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再び野球熱取り戻すために― 復興地・石巻が「一枚岩」で続ける活動とは


石巻野球フェスティバルが23日、宮城県石巻市の石巻市民球場で開催された。

■東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻

 石巻野球フェスティバルが23日、宮城県石巻市の石巻市民球場で開催された。石巻市内やその周辺地域の小学生や中学生がストラックアウトやスピードガンコンテスト、ロングティーコンテストに挑戦。地元の高校や石巻専修大、社会人野球の日本製紙石巻の野球部員らが補助をしたり、アドバイスを送ったりし、交流を深めた。また、宮城で活動する女子プロ野球チームの東北レイアの5選手も辻内崇伸コーチと参加した。

 ストラックアウトのボードを見事に抜き、「よっしゃー!」と喜ぶ子。逆にボードまで届かず、「え? 当たらないよ?」と悔しがる子。それを「頑張れ!」「当たる!」と励ます子。ホームベース付近では高校生がトスするボールに小学生がフルスイング。飛んだ打球を高校生が追い、「◯メートル!」と計測している。「お!? すごい!」「あ!? 惜しい!」といった声に笑い声も響き、石巻市民球場には笑顔があふれた。

「高校生がトスを上げて小学生が打つ。10年前、いや、5年前だって想像がつかなかった。地方はこうやって盛り上げていかないと」

 そう言ってロングティーコンテストに目を細めたのは仙台工高の松本嘉次・宮城県高野連副理事長。12年センバツ大会に石巻工高が出場した時の監督だ。

 言うまでもないが、石巻市は2011年3月に発生した東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた。元々、野球の盛んな地域だったが、震災後の人口流出などにより、競技人口も減少の一途をたどった。かつては少年野球人口が約1200人、1チームに4、50人所属していた時代もあったそうだが、今は全体で300人弱だという。

■野球人口の拡大を目指し、世代間交流

 石巻圏のある地域では震災前に8つあった少年野球チームが2つに減っている。中学校の野球部も合同チームで大会に出場するなど減少傾向にあり、市内の高校の野球部員不足も顕著だ。そんな状況から「みんな、危機感はあったと思う」と松本副理事長は話す。

 石巻工がセンバツ大会に出場した時、震災で傷ついていた街は希望に沸いた。一方で競技人口は減り続けた。「盛り上がった雰囲気を下げたくなかった」との思いから、震災から3年後の14年春、石巻地域の小学生から社会人野球まで11団体が連携を図る石巻野球会議が発足した。

 中心の石巻市は小、中、高校に加えて大学、社会人野球チームまである。「(地方では)大学や社会人もある珍しい地区。震災後、人口が減り、小学校も中学校も高校も何かしら危機感は持っていた。1つになって何かしようという時に大学も社会人も協力してくれたのは大きい」と石巻市在住の松本副理事長。東松島市(旧矢本町)出身の石巻野球会議・内海利彦会長(東北地区野球連盟会長、宮城県野球協会会長)は「野球が盛んで、『石巻地区から甲子園へ!』という思いがある地域だからまとまりやすかったと思う」と分析する。野球で街を盛り上げようという機運が高まり、地域のアマチュア野球が一丸となった。そして、野球人口の拡大を目指し、世代間交流を図っている。

 その中のイベントの1つが石巻野球フェスティバルだ。子どもから大人まで、みんなが楽しめる催しをということで、講師と受講者に分かれる野球教室ではなく、ストラックアウトやスピードガンコンテスト、ロングティーコンテストといった“遊び”で交流を図る。日本製紙石巻の西川一樹トレーナーによる小学生でも楽しんでできるトレーニング講座やミズノの遠山義宏氏によるグラブのお手入れ講座も同時進行。また、野球未経験者のためにティーボールを行うスペースも用意され、3歳と6歳の姉妹や小学1年の男の子などが野球に“入門”。打ったり捕ったりする楽しさを体感していた。

■復興地・石巻ではアマチュア野球が「一枚岩」に

「野球は辛いんじゃない。楽しいんだよ、ということを感じてほしい。だから、フェスティバル。お祭りなんです」と松本副理事長。メインは小、中学生で高校生や大学生、社会人選手は補助をしたり、アドバイスを送ったり、はたまた盛り上げたり。合間には自らも挑戦し、童心にかえっている。最後にはチーム対抗でダイヤモンドを1周するムカデ競争で盛り上がった。カテゴリーや世代の垣根を越え、子どもから大人まで野球という1つのツールで繋がっている仲間として楽しい時間を過ごした。

 どのブースからも笑い声が響き、笑顔が絶えない。内海会長は「小学生から社会人までが1つになってやるイベントはなかなかないので素晴らしい取り組み。一緒の土壌でみんなで明るく楽しくやれる機会はない。みんな、楽しい思い出は残ると思いますね」と子どもたちのはしゃぐ姿に目尻を下げた。

 石巻野球会議では、小学生や中学生が高校生、大学生、社会人の選手たちと触れ合うことで、「上のレベルまで野球をやってくれれば」との願いもある。石巻中出身で仙台育英高、東北学院大を経て日本製紙石巻でプレーする井上信志選手は「自分が小さい頃にこういうイベントがあったらよかったなと、うらやましくなりました。自分も楽しませてもらいました」と笑顔。続けて、「都市対抗には石巻市の代表として出るので、市民の皆さんから応援されるきっかけになればいいなと思います。子どもたちに『お兄さんたちの試合を観に行こう』と思ってもらえれば有り難いですね」と話した。

 東日本大震災から立ち上がっている復興地・石巻にはアマチュア野球が一枚岩になり、地域を盛り上げようとする熱い思いがある。

高橋昌江●文 text by Masae Takahashi

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