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プルヒッティングのすすめ

写真提供:共同通信

■基本的に打者は引っ張る

 2月に入り、プロ野球各球団は一斉にキャンプインした。自主トレの期間中から連日、メディアを通じて選手の情報が伝わってきたが、その中に以下のような発言をしている選手を複数人、確認することができた。

「今シーズンは逆方向への打撃を磨きたい」

 おそらく今年に限った話ではなく、例年何人かの選手が、このような目標を掲げてシーズンを迎えている。

 ここでひとつ、素朴な疑問が浮かぶ。

 打者は、引っ張って打つべきなのか、それとも逆方向に打つべきなのか。

 決して二者択一の単純な問題でないことは承知の上で、打球方向と結果の関連性について分析したい。

 まず、前提として、NPB全体の打球方向の傾向を確認しておこう。フェアゾーンを扇状に3分割した場合の右打者のレフト方向と左打者のライト方向を「引っ張り」とし、その逆を「逆方向」、真ん中を「センター」とした。過去10年まで遡ってみると、どのシーズンも引っ張った打球が4割弱を占め、3方向の中で最も多くなっている。

 シーズン400打席以上の打者を個別に見ても、引っ張りの打球よりも逆方向の打球が多い打者は10年間で645人中139人しかおらず、引っ張っている打者の方が圧倒的に多かった。狙っているか狙っていないかは別にして、基本的に打者は引っ張っている、という事実が読み取れる。

 ちなみに、昨シーズンで引っ張りの打球が多かった打者、逆方向の打球が多かった主な打者は以下の通りだ。

プルヒッターほど強打者

 さて、ここからが本題となる。これ以降の文章を簡略化するために、引っ張りの打球が多い打者のことを「プルヒッター」、逆方向の打球が多い打者のことを「逆ヒッター」と呼ぶことにしたい。プルヒッターと逆ヒッターは、どちらが優れた成績を残しているのだろうか。

 各打者がプルヒッターなのか逆ヒッターなのかを評価する指標として、引っ張りの割合から逆方向の割合を引いた数値を用いることにする。0より大きいほどプルヒッター寄り、小さいほど逆ヒッター寄りということになる。各打者の成績を評価する指標としてはOPSを用いる。

 打球方向の評価指標を横軸、OPSを縦軸にとった散布図を上に示した。青い点ひとつひとつが、打者一人ひとりを表している。これを見ると、プルヒッターで高いOPSを残している打者が多いことが分かる。もちろん全てに当てはまるわけではなく、逆ヒッターでありながら高いOPSを残している選手もいるが、一般的に見て、引っ張った方が好成績が出やすい、という傾向が浮かび上がってきた。

長打は多いが三振も多い

 プルヒッターと逆ヒッターの特性をより深く理解するために、OPSだけでなく他の指標との関連性も見てみよう。

 まず、打率や出塁率とはあまり関連性が見られなかった。プルヒッターなのか逆ヒッターなのかは、この2つの指標にほとんど影響を与えないようだ。

 一方で、長打率とはそれなりの関連性が見られ、プルヒッターほど長打率が高い傾向が出ていた。出塁率にほとんど関連性がなかったことを踏まえると、プルヒッターのOPSが高くなるのは、逆ヒッターに比べて長打を多く打っているからだと考えられる。

 全打球に占めるフライの割合とも関連性が見られた。プルヒッターの方が、フライを打つのがうまく、逆ヒッターはゴロの打球を打つ傾向が強いようだ。

 コンタクト率(=スイングしてバットに当たった割合)はプルヒッターほど低くなる傾向が見られた。これは、前で捉える分だけボールを見る時間が短くなり空振りしやすい、もしくはプルヒッターは逆ヒッターに比べて当てにいくようなスイングをしない、といったことが影響していると考えられる。

 もっとも、空振りしやすいからと言ってプルヒッターを否定することはできない。打者の最終的な目的は空振りをしないことではなく、チームの得点を増やす打撃をすることだ。そのため、OPSに関してプルヒッターの方が有利という事実が示された以上、その優位性は変わらない。

