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日米の最終決戦に違い 日本SとWS、それぞれのスポンサーの関わり方とは


ワールドシリーズ(WS)といえば、アメリカ国内だけでなく世界が注目するビッグイベントであり、球場内外でそのプレミア感を味わうことができる。

■プレミアムな空間を作り出す活動が熱烈なファンを生むきっかけに?

 ワールドシリーズ(WS)といえば、アメリカ国内だけでなく世界が注目するビッグイベントであり、球場内外でそのプレミア感を味わうことができる。球場外では、対戦する両チームが描かれたワールドシリーズ限定のグッズや通常のベースボールキャップにワールドシリーズのロゴが加わったものなどが店頭に並ぶ。今年のワールドシリーズは優勝から長らく遠ざかっているチーム同士の対決のため、朝から球場周辺でいつも以上にお祭りの雰囲気が漂っていた。

 日本シリーズ第6戦のマツダスタジアムに足を運んでみると、その雰囲気は広島でも感じることができた。球場外が開場前から真っ赤に染まり、多くの人々で溢れかえっていた。だが、それを彩る日本シリーズ限定グッズ等が手に入るのは、球場外のテントに覆われた仮設の売り場と非常に簡素なものだった。あくまでも仮設であるため、コストを抑えてのことだろうが、至るところでワールドシリーズ限定グッズが見られる米国に比べると、管轄が違うためかチームショップ内までには浸透していなかった。

 地元ファンは真っ赤なカープグッズを新たに購入して、ホームでの応援に励む。だが、遠方からやってくるファンにとっては“旅”要素も含まれているだろう。特に、日本シリーズのような毎年出られるかどうかが分からない試合では、ちょっとした記念グッズを手に取ろうとしてもおかしくない。

 レギュラーシーズンの各球団が主催する試合と違って、日本シリーズはNPB主催となる。そのためか、球場内や試合中の演出なども通常とは違った雰囲気で行われていた。ホーム側がホームランを放ったときには、ビッグスクリーンに日本シリーズのメインスポンサーであるSMBCのキャラクター・ミドすけの動画が掲示され、ビジター側がホームランを放ったときにはミドすけの静止画が彩るなど細かい仕掛けが行われていた。球場内ではマスコットであるミドすけが球場内でファンを楽しませる光景も見ることができた。

■メジャーでは癌患者を支える企画も

 一方、ワールドシリーズでは多くのスポンサーが独自のアクティベーションを行っている。すでに5回目の実施ではあるが、飲食チェーンのタコベルは”Steal a base, steal a taco (塁を盗めば、タコスを盗める)”というプロモーションを行っている。ワールドシリーズ中に選手が盗塁すれば、タコベルを訪れるお客さんには無料でタコスが1つプレゼントされるという嬉しい企画だ。

 このプロモーションは選手も認識しており、クリーブランド・インディアンスのフランシスコ・リンドーは盗塁を決めた第1戦後に自身のツイッターで”これまで決めた中で最高の盗塁の1つ”と呟き、タコベルのアカウントもタグ付けしたツイートを発信した。これはタコベルにとってはうれしい誤算で、選手からもプロモーションされ、SNS上でも盛り上がりを見せた。

 クレジットカードの国際ブランドであるマスターカードは、シカゴでの第4戦時に来場客全員にスマートフォン用タッチパネル対応手袋をプレゼントした。寒いシカゴでの試合に訪れるファンにとっては非常にうれしいプレゼントだ。さらにマスターカードはSU2C (スタンド・アップ・トゥ・キャンサー)との取り組みで試合前には寄付金の贈呈、そして5回にはファンだけでなく、選手、コーチ陣がサインボードに身近で癌と戦う人の名前をつづり、その方々を称える時間を設けた。

 SU2Cとは癌に対して新たな治療法を患者に届けるべく、研究を加速させるための資金を募る慈善団体である。真剣勝負のひとときではあるが、誰もが目の前で繰り広げられている戦いよりも大事なことを考えさせる時間となり、非常にインパクトがあり、印象に残るスポンサーの関わり方である。

■スピード感が必要なワールドシリーズの企画

 そして自動車メーカーのシボレーはMVP賞を受賞した選手に車を贈呈するだけでなく、MLB公式サイト上でMVP賞を受賞すべき選手を投票することができるサイトのスポンサーもしている。シボレーはメジャーリーグが課題に置く次世代への取り組みにも一役買っており、全米各地でそれぞれのディーラーが先頭に立ち、無料で野球クリニックを提供している。

 そのプログラムのコンテストに勝ち残った少年をキッズレポーターとしてワールドシリーズに招待し、メディアデーでは選手を実際にインタビューする機会が少年には与えられた。各スポンサーがワールドシリーズという注目が集まる舞台でそれぞれのアクティベーションを行い、野球との関わりをブランドの認知度アップへつなげる活動を行っている。

 対戦カードが直前まで決まらない最後のシリーズの戦いに向けた演出や企画はスピード感が必要となる。だが、それは両チームのファンにとっても同じであり、急な予定調整もしくは旅の計画が必要となる。そこまでして訪れるのは、特別な試合であるからに違いない。

 もちろん両リーグ覇者同士の戦いとなれば、試合だけでも盛り上がるのは確実だ。ファンの多くが日本シリーズというプレミアチケットを手に入れるために犠牲を払い、予定を調整してやってきている。そのファンたちを楽しませる演出をし、そういうプレミアムな空間を作り出すことで熱烈なファンをさらに生むきっかけとなるのではないだろうか。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

新川諒●文

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