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早大野球部が子供たちに「野球の遊び場」を与える大きな意義とは

★チーム“未所属” の子供たち

 12月9日、西東京市東伏見にある早稲田大(以下、早大)の安部球場で野球に関心のある小学生に向けたイベントが行われた。早大野球部OBの有志を中心に行われたこのイベントが一般的な野球教室や野球普及イベントと異なるのは、参加者を少年野球チームに“未所属”の子供に絞った点だ。
西東京市内や早実小、webなどでの告知を通して163人の小学生が集まり行われ、この初めてとなる試みは多くの収穫や現代が抱える課題が見つかるイベントとなった。(文・写真=高木遊)

自然と声を出し、笑顔が弾ける様子が印象的だった


★親子の前にある入部の壁

テーマは「野球あそび」。こうした趣旨でイベントを行った背景には、「野球に興味はあるけどチームに入るにはハードルが高い・・・」と感じている親子が多いからだ。
罵声や怒号が飛ぶ厳しい練習の様子や親のお茶当番制などを見て「ピリピリとした雰囲気で入りづらい」と感じている親子、「受験勉強で練習に毎回来られないなら辞めてくれ」と言われ現在は未所属の子供など、今回の参加者だけでも様々な事例が聞かれた。
大渕隆氏(早大野球部OB/北海道日本ハムファイターズスカウト部長)は「子供達がもっと自由に野球に携われるはずなのに大人が子供の活動の仕方を限定してしまっている」と指摘する。当然昔からそうした厳しい体質のチームはあったが、現代は野球に限らず子供の遊び場が減少している。
「チームに入る・入らない以前に、遊んで楽しむ空間が無くなったんです。スポーツが単純にやる・やらないではなく“よし行くか”という勇気が必要な習い事の1つになってしまっている」(大渕氏)
中でも特にボールがどこに飛ぶか分からず硬いボールを扱う野球は禁止とされている所は多い。こうした背景から早大野球部ではすでに、東京六大学リーグの公式戦時に空いた安部球場を「遊び場」として提供。2019年には年8回の開放を予定している。これは常に遊びは野球に限定していないものの毎回20本ほど用意されたバットはすぐに子供たちが手に取り野球に興じているという。

「野球に成長させてもらっている人生」と語る斎藤佑樹は「僕たち大人が変わっていかなくてはいけない」と話した


★現役選手たちも唱える「遊び」の重要性

 イベントは12時の開会式からスタート(その前の10時45分からは遊び場開放し、簡単な野球道具やトランポリンなどの遊具を設置)。
まずは参加したプロ野球選手(日本ハム・斎藤佑樹、巨人・重信慎之介)、プロ入りが決まった小島和哉(来季からロッテ)と社会人トップの現役選手らがキャッチボールやロングティーでのデモンストレーションを実施。重信は持ち前の俊足を生かした盗塁も披露し、子供たちはその都度「速い!」「おー!」と歓声を上げた。
 その後は、安部球場に加えて軟式野球場も使用し、野球経験の度合いや年齢などによって振り分けられたチームが各所に分かれて即席のミニゲームを開催した。早大野球部員や現役のプロ・社会人選手らもプレーや助言を通して子供たちと交流。自然と子供たちの大きな声や笑顔が弾けるまでに時間はかからず、元気いっぱいにグラウンドを駆け回る姿があちこちで見受けられた。

重信慎之介が俊足を披露すると、子供たちから大きな歓声が挙がった


初心者や低学年の子供たちは手打ち野球を行うなどレベルや年齢に応じた形でゲームを楽しんだ

 イベントに参加した重信・小島の両選手も「遊び」の重要性を改めて感じたようだった。重信は「あ、こんな風に遊ぶのが楽しかったなあって思い出しました」と幼少期に池の周りで様々なスポーツを楽しんだという。だが現在では「東京の公園で何ができるかと言ったらベンチで休憩するしかできませんよね」と話し、だからこそ「野球以前に“外で遊ぶ”ということを習慣にしてもらえればと思います」と力を込めた。
 また早大のエースとして活躍し来季からプロの世界に飛び込む小島は「まずは“楽しい”と思わないと始まらない。(子供たちの)素直に“楽しい”という表情を見て、やっぱり“野球が好き”という気持ちを忘れずにしたいと思いました」と清々しい表情で語った。


子供たちとともに野球を楽しみ笑顔が弾けた小島

★大学だからこそできること
大渕氏は、現代は子供が遊ぶための「時間・空間(場所)・仲間」の3つの“間”が不足しているとした上で、「“教わる”というと受動的ですが、遊びの方が“人数が少なかったらこうしよう”とか“仲間を作ろう”とか創造的で教育的価値が高いんです」と話すように、これは社会問題とも言える。
また育成年代の運動指導などを研究する勝亦陽一氏(早大野球部OB/東京農業大准教授)も遊び場開放の際にアンケートをしたところ、野球に興じていた子供の約85%が「野球の遊ぶ場所がない」と回答していたという事情を踏まえて、今回のイベントの大きな意義を語った。
「昔は体験できたけど、今は体験できないことを体験させられたことが収穫だと思います。今日はアウトの取り方さえ知らない子もいました。だから最初はボーっとしている。でも大学生たちが“こうやって取るんだよ”と教えていくと分かっていく。その過程が一番大きな財産です。我々の1番のプレゼントは“野球の遊び方”を持って帰ってもらうことなんです」
例えば、バットを使ってはいけない公園でも、ゴムボールで手をバット代わりにして打つ「手打ち野球」は可能だ。そうして野球に触れる機会を得ることで野球の見方や遊び方も変わっていく。

今後の展開については、今回参加者に配布したアンケートなどを参考にしながら柔軟に進めていくという。例えば、今回のように告知に集まった子供たちでチーム分けをして大会を開くのも手だ。以前の野球普及イベントでは「楽しかったことは?」と尋ねると、野球の楽しさ云々以前に「新しい友達ができたこと」との回答が一番多かったこともあり、普段の学校活動とは異なるコミュニティーで人間関係が豊かになることは大きな意味を持つ。
それだけに首都圏の駅から徒歩圏内に広大な土地を持つ大学が、そうした場を子供たちに提供していくことは、野球人口の拡大という小さな世界の話だけでなく、子供達が体を動かすことや友達ができる喜びを与えるという社会的意義の大きな活動となっていくはずだ。


イベント終了後、笑顔で子供たちを見送る選手たち


取材協力=早稲田大学Hello! WASEDAプロジェクト、稲門倶楽部(早稲田大学野球部OB会)

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