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米国は家族と共に、日本は裏で支える…それぞれの美学


米国ではシカゴ・カブスが、そして日本では北海道日本ハムファイターズが、それぞれのホームタウンで多くのファンに見守られる中、優勝パレードを実施した。集まったファンの数を見ると、その規模の違いは大きいだが、街の規模の違いなどを考えると、単純比較することは難しいだろう。だが、両国の優勝パレードでは、それ以外にも明らかな違いが見られた。

■優勝パレードに見る日米の文化の違い

 米国ではシカゴ・カブスが、そして日本では北海道日本ハムファイターズが、それぞれのホームタウンで多くのファンに見守られる中、優勝パレードを実施した。シカゴでは500万人、札幌では13万8千人のファンが沿道に訪れたと報道された。

 集まったファンの数を見ると、その規模の違いは大きいだが、街の規模の違いなどを考えると、単純比較することは難しいだろう。だが、両国の優勝パレードでは、それ以外にも明らかな違いが見られた。

 皆さんもお気付きになっただろうか?

 日本の優勝パレードでは、選手とコーチ陣、そしてスタッフがオープンカーに乗車してファンの声援に応えるが、米国では選手やコーチ陣以外にも多くの”見知らぬ”人たちが乗り合わせていた。彼らの家族だ。カブスの選手たちのSNSを見ると、オープンカーの上で家族と喜びの瞬間を楽しんでいる様子が伝わってくる。

 米国の球団で働いていた頃は、家族を大切にする“ファミリーファースト”の場面に何度も遭遇した。例えば、スプリングトレーニングの期間だ。米国ではメジャーキャンプに参加する選手は、それぞれがキャンプ地で住まいを借りるため、家族が同行している場合が多い。一方、日本ではチーム全員が同じ宿舎に泊まるため、家族が同行する姿は見られない。

 さらに、メジャーの各球場にはファミリールームが完備されており、球場を訪れた選手たちの家族が待機できる。試合日にはベビーシッターも登場し、子供を預けることも可能だ。そして、遠征に家族の同行を許す球団もある。シーズン中はなかなか一緒に過ごすことのできない家族と、少しでも長い時間を過ごせるよう配慮する環境があった。ただし、遠征はあくまでも戦いの場へ行く移動と考え、行きの飛行機では家族の同乗を認めずに、帰りの飛行機では同乗を許可するというルールを設ける球団もあった。

■米国ではファミリーデーを開催し、家族と過ごす時間に配慮

 時には、本拠地で日曜日に行われるデーゲームで“ファミリーデー”を開催。練習前のクラブハウスには多くの子どもたちが姿を見せ、お父さんと一緒に朝ごはんを食べるシーンも見られた。また、練習前のグラウンドで選手が子供とキャッチボールをする光景はおなじみで、長いシーズン中に限られた家族と過ごせる日曜日の朝を、球団側も大切にしていたようだ。もちろん、これは私が実際に見た数球団での話なので、全てに該当するわけではない。

 私が見た中で最も家族を大切にする姿が感じられたのは、2011年、当時ミネソタ・ツインズに在籍したジム・トーミが通算600号HRを放った時だ。記録達成を目の当たりにしようと遠征にも家族が同行。敵地デトロイトで記録が達成された直後には、試合中にも関わらず家族がクラブハウスまで降りてきて、喜びを分かち合っていた。いかに野球選手が家族と共に戦い、喜びを分かち合っているのかを目の当たりにした瞬間だった。

 一方、日本では米国にはない優勝チームへの”ご褒美”でもある優勝旅行というイベントが存在する。全球団が同じルールなのかは分からないが、選手の家族が同行することが一般的だと聞く。しっかり支えてきた家族の貢献も理解しているからこその配慮だろう。

 急な昇格や降格、トレードや解雇と常に隣り合わせの野球選手の生活。それを側で支える家族のあり方にも、それぞれの文化が反映されるようだ。選手たちと共に球場に出掛けて支える美学もあれば、表には出ずに裏で支える美徳もある。

■テレビ画面では伝わらない選手を支える家族の存在

 メジャーリーグでは、2011年から選手も産休を取れる制度が導入された。さらに、親族の不幸などがあった際にもチームを離れることを可能にしたビリーメント・リストという制度が存在する。双方ともに25人の選手枠に影響を与えないように、当該選手がチームから離れている間は選手を補充できる制度だ。最低3日から最長7日間の登録が可能で、コミッショナー事務局からの許可を得れば、チームを離れてもMLB登録日数としてカウントされる。

 シーズンを通して選手やチームに帯同させてもらうと、長い1年の生活全てが野球中心に動いていることが分かる。野球は仕事だが、それでも人生には野球以上に大切なこともある。テレビの画面越しで見ているだけでは、なかなか感じられないことかもしれないが、選手にもそれぞれに家族をはじめ、支えてくれる多くの人たちがいる。

 チームが優勝を果たした時、喜びを爆発させる現場の裏では、彼らを支えてきた多くの人たちには、その努力が報われる瞬間が訪れる。共に戦う姿が見られる米国と、裏で支える日本。シーズンが幕を閉じる時、それぞれの文化の美学に思いを馳せた。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

「パ・リーグ インサイト」新川諒

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