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王者・大阪桐蔭を苦しめた三重・定本投手のインコース攻め

「選抜第11日」 大阪桐蔭―三重  大阪桐蔭―三重 12回裏大阪桐蔭2死一塁、藤原(左)にサヨナラ二塁打を浴びた定本=甲子園【写真提供=共同通信社】

  正直に書くと、三重高校は選抜に出られるか微妙だった。
秋の東海大会、準決勝で東邦に敗れている。9回、2アウトまで1点差で勝っていながら2ストライクから逆転ホームランを喫した。この東邦を最後まで苦しめた健闘が評価された。付け加えると、例年の32校のセンバツだと東海地区は2校。記念大会の今年は東海地区に1校増の割り当てがあったのだ。

 そんな3番目。なかなかどうして、日大三に8対0で快勝、星稜には14対9で粘って打撃戦を制した。
 準決勝は因縁の大阪桐蔭。実は三重高校は4年前の夏の決勝で大阪桐蔭に4対3で敗れている。終盤までもつれたが、優勝旗には届かなかった。
 三重の小島紳監督は副部長として、ネット裏からその試合を見ている。

 愛知の名門、中京大中京出身の小島監督が監督に就任したのは去年の夏。このチームは中村好治前監督が「強いチームを渡したい」と言って引き継いだ。
小島監督が言う。
「中村前監督からいろんなことを学びました。今のイケイケ野球は自分がやってみたい野球だった。三重の元々のスタイとでベンチにいると楽しい野球です。中京大中京とはかなりは違うはず。4年前の快進撃は中村前監督と私で、野球だけではない学校生活も含めた指導に間違っていなかったことが繋がった。それを継続しています」

  28歳、今大会では最年少の監督。強気な言葉が口をつく。
 「練習通りのことをやってくれれば勝機はある。いいピッチャーを攻略して来た自信だけはある。4年前のことは指導者は期するものを持ってますが、選手には関係のないことです」

 ゲームは延長12回裏、タイブレーク寸前に決着がついた。大阪桐蔭は1死から2番の青地がショートゴロエラーでセカンドまで進み、2死になって4番の藤原が左中間を割る。青地がサヨナラのホームを踏んだ。
先制したのは三重。3回に9番の井上、1番の梶田が連続ヒット。2番の浦口もインコースをすくい上げて右中間に二塁打。2者が生還した。
王者を苦しめたのは先発したキャプテン定本拓真投手。去年の秋の東邦戦でリリーフし、1アウトを取ったのみで降板させられ、エース番号も譲っていた。

 「大阪桐蔭は行きたかった高校。今は見返したい相手」
いろんな屈辱を晴らす登板でもあった。

 「上半身の強さでまっすぐを押し込める。そして角度があって強気に左バッターのインコースを攻めていけるピッチャー」と小島監監督が良さを語る。
  その通り、140キロを超えるストレートでインコーナーを果敢についた。スライダーやフォーク、100キロ台のスローカーブも有効だった。大阪桐蔭打線は5回まで、散発の3安打。6回に山田にソロホームランを浴びたが、8回までリード。
9回、追いつかれるが、10、11回も気迫で抑え込んだ投球はよもや、と思わせた。「4人の継投もあり得る」と言っていたが、「定本を信じた」と小島監督は完投させた。

 大阪桐蔭の各バッターは証言する。
 「重いボールだった。とらえたと思っていても安打にならない。球威があった」(青地外野手)
 「気持ちで投げてくる。リリースも見にくい部分もある」(宮崎外野手)
 「真っすぐと変化球も絞り切れなかった。真っすぐの圧はすごい。真っすぐは狙って打ちに行かないと打てない」(山田内野手)

 「インコースで詰まらせることができた。ストレートで押す、自分のピッチングができて自信になりました」
定本のゲーム後の顔は晴れやかだった。

 「定本がよう投げて、頼り甲斐のあるキャプテンでした。僕は弱気になったり、経験の無さが出た。ミスを選手がカバーしてくれた。最後に勝ちきるところが桐蔭さんの凄さですがここまでやれて、4年前から成長している。想定は5点ぐらいに抑えてこっちが7、8点取れたらと。3対2のスコアは考えていなかった。想定なんて当てにならないですね。それは子供達が想像以上に成長したからだと思います」

 小島監督は大阪桐蔭に優っているのは「野球が好きだということ」だと言った。大阪から来ている子が多いが、中学でトップの子ではなく2、3番の選手が多いそうだ。「でも、2年間、野球に楽しく打ち込んで来た気持では負けていない」。

  定本に見返すチャンスがまだ、残っている。
 「今日のゲームは悔いがない。夏はもっと成長してリベンジしたい」
 (文・清水岳志)