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ベストナイン2回&ゴールデングラブ賞2回の元捕手が「一球の重み」を語る

現役時代の西山氏。冷静なインサイドワークでベンチからの信頼もあつかった【写真提供=共同通信社】

 野球とは「一球」の積み重ね。「一球」が試合の流れを作り、「一球」が勝負を決める。そんな「一球」の怖さを知る1994年・96年ベストナインとゴールデングラブ賞を受賞した西山秀二氏。上宮高校から南海へ入団し、トレードで加入した広島で正捕手の座を掴み、05年には巨人でプレー。引退後は巨人のバッテリーコーチとしても手腕を発揮した名捕手に「一球の重み」を聞いた。

――昨今、野球ファンに「一球」を正確に伝える『一球速報』メディアでプロ野球の状況を知るファンが多く存在します。西山さんは現役時代、捕手として“一球の大切さ”を痛いほど味わったと思いますが、その中でまずは、勝負の振り出しである「初球」のサインを出す時には、何に気を付けていたのでしょうか?

「どうしても初球というのはバッターが有利になる。ヤマを張ることができる。初球を空振りしてもまだ1ストライクだから、思い切ったスイングができる。その点を、ピッチャーを含めたバッテリーは常に頭に入れておかないといけない。もちろん打たれることはあるけど、警戒していても打たれたのか、それとも何となく投げたボールが打たれたのかで、その後の試合展開が大きく違ってくる。それが、初球の一球を見るときのポイントです。」

――「0-0」から「1-0」、「2-0」など、ボールカウントは全部で12種類ありますが?その時、打者とはどんな駆け引きをしていますか?

「そう。その中で打者の心理は目まぐるしく変わってくる。そしてデータにハッキリと出ているけど、打者というのはノーストライクの時の打率が一番高くて、1ストライク、2ストライクと、ストライクカウントが増えるほど、打率が低くなっていく。その意味でも初球というのは非常に大事になる。そして、いつ決め球を投げるかってことも重要。決め球ばかり投げても読まれる訳で、そのボールを投げるまでの過程が大切になる。まさに一球の積み重ねです。」

――3ボール2ストライク、フルカウントの場面では何が大事でしょうか?

「それも決め球の考えと同じことで、そこに至るまでの過程が大事。だから同じフルカウントでも、場面によって、あるいは打者によって、要求する球は変わって来る。野村(克也)さんが『フルカウントには野球の醍醐味が詰まっている』と言っていたけど、まさにその通りだと思う。」

――現役時代に対戦していて、もしくは同僚で印象に残っていた打者は?

「落合(博満)さんに金本(知憲)、前田(智徳)かな。彼らは追い込まれてから強さを発揮した。特に落合さんは、追い込まれている状況で、もうバットが出てこないだろうというタイミングでバットが出て来た。それが追い込まれてからの強さに繋がっていたし、一流の証だと思うよ。」

――現役捕手陣のリードを見ていて思うことはありますか?

「昔はもっと捕手のリードで勝った試合が多かったように思う。言葉は悪いけど、当たってもいいぐらいの感覚で打者のインコースを突いて、思いっ切りのけ反らせてから外角を攻めるという場面が多かった。でも今は相手にケガをさせてはいけないからと、そういう攻めをあまりしなくなった。」

――「一球速報」の中で、今季のペナントレースではどんな戦いを期待しますか?

「熱い戦いが見たいね。別に昔が良かったとは言わないけど、相手チームに敵意をむき出しにして、戦う姿勢というものも見せてもらいたい。今は他球団の選手と自主トレを一緒にしたり、侍ジャパンで一緒のチームになったりして、敵同士の選手が仲良くなった。それは良い面もあるけど、“戦い”という意味では不要なものになる。戦う姿勢を見ることができる一球を期待したい。」

まさに「一球」の積み重ねが、数々のドラマを生んできたプロ野球。「一球」の重みを感じながら野球に接することこそ、ファンが野球の醍醐味に近づける方法なのかも知れない。今年も各社が展開する「一球速報」に注目だ。