手として指導・育成に当たるのが、昨季からオリックス2軍監督に就任した田口壮氏だ。

 2002年にオリックスから米カージナルスへ移籍し、マイナー経験を経てメジャー昇格。外野のユーティリティプレーヤーとして重要な局面での代打、守備固めなどで信頼を集め、2006年にはワールドシリーズ優勝に貢献した。カージナルスで6年を過ごした後、フィリーズ、カブスでプレー。2010年にオリックスに復帰し、2011年を最後に引退した。解説者を経て、再びユニフォームに袖を通したのが昨季。2軍監督としてグラウンドに戻った田口氏は「とにかく見ること」に徹したという。

「僕の考えを聞いてもらおうと思ったら、相手の考えを知らないといけないと思うんですよ。そういう意味では、コーチの経験もなくポッと2軍監督になった僕が、いきなり『ああして下さい』『こうして下さい』って言っても、全員が迷うはずなんです。今までの流れを何も知らない僕が来て、急に新しい2軍監督のやり方ですって変えても『なんじゃそれ?』ってなる。

 だから、僕が最初にやらないといけないのは、選手だけじゃなく、コーチや球団、みんなが何を考えて行動しているか、何をもって練習しているか、何を思っているかを、ちゃんと把握すること。だから、最初は何も言わずに、どんなことをやっているのか見てました」

 選手、コーチ、それぞれのやり方を尊重しながら、気が付いた点があれば声を掛ける。チームを“田口色”に大きく変えるのではなく、それまでの流れを汲みながら、1年をかけて少しずつ修正をしていった。

「みんな基本的にはプロとしてやってきたことがある。1年の選手もいれば、5年、10年の選手もいる。その中でみんなが何をやってきたか知らないと。人間、新しいものに対しては構えるもの。新監督に対しても構えますよ。だから、少しずつ変えていかないと、選手やコーチの色が死んでしまう。

 開幕してチーム状況を見ながら『俺が思うに、キャンプをこういう状況で過ごしてきたから、こういう状況になっているんじゃないか』っていう話から始まって『だったら、もう少し練習方法を変えないとね。こうやったらようなるんじゃない』って少しずつ修正を掛ける作業を増やした感じですね」

■大切なのは「選手を迷わせないこと」

 自分の準備に徹すればよかった現役時代とは違い、監督は選手全員の状況を把握しておかなければならない。チームが単なる個の集まりではなく、チームとして機能するためには、監督とコーチが共通の認識を持つ必要がある。選手の指導で最も大切にしていることが「迷わせないこと」。そのためにも、選手やコーチとのコミュニケーションを重視している。

「監督、コーチがそれぞれ違う話をしたら、選手は迷いますよね。だから、そこは指導者同士がコミュニケーションを取って、どういう方向性で行くかを話し合って、選手が迷わないようにすることが大事。僕が直接指導することはほとんどないですけど、あったとしてもコーチと一緒にするし、もしコーチがいなかった場合は、後で報告します。

 選手を迷わせない。そして、誰一人としてほったらかしにせず、しっかり見てるよって満遍なく声掛けすることを大事にしてますね」

 コミュニケーションの大切さを学んだのは、オリックス時代の恩師、故・仰木彬監督、カージナルス時代の恩師トニー・ラルーサ監督、そしてフィリーズ時代の恩師で、かつて近鉄でもプレーしたチャーリー・マニエル監督の影響が大きい。

「仰木監督もそうだったし、トニー(ラルーサ)もそうだったし。ちゃんと選手やコーチに対して声を掛けて、どういう状態なのか理解しようとする監督でしたね。マニエルも同じですよ。みんなに声を掛けて気を配るから『彼のためにやってやろうじゃないか』っていう選手ばっかりだった。チームとしての団結力がすごかった」

 3人の監督からは「準備の早さ」も学んだという。

「みんな準備が早いんですよ。早く球場に来て、いろんなことを調べて、試合で何をどうしたらいいのか、ちゃんと最初から組んでますよね。ゲームに入ってからも、すべての準備が早い。だから、選手が迷わずについていけるんです。

 選手にこっちの意思を伝えることも大事だし、特に試合中は気を付けるようにしてますね。でも、ファームの場合はベンチに入っている人数も多いんで迷うこともある。代打を出そうとして『あ、やっぱりこっち』なんて急に変えたりなんてね。選手に申し訳ないことしたなってこともあるから、次の試合でフォローしたりしますけど(笑)」

■「決断っていうのは瞬発力なんです」

 2軍監督としての1年目は「結構迷ってますし、大分準備しているけど、もっと早くできるだろうって思います」と振り返る。1年目の経験を踏まえ、2年目の今季に重視したいのは「瞬発力」だという。

「決断っていうのは瞬発力なんですよ。目の前で起こったことに対して何秒で決断できるか。1秒かかるか、かからないかの世界だと思うんですよ。例えば、ヒットエンドランのサインを出すのに、大分前からサインを出すことは決めているわけですよ。その最終決断をどこで下すか。1球前のストライクの取られ方、ボールの取り方、見逃し方とかっていうのを見ながら、いけるかどうかの最終決断を下す。そこの瞬発力っていうのは、僕はすごく大事だと思うんですよ。

 去年、瞬発力がすごくいるってことを学んだんで、僕は今年は何も計画を立てないことにしました(笑)。長期的なビジョンはもちろんありますが、キャンプに入っての練習メニューなんかは、コミュニケーションを取る中で周りが計画を立ててくれますから、僕はそれをどう判断するか。その場その場の判断っていうのは、刻一刻と変わっていきますから、僕はその瞬発力を養うために計画は立てません。

 コーチが答えを待っていたり、選手が答えを待っている状態はよくないと思うんですよ。『どうします?』って聞かれた時に『こうしてくれる?』って答える。『その根拠は?』って聞かれたら、すぐにポンポンと答えが出てくるくらいの瞬発力がないとダメだと思いますね。これは経験とともに鍛えられると思います。だから、僕は瞬発力を鍛えます」

「見ること」に徹した2016年をステップに、田口監督がどんな軌道修正を加えながらチームを率いるのか。そして、試合中にベンチでどんな「瞬発力」を見せてくれるのか。2017年のオリックス2軍の進む方向に注目したい。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

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