BASEBALL GATE

プロ野球

妻からの電話で届いた吉報 ロッテ指揮官が秘める家族への想い


マリーンズが千葉県鴨川市にて秋季キャンプ中の11月20日。伊東勤監督は朝、いつものように宿舎から球場までの10キロほどの距離をランニングした。汗だくになりながら球場に到着をすると突然、携帯電話が鳴った。妻からだった。

■ロッテ伊東監督の「自慢の家族」

 自分のことのように嬉しくあり、誇らしげだった。

 マリーンズが千葉県鴨川市にて秋季キャンプ中の11月20日。伊東勤監督は朝、いつものように宿舎から球場までの10キロほどの距離をランニングした。汗だくになりながら球場に到着をすると突然、携帯電話が鳴った。妻からだった。

 電話口から馬術に打ち込んでいる長女、佳菜子さん(24)が東京・世田谷の「JRA馬事公苑」で行われた「第68回全日本障害馬術大会2016 Part I」に出場し見事、決勝戦に進出したと伝えられた。そしてその後、2位(準優勝)に入ったという吉報が舞い込んできた。

 総勢23人が優勝を目指した中障害A(決勝戦)で、愛馬のクイナラとコンビを組みタイムは42.43秒。1位は男子で40.98秒。3位も男子。全国大会で腕っぷしがモノをいう中で、並みいる男性たちに負けじと力を発揮した愛娘の活躍を想像し思わず、頬が緩んだ。

「こういう連絡は嬉しいね。特にこういう仕事をやっていると家族でいる時間はなかなかないからね。子供たちが自分たちで選んだ世界で頑張ってくれているのは素直に嬉しい」

 シーズン中は厳しい表情が目立つ指揮官だが、この時ばかりは目を細めながら、いつもにはない高いテンションで語り出した。そして、しばし子供たちが生まれた時のことを振り返った。

 伊東監督の自宅の庭には大切に育てている木が今もある。それは、幸せのザクロの木。24年以上前に、夫婦で植えた想い出の詰まる木だ。

■それぞれの夢へ歩み出した子供たち

「結婚してなかなか子供ができなくてね。たしか、結婚して4年目だったかなあ。知人から、ふと『庭にザクロの木を植えるといいよ』とアドバイスを受けて、木を育て始めたんだよ。そしたら翌年に子供ができた」

 古くから種子が多いことから、豊穣や至宝に恵まれる吉木とされるザクロ。伊東監督は願い、想いながら、植えた。それから間もなくのことだ。結婚5年目で待望の子供を授かった。しかも、男の子と女の子の双子。夫婦で喜び、庭のザクロの木に目をやると、綺麗な紅色の実がなっていた。

「正直、それまでは半信半疑なところはあったけどね。でも、妻が毎日、水をやって想いを込めながら木を大切に育てていた。それが、子供ができたと同時に実がなってね。妻と一緒にビックリしたのは今でもハッキリと覚えているよ」

 そんな子供たちはすっかり大きくなった。2年前にそれぞれ自立し、ひとり暮らしを始めた。娘は中学3年生の時に友人に誘われて馬術に興味を持つと、のめり込んだ。大学卒業後は栃木県内で乗馬クラブのお手伝いをする傍ら、腕を磨く日々を送り、週末には馬術大会などにエントリーをしている。将来は馬術の本場である欧州などで修業をしたいという夢も持っている。

「子供たちは2月生まれ。生まれた時もハワイでのキャンプ中でなかなか顔を見ることができなかった。その後も現役生活、監督、評論家時代とずっとキャンプで誕生日を一緒に祝ってあげることができなかった。申し訳ない気持ちは今でもある。それだけになおさら、2人がスクスクと育って、それぞれがしっかりと目標を持って生きてくれているのは嬉しいのだよ」

■厳しいプロの世界、支えてくれる妻に感謝「精神的にもキツいと思う」

 長女はさらなるレベルアップを目指し日々、馬術の鍛練を続けている。長男もスポーツ関連の一般企業に就職し大きな夢を抱き、仕事に夢中になる毎日だ。2人がそれぞれの道をしっかりと生きてくれていることが嬉しいし、ここまで育ててくれた妻に感謝をしている。

「プロ野球は本当に大変な世界。でも、大変なのは支えてくれる妻だと思う。精神的にもキツいと思う」

 いきなり、双子の子供を育てるのは並大抵のことではなかったはずだ。しかも夫はプロ野球の第一線で戦う男。遠征ばかりで、ほとんど自宅にいない。それでも弱音や愚痴の一つも聞いた覚えがない。学校の父親参観、運動会、入学式、卒業式。そのような子供の行事も大体、チームスケジュールの都合上、行けないことが多かった。子育てを中心とした家庭のことは妻に任せっきりだった日々。現役時代などは、なかなかその負担に想いを巡らせる余裕がなかったが、改めて振り返るとその尊さを心から感じる。

「妻は旅行が好きなんだ。オフなどの時間がある時は一緒にゴルフをしたりもしている」

 季節は師走。伊東監督は束の間のオフを過ごしている。年が明けるとすぐにシーズンに向けた準備で慌ただしくなる。だから、今だけは家族のことをなによりも想う。ずっと支え続けてくれている妻。そして夢に向かって頑張っている2人の子供。自らもまた夫として、父として、まだまだカッコいいところを見せなくてはいけないと気持ちを引き締める。夢はもちろん、マリーンズでの日本一だ。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

マリーンズ球団広報 梶原紀章●文 text by Noriaki Kajiwara

関連リンク