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パドレス斎藤隆氏が唱える“球界改革” 日米両国の野球を経験して見えたこと


NPBで16年、メジャーで7年、合計23年の現役生活にピリオドを打ってから1年。ドジャースや横浜、楽天などでプレーした斎藤隆氏は、球団を経営するフロントオフィスという立場から、野球の在り方について学ぶ日々を送っている。2016年はサンディエゴ・パドレスでインターンとしてフロント業務について学び、今季からはパドレスのベースボールオペレーションアドバイザー兼パシフィックリムアドバイザーとして、球団経営やチーム戦略に本格的に携わっていく。

■メジャーでは均衡の取れたパワーバランス、日本では「球団の存在があまりに大きい」

 NPBで16年、メジャーで7年、合計23年の現役生活にピリオドを打ってから1年。ドジャースや横浜、楽天などでプレーした斎藤隆氏は、球団を経営するフロントオフィスという立場から、野球の在り方について学ぶ日々を送っている。2016年はサンディエゴ・パドレスでインターンとしてフロント業務について学び、今季からはパドレスのベースボールオペレーションアドバイザー兼パシフィックリムアドバイザーとして、球団経営やチーム戦略に本格的に携わっていく。

 選手とは別の視点から野球を知ることになったこの1年で、斎藤氏が日米の大きな違いを感じざるを得ないことがある。それが「選手、球団、機構の間にあるパワーバランスの違い」だ。日本球界のさらなる発展、さらにはアジアの野球発展を願う斎藤氏が抱く思い、目指す未来について語ってもらった。

 昨年、フロントオフィスの立場から球団経営や野球の在り方について学ぶ中で、日米の違いを痛感したのが、選手会の立場だった。

「アメリカ球界は、選手会とMLB機構と球団、3者のパワーバランスが非常にいい。メジャーの選手会は世界一強い労働組合と言われるだけあって、何なら選手会が少し強いくらい。選手が持つ権利を堂々と主張できる環境が整っているんです。今の日本球界は、球団の存在があまりに大きすぎて、よくも悪くもパワーバランスが整っていない。もちろん、いい部分もある。だけど、ちょっといびつな形になってしまっていると思います。

 日本の選手会は、選手の立場が強くなるように、今までずっと考えてきたけれど、なかなか仕組みを変えるのは難しい。おそらく、選手が自分で契約交渉したり、選手会の代表を務めるのが現役選手だったり、選手と球団の関係性が近いことも理由の一つかもしれませんね。現役選手が野球をプレーする以外に負う負担が大きいように思います。アメリカの場合、契約は代理人が済ませるし、選手会の代表を務めるのは弁護士だったり、元選手だったり。現役選手が実際に球団やMLB機構と交渉にあたることはほとんどない。

 選手会と球団とNPBのパワーバランスが、もう少し均衡を保てるものになったら、野球界のさらなる発展にもつながると思うんです」

 日米両国でプレーした選手の立場に立った時、最も声高に訴えたいのが、選手の年金問題だという。

「日本の選手会は、2012年に社団法人から一般社団法人に変わりました。これと前後して、選手の年金がほぼない状態になってしまった。つまり、プロ野球選手として夢を追いかけようとした場合、その後の人生に対する保障がなくなってしまう。選手として大成するのは一部だけ。でも、成功しなかったとしても、夢に挑戦できる土壌はあった方がいい。そのためにも、年金制度が整っていることが必要だと思うんです」

■政治、医学、経済…さまざまな分野の優秀な人物を巻き込みたい

 たとえ無名のままユニフォームを脱ぐ日が来ても、夢に挑戦した日々がまったく無ではなかったという保障があれば、高校や大学卒業と同時に野球に別れを告げる選手は減るかもしれない。野球選手という職業が、より現実的な部分で魅力を増せば、アマチュアを含む野球界全体の引き上げにもつながるだろう。斎藤氏がこういった訴えを口にするのも、日本やアジア球界の将来に危機感を持ちながら、さらなる発展を願っているからだ。

「10年くらい前までは、メジャーと日本球界の売り上げは、ほとんど変わらなかった。それがこの10年でメジャーが急速に伸びて、2014年には約1兆600億円の売り上げを記録した一方、日本はほぼ変わっていないんですよね。どうやったら、日本球界も発展できるのか。それを考えた時に、メジャーから学べることもあると思います。

 例えば、日本は今まで『野球が上手にプレーできる奴だけグラウンドに残れ』といった昭和のスタイルで、野球に携わってくれる優秀な人材を排除してきた部分がある。だけど、これからは高校や大学でも、スポーツマネージメントという観点から野球部の運営に携わるポジションを作ってもいいと思うんですよ。

