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プロ野球

フライボール時代を生き抜く

写真提供:共同通信

■打撃に革命が起きる

 「フライボール革命」という単語を最近ずいぶんとよく見かけるようになった。打者はフライ性の打球を打つことが成功への近道だという理論が提唱され、それに倣うように多くの打者がフライボールヒッターを志向している。言うまでもなくこの現象は野球データ解析の本場MLBで始まり、彼らの昨シーズンの年間総本塁打数は史上最多の6105本に及んだ。

 海を渡った日本人投手もその影響を強く受けている。ダルビッシュ有、田中将大ともに昨シーズンは被本塁打のキャリアワーストを更新した。全てがフライボール革命の影響とは言えないが、投手にとって過酷な環境になっていることは間違いないだろう。

 そして、例によってこの文化は日本球界にも着実に浸透してきている。柳田悠岐に代表されるように、何人かの打者がフライ性の打球を増やすことを目標に掲げ、スイングの軌道を変えたり、ボールの下側を捉える意識を高めたりしている。最近では、打球にバックスピンをかける技術を体得するための新たな練習器具も話題になった。近いうちに、NPBにもフライボール全盛の時代が到来する可能性は十分にある。

■投手の対抗策を考える

 これは投手にとってみればある種の死活問題だ。2011年の低反発球導入の際に多くの打者が著しく成績を下げたように、プレーする環境が変われば成績に影響が出る。ボールの問題と違って、フライボール革命は打者の競技レベル向上とも言えるため第三者目線では歓迎すべきだが、その環境の変化に適応できない投手もきっと出てくるだろう。

 では、投手や彼らを指導するコーチ、また球団の戦略部門はフライボール時代の到来に向けてどう備えればいいのだろうか。

 よく一般的に聞くのが、フライボール革命においてはアッパースイングの打者が増えるため、高めのストレートが有効になるという話だ。逆にこれまでセオリーだった低めへの投球は、アッパースイングによってすくい上げられるため、通用しづらくなるという。今回はその定説について検証したい。フライボールヒッターには、本当に高めのストレートが効くのだろうか。

 検証を進めるにあたり、まずはフライボールヒッターを定義する必要がある。そこで過去5シーズンを対象に、ファウルを除くインプレーの打球を年間100本以上放った打者、のべ740名をフライ割合の高い順に並べ、人数が均等になるように5つの集団に分ける。フライ割合とは各打者の全打球に占めるフライの割合のことだ。したがって、1番目の集団が上位20%のフライボールヒッターということになる。3番目は平均的な打球傾向の集団、5番目はゴロの打球が多い下位20%の集団ということになる。

 それぞれの集団をひとりの打者として考えたときの打撃成績は以下の通りだ。

 見ての通り、フライボールヒッターとしての傾向が強い上位集団ほどOPSが高く、強打者であるという結果になっている。ひとくちにフライと言っても一定以上の打球速度と一定範囲内の打球角度が必要となるのがフライボール革命の要点なのだが、シンプルにフライ割合の高い順に集団を分けただけでも、明確に成績の差が出た。

■高めにストレートを投げる

 では、この上位集団の打者をどのように打ち取ればいいのか。早速だが、前述した高めのストレートに対する成績から見ていこう。まずはストライクゾーンに限定し、縦に3分割したうちの一番上のゾーンを対象とした。

 検証の趣旨として主にスイングした際の結果を評価したいため、四球の影響を受けるOPSではなく長打率に着目する。相変わらず、上位集団ほど強打者らしい成績を残している。ストライクゾーンの高めにストレートを投げるだけでは、フライボールヒッターを打ち取ることはできないようだ。

 次は条件を変えて、ボールゾーンの高めについて見てみる。ここではストライクゾーンの上限よりも高いゾーンに投じられたストレートを対象とする。

 先ほどのデータと違い、集団ごとの長打率の差がほとんどなくなっている。その要因として最上位集団の三振率の高さが際立っており、極端なフライボールヒッターは特にこのゾーンのストレートを空振りしやすいようだ。バットに当てさせなければ、当然彼らの長打力の影響を直接受けることはないため、リスクが大幅に低減する。ボールゾーンの高めで勝負できることが、フライボール時代を生き抜くためのスキルのひとつと言えるかもしれない。

 もちろん球速が速いに越したことはない。同じボールゾーン高めのストレートでも、145km/h以上のものとそれ未満のものでは、やはりコンタクトされる確率が違ってくるため、その分長打率の面でもフライボールヒッターを無力化できる度合いが変わってくる。さらに言えば、ある程度の球速がないとボール球をスイングさせることも難しい。球速だけでなく投球の軌道や際どいゾーンに投げるコマンド能力も関わってくるが、ひとつの目安として球速は必要なスキルになってくるだろう。

■低めにストレートを投げる

 条件付きではあるが、フライボールヒッターに対しては高めのストレートが有効であるという定説は肯定される形となった。次は、低めへの投球について見ていこう。

 高めと同じように、まずはストライクゾーンから見ていく。

 ストライクゾーン高めほどではないが、やはり上位集団ほど高い長打率を残している。捕手の要求通り丁寧に低めを突いても、それを強打してしまうのがフライボールヒッターの怖さだ。

 次にボールゾーンの低め。ボールゾーン高めとは異なり、上位集団が高い長打率を残している。ここで注目したいのは、わずかではあるがフライボールヒッターほど三振率が低い傾向にあることだ。高めのゾーンに関しては、明らかに上位の集団ほど三振をしやすい傾向にあった。このことからも、フライボールヒッターが低めのストレートを苦にしていない様子が見て取れる。

■環境は常に変化している

 NPB全体をならして分析したため、もちろん例外はあるが、大まかな傾向として、フライボールヒッターを封じるための定説は正しいものであることが分かった。フライボール時代をどう生き抜くか、という意味においても、ボールゾーン高めで勝負できるストレートを身につけること、また編成視点ではそうした投手を獲得すること、安易に低めへストレートを投げないことなどはひとつのヒントと言える。

 もっとも、外国人打者への配球でよく見られるが、パワーヒッターに対してボールゾーン高めのストレートで勝負することの有効性はすでに大部分で認知されているようにも思える。肝心なのは、そうした配球が必要になる場面が今は限定的だが、今後は増える可能性があるということだろう。柳田のようにフライボールヒッターを志向する打者が増えれば、ボールゾーン高めのストレートを投げなくてはならない機会もきっと増える。そうなれば、練習の内容も変わってくるかもしれないし、必要とされる投手のタイプも変わってくるかもしれない。

 野球は相対的なスポーツだ。その時代の環境やトレンドに柔軟かつスピーディーに対応できるかも勝負のカギを握る。

文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