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プロ野球

パワーカーブにはフライを減らす効果がある

写真提供=共同通信

 「カーブは本塁打を打たれづらい」

 昨年末からシーズン開幕前にかけて、いくつかの野球関連メディアでカーブをテーマに話をする機会があった。

 「カーブが本塁打を打たれづらい」ことを示す根拠は、この数字だ。

 ストライクゾーンに投げた球がどの程度のペースで本塁打なるかを表したもので、過去10年で見ると、最も本塁打になりづらい球種はカーブだと分かる。

■カーブには多彩な種類がある

 ただし、カーブは種類が豊富だ。上の図は横軸にストレートの平均球速、縦軸にカーブの平均球速をとったもので、プロ野球の投手が投げるカーブの多様性を示している。

 例えばディクソン(オリックス)のストレートとカーブの球速を比べると、ストレートが144.8キロなのに対し、カーブの球速は133.2キロとなっている。ストレートに対するカーブの球速比率は92%で、速いタイプのカーブだ。反対に澤田圭佑(オリックス)はストレートが140.7キロでカーブが95.0キロ。球速比率は68%と、遅いタイプのカーブを操っている。また、日本ハム時代の大谷翔平とサファテ(ソフトバンク)を比べると、ストレートは大谷の方がやや速いが、カーブはサファテの方が10キロ以上速い。西武時代の牧田和久と山中浩史(ヤクルト)というアンダースロー同士で比べても、ストレートは牧田の方が速いのに、カーブは山中の方が10キロ以上速いという特徴もある。

 握りを見ても、例えばディクソンのカーブは「ナックルカーブ」という人さし指を立てて握るタイプであるなど、さまざまだ。「カーブが本塁打になりづらい」とはいったものの、本来は「本塁打になりやすいカーブ、なりづらいカーブ」があるはずである。

■カーブの球速と「見逃し、空振り、ファウル」の関係

 そこで、ストレートに対するカーブの球速比率ごとに、投球結果がどう違うのかを見ていきたい。

 上の図は2008~17年のデータをもとに、ストライクゾーンに投げたカーブでストライク(見逃し、空振り、ファウル)がどの程度とれていたかを表した折れ線グラフだ。図からは球速比率が低くなるにつれて見逃しが増え、ファウルや空振りが減る傾向が分かる。球速の遅いカーブの方がスイングされず、見逃しはとれるということだ。

■遅いカーブはフライになりやすい

 打球の傾向はどうだろうか。上の図は同じく2008~17年のデータをもとに、ストライクゾーンに投げたカーブのうち、スイングされた球を対象にゴロ、フライになる割合を調べたものだ。この折れ線グラフからは、球速比率が低くなるにつれてゴロの割合は下がり、フライの割合は上がることが分かる。

 つまり、ストレートに対する球速比率が高く、速いタイプのカーブはフライを少なくする効果が大きいということになる。一方、球速比率が低く、球速が遅いタイプのカーブは「見逃し」をとれることに利点があるものの、必ずしもフライを少なくする投球ではない。特に変化球待ちの打者や追い込んだタイミングなど、スイングされる可能性が高い状況では、遅いカーブは本塁打を防ぐ選択肢として正しくないと考えられる。

■石川柊太の「パワーカーブ」は特殊なカーブ

 ところが、ストレートとの球速比率だけでは説明できない、特殊なカーブを投げている投手がいる。それがソフトバンク・石川柊太だ。

 石川のカーブは「パワーカーブ」と呼ばれているが、上の図を見ても、他の投手に比べて球速が飛び抜けているわけではない。ストレートの平均が146.6キロ、カーブの平均が120.5キロであり、ストレートに対するカーブの球速比率82%は平均的な数値だ。

 球速比率は平均的ながら、石川のパワーカーブの投球結果には目を見張るものがある。見送り割合、空振り割合が高いことに加え、最も注目すべきはスイング時のゴロ、フライの割合だ。ゴロ割合は33%、フライ割合は9%とスイングされても打球が上がりにくいという傾向が出ている。先ほどの折れ線グラフを見ても、球速比率80%付近での平均的なスイング時のゴロ割合は20%後半、フライ割合は20%前半であり、石川のパワーカーブとの差は大きい。まだサンプルが少ないとはいえ、石川のパワーカーブはフライを減らす効果があるといえそうだ。

 では、石川のパワーカーブは他の投手とどのような点で違いがあるのだろうか。明確なデータはないものの、推測できるのは「球質」の違いだ。球速は平均的でも、他の投手と比べて変化が大きく、打者が想像するカーブの軌道よりも地面に近い方向に曲がっているのではないだろうか。その結果として、バットの下に当たることが増えて、ゴロが増えていると考えるのが自然だろう。

 オフの間にはDeNA・今永昇太や巨人・桜井俊貴に「パワーカーブ習得を目指している」という報道が出るなど、「パワーカーブ」は新球種のひとつとして認知されつつあるが、いまひとつその正体はつかめていない。石川のカーブをパワーカーブの代表例として捉えるならば、少なくとも「パワーカーブ=球速が速いカーブ」ではない。投球結果から分かるのは、今のところ「パワーカーブ=球速は平均的だがフライになりづらいカーブ」というところまでだ。

 ただし「普通のカーブより落ちる方向に曲がっているかどうか」や「球を変化させるための回転数が多いタイプかどうか」、さらには「カーブを打った打球にどのくらいの角度がついているか」などは、ほぼすべての球団が導入を始めている投球のトラッキングシステムで明らかになることだ。となると、石川の躍進をヒントに新たなパワーカーブの使い手を育成、発掘する球団が現れるのは時間の問題だろう。

 いよいよ、今日から開幕した日本プロ野球。果たして、パワーカーブを武器に被本塁打を減らそうとする投手がどの球団に現れて、チームにどのようなアドバンテージをもたらすのか。そんな視点でチームや選手をウォッチするのも、新しい楽しみ方のひとつだろう。

※データは2018年3月29日時点

文:データスタジアム株式会社 金沢 慧