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プロ野球

「1」からの再出発…背水のシーズンに挑む斎藤佑樹


◆ 歓喜の陰で…

 2016年、10年ぶりの日本一に輝いた北海道日本ハムファイターズ。歓喜に沸いたチームの中で、苦しい1年を送った男がいた。背番号「18」、斎藤佑樹である。

 プロ6年目を迎えたかつてのドラ1右腕は、11試合に登板して勝ち星なしの1敗。防御率も4.56と、昨年も輝きを取り戻すことができなかった。

 この前に日本ハムが日本一になったのは、2006年のこと。その時、男は間違いなく日本の中心にいた。

 都の名門を率いて甲子園制覇。特に田中将大を擁した駒大苫小牧との決勝・再試合は、今なお語り継がれる夏の伝説である。

 一人で69回・948球を投げ込みながら、常にその端正な顔立ちは崩れない。紳士な言動に加え、マウンド上でハンカチで汗を拭く姿には日本中が虜になった。

 プロからの注目も高かったが、男は大学進学を選択。早稲田大でも東京六大学野球史上6人目となる通算30勝300奪三振を達成するなど輝かしい功績を残し、2010年のドラフトでは4球団が競合。抽選の結果、日本ハムが交渉権を獲得した。

◆ 心機一転、背番号「1」へ

 プロ入り後は1年目こそ6勝(6敗)を挙げるまずまずのスタートを切るも、それがここまでのキャリアハイ。5勝(8敗)を挙げた2年目のオフに右肩の関節唇を損傷すると、そこから現在に至るまでの苦しい日々がはじまった。

 このオフには背番号の変更が決定。プロ入りから背負ってきた「18」は昨季限りとなり、今季からは「1」を背負う。

 エースナンバーの剥奪…。となると当然、大きな番号への変更をイメージするところだが、与えられたのは歴代のスター選手が背負ってきた「1」だった。

 「1番を提示されたときには、より一層身の引き締まる思いになりました」と斎藤。「球団の配慮には感謝の気持ちでいっぱい。この背番号に責任感を持ち、期待に応えるチャンスをいただいたので精一杯頑張ります」と意気込みを述べた。

 球団からの大きな期待は、本人も十分に理解している。それが現れたのが「配慮」という言葉だろう。まだ期待されている、見捨てられていないことを実感したからこそ、出てきた言葉だったように思う。

◆ “今”を全力で…

 だからといって、このまま何も変わらなければ未来はない。「次がんばる」の「次」がいつ来るか分からない厳しい世界の中で、男に求められるのは“結果”だ。

 このオフは数々のアスリートの肉体改造をサポートしてきたケビン山崎氏のもとでトレーニングを敢行。背水の覚悟で挑むシーズンに向け、しっかりと準備を行ってきた。

 後がない男には、“今”しかない。

 フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨頭と称されるアドラーの言葉に、「楽観的であれ。過去を悔やむのではなく、未来を不安視するのでもなく、今現在の『ここ』だけを見るのだ」というものがある。

 人生とは、過去から未来に続く一本の“線”ではなく、“点”の連続だ。点であれば何度でもやり直すことが出来る。だからこそ失敗を恐れずに、今出来ることに全力で挑め…というもの。

 斎藤佑樹という野球選手が築き上げてきた栄光は、彼を必要以上の注目の目に晒し、そして華々しく厳しい世界へと誘った。期待に応えなければ…という無理が重なった結果、大きな挫折を味わうことになったのだ。

 アドラー曰く、人生には“今”しかない。2017年に挑む斎藤佑樹にも、まさに同じことが言える。

 過去も未来も切り捨て、今を100%トライし続けた先に、きっと復活が待っている。背水の覚悟で「1」からの再スタートを切る右腕に注目だ。