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戦力外、現役引退からコーチへ 元捕手が目指す「選手に寄り添う」指導とは


23日に開催されたNPO法人野球振興ふるさと宮城プロ野球選手・OB会による「がんばろう! 宮城 少年少女野球教室」。11名の講師の中に、今季限りで現役を引退、来季は西武の2軍育成コーチとなる星孝典氏がいた。

■指導者の道へ踏み出す星孝典、地元で語った「教えること」への思い

 23日に開催されたNPO法人野球振興ふるさと宮城プロ野球選手・OB会による「がんばろう! 宮城 少年少女野球教室」。11名の講師の中に、今季限りで現役を引退、来季は西武の2軍育成コーチとなる星孝典氏がいた。

「みんなの構えを見せて!」

 ポジション別の指導。星氏はキャッチャーの選手たちを集め、構えさせた。一通り見た後、「ポイントがあります」と捕手の構えで重要な3つのポイントを伝授した。

〇かかとを上げること

 かかとが地面に着いたままだとお尻の位置が低くなり、逸れたボールへの反応が遅くなる。「キャッチャーは捕るのが仕事だけど、コントロールがいいピッチャーばかりじゃない。プロでもそう。だから、どんな球が来ても捕りやすい動きをするためにかかとは上げること」

〇ミットを的とし、しっかりと投手に見せること

 ミットを閉じていたり、下げていたりするとピッチャーは的にしにくい。「ここに投げて来い! という気持ちでピッチャーにミットを見せてあげること。ピッチャーにしっかりと的を作ってあげて」

〇左腕は伸ばさず、肘を曲げること

 左腕が伸びきっていると肩に力が入り、腕には力が入らない。「肘を軽く曲げることで腕に力が入る」

 一人ひとりの捕球を確認しながらアドバイスを送る星氏。3つのポイントを確認する時は、「1番目は何?」と聞いた後に「3番目は?」とイレギュラーに質問するなどして、しっかりとポイントを教えた。「今日からテレビを見る時もこの格好でいいよ。読書もこの格好でいいよ」など、笑いも交えながら、捕手講座を展開。かかとを上げて構えることにきつさを覚える子どももいたが、「慣れです。毎日、やればできると思います。慣れたら楽なので」と日々の積み重ねの大切さも説いた。

■理想とする指導者は…「引き出しを増やしていきたい」

「地元で野球少年たちと触れ合える機会。こういう時しかないので、毎年、楽しみにしています」。自身の結婚式翌日でも参加するなど、星氏にとって今回で13回目となったNPO法人野球振興ふるさと宮城プロ野球選手・OB会の野球教室。昨年までは現役選手として参加していたが、今年は現役を引退。来年から西武の2軍育成コーチとして指導者人生が始まる節目での野球教室となった。

 名取市の出身で仙台育英高、東北学院大を経て、04年ドラフトで巨人に入団した。11年5月に金銭トレードで西武に移籍。昨年、今年と1軍出場はなく、戦力外通告を受けて現役を引退した。来季からは2軍育成コーチとなり、若手の指導に当たる。1軍を目指す若い選手たちを指導する上で、心がけたいことは?

「長いスパンで教えられる、向き合える選手たちに対しては押し付けたくないなとは思いますね。僕自身、まだまだ勉強して知識も増やしていかなければいけません。みんなプロですから、自分なりの考えを持っているので、理想としては、気づいてもらえればいいのかなと思います。こだわりはあるかもしれませんが、何年かで結果を残さないといけない世界。ゆっくりもしていられませんが、自分で見つけて納得してほしい。その引き出しを増やしていきたいと思います」

 1つの理想として、恩師である仙台育英高・佐々木順一朗監督の名前が出てきた。

「佐々木順一朗先生がそうなのですが、答えを言わないんですよ。抽象的な例えしか言わないので」

■「人間観察から始まり、人間観察に終わる」―

 現在も選手自身に考えさせる指導をしている佐々木監督。「それは星さんの時もですか?」と尋ねると、「そうだよ。幹はどうした、幹は? 枝ばっかりだ~」と佐々木監督の口調と声を、身振りを交えて真似てくれた。

「そういうことを言われた時、どういうことなんだろう? って考えるじゃないですか。あ、幹って大事なんだ、基本なんだって。自分で考えるようになると楽しくなるし、こうしよう、ああしようという動きが出てくる。高校時代にそういうことを経験したので、自分も見習っていきたいなと思っています」

 自身の知識を深め、恩師から学んだ指導者としての姿勢を体現していきたいと考えている。その一方で、プロ通算12年で試合出場は138試合。その実績に「僕自身がパッとした活躍を残せないまま引退してしまったので、他のコーチに比べると言葉に重みがありません」と客観的に評価する。

「偉そうなことは言えないので選手に寄り添って、相談しやすい、近いところで気付けてあげられる存在になりたいですね。人間観察から始まり、人間観察に終わるのかな、と。パッと聞かれた時に的確というか、選手が納得するようなアドバイスを送っていきたいですね」

 1軍で華々しい活躍をする選手がいる一方で、プロ野球選手になるという夢を叶えながらもその舞台を目指しもがき苦しむ選手もいる。星氏は自身の経験とこれからの学びの中で、そんな選手とともに闘い、彼らの道を照らすコーチになるだろう。

高橋昌江●文 text by Masae Takahashi

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