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中京大中京にコールド勝ちの公立進学校・西春(西愛知)夏は返り討って頂点へ【100回目の甲子園狙うダークホースVol.4】

★初回に7連打

 今春の愛知県大会で、中京大中京が公立校にコールド負けを喫した。“甲子園最多勝利校”大敗のニュースは、瞬く間に県内外を駆け巡った。ジャイアントキリングの主役こそ、今回紹介する西春(にしはる)だ。その後も勝ち進み、県4強入り。この夏、夢が膨らんでいる。


森藤秀幸監督(左から2人目)のもと、今春の愛知県大会でベスト4入りした


 西春は創立40周年の進学校。難関国立大学の合格者も多い。下校時間は夜6時だから、部活動の時間は制限される。野球部OBには近年、東京六大学リーグで話題になった山本俊(東京大投手・2017年卒)がいる。37歳の森藤秀幸監督は西春OBで北海道教育大卒。初任校の内海で4年間監督を務めたのち母校へ異動し、11年目を迎える。

 中京大中京戦では初回に7点を奪い、スタートで試合を決めた。ノーアウトからいきなりの7連打(死球1を挟む)。シュアに弾き返し、シングルヒットを重ねた。森藤監督は「あそこまでの攻撃は予想以上だったが、ウチの(身上とする)攻略法。バットを振ればヒットが出る雰囲気があった」と振り返る。ミート力のある松平啓夢(3年)や長打が望める森田恭平(同)らが中心だが、下位打線も劣らない。


打線につながりがあり、連打が出る。冬場の振り込みの成果が春に出た(写真は磯貝渉選手)


 猛攻での強豪校打破は、思い描いた理想の展開だった。「打てなければ勝てない。この冬に関しては、ノックなどはほとんどせず、バットしか振っていないぐらい」(森藤監督)というほど、冬場は打撃練習に力を入れてきた。昨秋、県大会初戦で2点しか取れず競り負けた反省もあった。グラウンドは他の運動部と共用のため、打撃ケージでスイングを重ねた。自主練習も含め、土日は1日2000スイングに及んだ。
 球をとらえる力と、連打で相手を攻め立てる集中力は見事だ。今年だけに限らず、昨夏の愛知大会初戦でもそんなシーンがあった。瀬戸を相手に4回表に3連打などで3点、5回表に5連打(四球1を挟む)などで5点を奪い、相手の好左腕をノックアウトしている。昨夏は次戦でその年のセンバツ出場校・至学館に1対3で敗れたが、中京大中京を破った今年は強豪私学が相手でも怖くない。

★安定感抜群のエース左腕

 打撃に比重を置けた背景は、普段のノックなどで元々の守備が安定していたから。「昨夏を経験している選手も多く、昨秋はある程度、守備の対応ができていた」と指揮官は言う。雨の日には空きスペースで、テニスボールを用いて打球への入り方の練習を繰り返すなど、基礎も徹底。ポジショニングにもこだわる。


エース左腕・尾崎聡大は制球がよく、ゲームメイクに長ける


 エース左腕の尾崎聡大(3年/177cm、66kg)が計算立つのも大きい。「球速はなくてもコントロールがよく、きっちりコースへ出し入れできる。試合を作れる」と森藤監督も信頼を寄せる。チェンジアップも効果的だ。今春は中京大中京を7回1失点に抑えた後も、愛知を9回1失点、愛産大三河を9回2失点と安定。チームは準決勝で東邦に敗れたが、尾崎は登板を回避しているから、“もし投げていたら”の期待も高まる。なお、昨秋の公式戦で尾崎はノーヒットノーランも達成している。
 尾崎は「相手が強豪校でも『倒してやろう』とポジティブな気持ちで試合に入れた」と今春を振り返り、「夏は他チームの警戒も厳しくなると思うが、甲子園へ行きたい」と意気込む。

 西愛知大会の組み合わせ抽選の結果、西春と中京大中京は互いに勝ち進めばベスト8をかけた一戦で当たる。森藤監督は春季大会直後から「中京大中京さんはウチに負けて、その後かなりの目つきでやっているはず。それでももう一度、西春が勝たなければ」と話していたが、その機会が現実になりそうだ。西春が再び、戦国愛知を盛り上げる。


初めてシード校として今夏の愛知大会に臨む。春に続く旋風に期待だ


文・写真=尾関雄一朗