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オリ田口壮2軍監督が持論「チャンスは3年で9回」 這い上がる選手の傾向とは


オリックスが日本一に輝いた1996年。正左翼手として19年ぶり4度目の日本シリーズ優勝に貢献したのが、現2軍監督を務める田口壮氏だ。イチロー外野手(現マーリンズ)らとオリックスの黄金期を支えた田口氏は、メジャーリーグで経験を積み、2010年から2シーズンを再びオリックスでプレーした後に引退。解説者を経て、2016年にユニフォーム姿に戻った。2軍監督として目指すものは、長期的に戦える体力を持ったチームの土台作りだ。

■田口氏が語るオリックス再建論、再び黄金期へ「やり甲斐ある」

 オリックスが日本一に輝いた1996年。正左翼手として19年ぶり4度目の日本シリーズ優勝に貢献したのが、現2軍監督を務める田口壮氏だ。イチロー外野手(現マーリンズ)らとオリックスの黄金期を支えた田口氏は、メジャーリーグで経験を積み、2010年から2シーズンを再びオリックスでプレーした後に引退。解説者を経て、2016年にユニフォーム姿に戻った。2軍監督として目指すものは、長期的に戦える体力を持ったチームの土台作りだ。

 2000年に3位から4位になって以降、オリックスは2008年と2014年(いずれも2位)を除きBクラスに低迷。FA選手や外国人選手での補強で戦力を立て直そうとしたが、なかなか結果が出ていない。昨季は1軍、2軍共に最下位に終わった。すぐに結果が出る特効薬を求めたくなるが、立て直しは「焦ると無理だと思うんですよ」と田口氏は語る。

「基本的に、これだけ長い時間を掛けて弱くなったチームっていうのは、時間を掛けて立て直していかないと強くならないですよね。長期的な目でチームを見ていかないと。それには、自分の契約が単年なのか複数年なのかっていうのは置いといて考えないとダメな部分。僕の中では5年くらいを1つの単位として考えています。チームとしてビジョンを持って、ちゃんと次に受け継げるようにしておかないといけないですよね」

 体制が変わるとすべてが変わるのではなく、チームとして目指す流れを作ること。それが今のオリックスには一番大切なことではないかという。

「入団してきた新人は、合同自主トレではこういう流れでやって、キャンプに入ったらこう、3月のオープン戦に入ったらこう、そして4月に入っていきましょう、という流れで、結果を出せる状況を作っていかないといけない。同時に、5年くらいの年月を掛けてドラフトした選手を見ながら、チーム編成もどうやってドラフトしていくか、どう育てていくか、あるいは(FAやトレードで)補強するのがいいのか。いろいろ試行錯誤をしながら、弱くなったチームを立て直すための、チームとしての方針作りを球団と話し合いながらしないといけないと思います。

 そう言いながらも、1軍はやっぱり勝たないといけないですから。そことどう折り合いをつけながら立て直しを図るか。もちろん2軍も勝たないといけないと思ってやっていますし、負ければ僕も責任を問われれば取る覚悟はあります。ただ時間を掛けないとできないことだというのは、チームの共通理解として持っているので、僕としても(立て直しに注力するのは)難しくはないところですよね」

■最近2年のドラフトで合計26人を指名、オリックスの目指す方向は…

 現在、パ・リーグ2強とも言われるのが日本ハムとソフトバンク。田口氏は、日本ハムは「組織として選手の育成がしっかりしているチーム」であり、ソフトバンクは「競争の原理を働かせるチーム」と分析している。それぞれにやり方がある中で「オリックスはどれで行くんですかっていうところが出てこないといけない」と語る。

「去年(2016年)のドラフトとか、一昨年(2015年)のドラフトで人数を取っている。合計で26人です。そう考えると、組織として育成をしていこうという形ですよね。同時に“即戦力”って言われて入ってくる選手には、期待通りに活躍してほしいと思います。1軍は勝たなければいけないから、育てていくだけではキツくなりますし」

 2015年ドラフト1位の吉田正尚外野手は、昨季プロ1年目ながら存在感を見せつけた。選手は個々で才能や成長の速度が違うが、巡ってきたチャンスを生かすことができるか否かは「本人が持つ運と勝負強さ」だという。

「調子が上がってきた時にチャンスをもらえるかどうかは、その子が持っているものだと思うんです。絶好調でも1軍に枠が空いていないことはよくある。絶不調でも1軍に怪我人が出て上がらないといけないこともある。そこは本人の運ですよ。

 だから、常に選手に言っているのは、どんなに調子がよくても、どんなに調子が悪くても、上に呼ばれたら結果を残せるものをもっておけ、そのイメージだけは持っておけ、ということです。結局チャンスはいつ来るか分からない。いつでもパフォーマンスが出せるように心の準備はしておけよって言ってます」

 田口氏は選手に「基本的に3年間で9回くらいしかチャンスはない。その9回を逃したらプロではやっていけない」と伝えているという。2002年、カージナルスへ移籍した田口氏は傘下マイナーからスタート。自ら少ないチャンスをつかんでメジャーに定着した経験を持つ。それだけに、その言葉には重みがあると思うが……。

「今の選手は僕のメジャー時代なんて、もう知りませんよ(笑)。だから、言っても響かないと思います。僕も理解しろとは思ってないです。ただ頭の片隅に置いてもらって、自分が経験した時に『あれ、監督こんなこと言ってたな』って思い出した時、初めてその言葉が入ってくるんですよね。忘れててもいいんです。経験した時に思い出してくれれば。『チャンスは死に物狂いで行かへんと掴まれへんぞ』って言ってたわって」

■「1軍にずっと残る選手は目つきがギラギラしているんですよ」

 1年の監督経験を経て、チャンスを掴む選手にはある傾向があることに気付いたという。それは「気持ちの強さ」だ。

「傾向として、気持ちの強い選手は(1軍に)残りますね。上がって、ずっと1軍に残る選手は目つきがギラギラしているんですよ。1軍から落ちてきて、再び上がっていく選手もギラギラしています。やられましたけど、もう1回行きますよっていう雰囲気がある。『課題は見つかりました!』みたいな。上がれない選手、上がっても定着できない選手は、目がやられていますよね。ちょっとホッとしたような目になっている。しばらくは放っておきますけど。

 1軍の戦術で使える技術をどのくらい習得させるかっていうことは大事です。でも、それ以上に、いかに選手のやる気を出させるか、気持ちよく迷わずやらせるか、どこでムチを入れるか、そういう方が大事かもしれませんね」

 チーム再建はゴールの見えない壮大なプロジェクトだが「やり甲斐はあると思います」と、きっぱりとした声で言い切った。

「どのくらい時間が掛かるか。こればっかりはやってみないと分からないですね。強いチームにしたいっていうのが、みんなの思っているところ。パ・リーグ連覇をした95、96年は、阪神淡路大震災のあった年ですから、ある意味特別な年だったと思うんですよね。震災からの復興を目指すファンの皆さんの声援や力に後押しされた。本当にファンの皆さんに助けられたシーズンだった。

 おそらく次に勝つ時は、純粋に野球だけで勝たないといけない。そう考えた時、やはり別の形でファンの皆さんを巻き込んでいかないといけないと思うんです。それを踏まえて、あの頃とは違うチーム作り、ファンの皆さんに応援してもらえるようなチーム作り、チームを取り巻く環境を作っていかないと。今のオリックスなりのやり方を探していきたいですね」

「選手はチームの財産」と語る田口氏を中心に、オリックスがどんな形で長く勝てるチームを作り上げていくのか。その取り組みから目が離せなさそうだ。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

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