 最近、東大野球部が強くなってきたけど、率先して医学や政治を目指す学生を野球部に所属させて、野球と政治、野球と医学を結びつけた形で盛り上げている。野球が上手くなくても、野球に携わる方法はいくらでもあると思うし、優秀な人材は積極的に巻き込んでいくべき。メジャーのフロントには、選手としての実績はないけど、経営者だったり情報分析だったり、違った分野に長けた人物がたくさんいます。

 日本の経済界は、世界にたくさん優秀な人材を輩出している。なのに、野球界が大きく発展できずにいるのは、単純に野球をサポートしてくれる人物が減っているんじゃないか、と思うんです。だからこそ、いろいろな才能を持った人物を積極的に巻き込んでいくべきじゃないかと」

 そもそも、日本のプロ野球チームは親会社でもある企業の広告塔である意味合いも強い。だが、日本のトップ企業が世界市場で勝負をする今、日本で球団を所有する意味について再考される可能性もある。もし企業が球団を持つことに利益や意味を見出せなくなったら…「野球界は消滅の危機とまでは言わないけれど、それくらいの危機感は持った方がいいと思う」と斎藤氏は話す。

「このままの形態では、日本の中だけで野球を成立させるのが難しくなってくるんじゃないかと。おそらく、韓国や台湾も同じような状況が生まれてくる。それぞれが危機にさらされる前に、アジア全体として野球界を統一して、協力していくべき。そこでリーダーとして主導権を握るのは、やっぱり日本だと思うんです。

 メジャーが中南米の野球界を巻き込み、ヨーロッパやアフリカ、中国に進出する様子を見る限り、世界の野球がなくなることはない。でも、アジアの野球はちょっと危うい面が多い気がします。アジアにはすでに素晴らしい野球文化がある。メジャーと同じことをするのは到底無理だけど、日本独自の方法でアジアのリーダーシップを取ることはできると思うんです」

■プロアマ問わず球界の未来を語り合う「日本ベースボールサミット」開催を提案

 日本が陣頭指揮を執り、アジアの野球を発展させる上でも、まずは、アマチュアとプロの垣根を越えて、日本球界全体がより活性化される必要があるだろう。そのためにも、斎藤氏は「日本ベースボールサミット」の開催を計画し、プロアマ問わず野球に関わるすべての人が語り合う場を提供したいと考えている。

「近い将来に、何かしらの形でやりたいと思っています。アメリカのウィンターミーティングを見て衝撃を受けたんですよ。個々の球団が利益を独り占めにするんじゃなくて、アイディアを共有しながら、意見を出しあって、みんなで球界を盛り上げようという動きがある。日本にもそういう場があっていいと思うんですよね。

 最近、仕事柄、アマチュアを中心に野球の現場に行くことがある。その時、指導者の方をはじめ野球に携わる方々から、いろいろな問題点や改善点を聞く機会が多いんです。たくさん質問を受けることもあって、そのほとんどは答えられるんですけど、唯一答えられない質問が「この現場の意見は誰に言えば届くんでしょう?」ということ。誰に言えば、今ある問題を検討してもらえるのか? 誰に言えば、現状を知ってもらえるのか? 

 野球界の未来を考えて、いろいろなアイディアを持っている人はたくさんいる。そういう人たちが、一堂に会して野球の未来について語り合う場があってもいいと思うんです。その場で問題は解決しないかもしれないけど、そういう動きを作るだけでも意味はあるのかなって」

 メジャー球団のフロントオフィスという新しい視点から野球を見たからこそ、日本球界が直面するであろう問題に改めて危機感を募らせたという斎藤氏は「メジャーに学びながら、日本独自の方法を見つけていきたい」と話す。

「メジャーとまったく同じことをしようとしても無理。彼らのやり方から学びつつ、日本オリジナルの発展方法を見つけていきたいですよね。日本の野球界が今まで積み上げてきた歴史がある。これはしっかりリスペクトしていかなければならないこと。そこを雑にしてしまったら、元も子もない。

 日本って、野球に対する理解や歴史、愛情、そういったもの全てを持ち合わせている気がするんです。やっぱり野球は愛されているスポーツだと。そして、愛する野球を長く存続させるために、危機感を持っている人たちが、プロにもアマチュアにもいる。変革を求めている人たちが、どう動いていくか。今、野球界は幕末の時代を迎えていますよ」

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