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「ラミちゃん」捨てたDeNA新米監督 なぜ球団初のCSに導けたのか


かつて「ラミちゃん」と呼ばれた男の姿はなかった。今季、クライマックスシリーズ(CS)初進出を果たしたDeNA。その先頭に立ち、球団創設5年目の悲願に導いたのは就任1年目の背番号80、アレックス・ラミレス監督だった。

■「ラミちゃん」から「勝負師・ラミレス」へ、指揮官はいかにして生まれ変わったのか

 かつて「ラミちゃん」と呼ばれた男の姿はなかった。今季、クライマックスシリーズ(CS)初進出を果たしたDeNA。その先頭に立ち、球団創設5年目の悲願に導いたのは就任1年目の背番号80、アレックス・ラミレス監督だった。

 ヤクルト、巨人、DeNAと渡り歩き、外国人選手初のNPB通算2000安打を達成。豪快な打撃とともに「ゲッツ」や「アイーン」というパフォーマンスでファンを沸かせたベネズエラ人は今季、中畑清監督からバトンを受ける形でDeNA監督に就任した。選手から指揮官への転身、「名選手は名監督にあらず」とも言われる野球界で、しかも外国出身。10年連続Bクラスと低迷するチームの再建を託すには、ファンの不安も決して小さくなかった。

 それが、就任から1年後、10月の東京ドーム。半分がベイスターズカラーの青に染まった球場で古巣・巨人を破り、CS最終ステージ進出を決めたラミレス監督が、ファンの大声援に応えていた。

 チームの日本人レギュラーは全員20代の生え抜き。なぜ、就任1年目の新米監督は弱小球団とも言われるチームをCS進出に導くことができたのか。ラミレス監督とDeNAの1年の歩みを振り返る。

■指揮官が振り返る「ターニングポイント」は…

「今シーズンのターニングポイント」

 指揮官がそう振り返る試合があった。5月5日のヤクルト戦(横浜)。最大借金11で最下位にあえいでいたチームに頼もしい男が復帰した。梶谷隆幸。背番号3は3月に負った右脇腹から復帰初戦でホームスチールを決め、鮮烈な勝ち方でチームに停滞していた嫌なムードを一掃した。

 4月にはルーキー・今永が好投しながら打線の援護がない試合が続くなど、2度の5連敗を経験。だが、指揮官がチーム作りの中核として考えてきた外野手の復帰を境にして、ナインは自信を取り戻し、3週間で借金を完済。上位を伺う礎をしっかりと築き上げた。

 一方で、5月の快進撃に導く采配を形作るきっかけとなった出来事が、その前に起こっていた。ラミレス監督が「自らのミス」と認めた2つの試合だった。

■指揮官が認めた2つの継投ミス、気づいた信頼の重要性

 1つ目が開幕3戦目の3月27日、広島戦(マツダ)。3-0で迎えた6回、先発・石田に疲れが見えたと判断し、2番手・長田に継投。だが、結果的に打ち込まれて逆転負けを喫した。2つ目が5月1日、阪神戦(甲子園)。5点リードした7回、先発・山口が満塁のピンチを招いて救援陣に託したが、またも打ち込まれて大逆転負けとなった。

 それぞれの試合の後、石田については投手陣から、山口については本人から、まだ続投することはできたと指摘された。この2つの継投ミスを契機として、選手、コーチ陣を信じ抜くことの意識が芽生えたという。直前に得た失敗によって形作られた采配によって、5月の快進撃は支えられていた。就任当初から掲げていた「梶谷2番構想」も、本人のやりにくさを感じ取るとあっさりと止めたことも、その一例だろう。

 選手を信じ抜く――。その集大成となって表れたのは、助っ人の復活劇だった。CS進出の真っただ中にいた8月。ロペスが大不振に陥っていた。それでも「大きなスランプの後には必ず爆発が来る」と、指揮官は頑として、ロペスをスタメンを外すどころか打順を下げることもしなかった。結果的にロペスは30打席無安打の後、4試合で2本塁打を含む11安打を放ち、予言通りの「爆発」を見せた。

 当然、実績のない若手には決してこんな無謀な采配はしなかっただろう。だが、相手はメジャーでも第一線で活躍したキャリアを持ち、日本でのプレーも4年目を迎えた助っ人。確信に近い予感に導かれた信頼によってロペスは復活し、9月に12本塁打で月間MVPを受賞するなど、CS進出をかけた最終盤でチームの大きな助けとなった。

■「普通」のことを「普通」にやり抜く「凡時徹底」の強さ

 もちろん、信頼を寄せたのはロペスだけではない。経験の少ない若いチームが自信を持ってプレーする上で、信頼が重要となることを指揮官は知っていた。潜在能力を持ちながらくすぶっていた山口をエースに指名し、自己最多の11勝へと導いた。野手陣でも球団の顔に成長した若き主将・筒香には「うちの4番ではなく、日本の4番だ」と自尊心をくすぐり、打撃2冠を後押しした。

 桑原、宮崎、倉本、戸柱といった若手にはシーズン終盤、「うちのスタメンの半分は今年初めてレギュラーとなった選手。監督がこれ以上、ものを言うとさらに重圧を感じてしまう」と少々のミスや不振では決して苦言を呈することなく起用し続けた。選手を信じ、能力の最大限を引き出す。それが、ラミレス野球の象徴となり、いつか失速するだろうという周囲の評判をよそに、シーズン終盤でも息切れすることなく戦い抜いた。

 そして、9月19日の広島戦(横浜)。雨中の試合を制し、DeNAは前身の大洋時代を通じて初の外国人監督によって、歴史的なCS出場権を獲得。本拠地を埋め尽くしたファンの歓喜に包まれた。

 外国人でありながら、日本の高校野球でよく使われる「凡事徹底」という言葉を好んだラミレス監督。ミスをミスと認めて反省し、自らを支えるコーチ、選手を信じてタクトを振るった。現役時代から得意だったという相手の配球分析をはじめ、対右左や球場ごとの成績など、あらゆるデータを駆使した野球上の采配は極めてオーソドックス。ことさら監督色を出し、変化を求めたがる指揮官もいる中、信念を持って「普通」のことを「普通」にやり抜く強さが背番号80を支えていた。

 来季に向けて「優勝を争えるチームを作りたい」と19年ぶりのリーグ制覇を掲げている。誰もが知っている「ラミちゃん」は、もういない。その姿は「勝負師・ラミレス」そのものだった。

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