引っ張った打球は強い

 少し話を戻して、なぜプルヒッターの方が長打を多く打てるのかを考えたい。

 答えはわりとシンプルで、一般的に引っ張った方が強い打球が生まれやすいからだ。打球方向別に平均塁打(凡打は0塁打として扱う)を求めると、どのシーズンでも引っ張った打球が最も多くの塁打を稼いでいた。おそらくこれは、多くの人にとってさほど違和感のない結果だろう。何気なく思い浮かべる本塁打シーンは、たいてい引っ張った打球のはずだ。

 つまり、長打になりやすい打球、すなわち強い打球、速い打球を打つには、基本的に引っ張るのが有効、ということになる。

 ただし、これも全てに当てはまるわけではなく、逆方向の方が強い打球になる打者もいる。昨シーズンだと、柳田悠岐やデスパイネ(ともにソフトバンク)、銀次(楽天)などがこれに該当する。彼らのような打者は強い打球を打つために引っ張る必要がない。むしろ逆方向の方が良い結果を期待できるので、極端な話、引っ張らない方がいいということになる。

 重要なのは、各打者が、自分の中で強い打球を打てる方向に高い割合で打てているか、ということではないだろうか。強い打球が出やすい方向にたくさん打てば、当然それだけ成績が良くなる。

 相手バッテリーからすれば、打者がどの方向に強い打球を打つのかを把握し、その方向に打たせない配球を考える必要がある。実際、デスパイネに対する各球団の配球は特徴的で、ストレートを投じた割合が36.3%と400打席以上の打者で最も低く、変化球で引っかけさせようという意図が見て取れた。

 その意味においては、例えば茂木栄五郎(楽天)や丸佳浩(広島)のように、どの方向にも強い打球を打てる打者は、相手からすると打ち取るための配球を考えるのが難しい。おそらく、冒頭の「逆方向への打撃を磨きたい」にもそういった「どの方向にも打てるようになりたい」といったニュアンスが多分に含まれており、「引っ張る打撃を控えたい」という意味でない限り、目指す方向としては正しいと言えるだろう。このあたりは、選手の言葉をどう解釈するかが難しいところだ。

理にかなった方向に打つ

 各打者の打球方向の適性(=どの方向に打てば強い打球になりやすいか)は、引っ張った打球の平均塁打から逆方向の平均塁打を引くことで大まかに評価することができる。0より大きいほど引っ張った方が強い打球を打てるタイプ、小さいほど逆方向の方が強い打球を打てるタイプということになる。

 これを、前出のプルヒッターか逆ヒッターかを評価する指標とともに散布図に示した。これを見ると、だいたいの打者は理にかなった方向へ打球を打てていることが分かる。引っ張りに強い打者は引っ張りの打球を多く、逆方向に強い打者は逆方向への打球を多く打てている。ちなみに、最も低い位置にぽつんとプロットされているのは、2016年の柳田だ。逆方向への圧倒的な打力を持ちながら、引っ張ってしまうケースが多かった。

 柳田ほどではないが、昨シーズンの松本剛(日本ハム)も、打球方向の適性と割合がかみ合っていなかった。数字上、引っ張りの打球で力を発揮するタイプに見えるが、打球方向の割合としてはさほど引っ張っていない。これが、あえて引っ張っていないのか、技術的に引っ張ることができていないのかは分からないが、結果的にもっと引っ張れていれば、成績は向上していた可能性が高い。

 もちろん、この場で無責任な提言をすることは避けたいが、新しいシーズンに向けて、打つ方向の意識を変える、もしくは効果を検証をする、といったことの価値はあるのかもしれない。

 プロ野球全体で考えても、打者によって打球方向の適性があるという点は非常に興味深い。しかも、必ずしも全員が引っ張りの打球を得意としているわけではなく、柳田らのように逆方向にパワーを発揮する打者もいる。そして、それを決定する要素は、スイングの軌道なのか、打者の筋力なのか。

 各打者が理にかなった打撃を志向することは、パフォーマンスの向上につながる。今シーズンも、ひとつでも多く質の高いプレーが見られることを楽しみにしたい。

※データは2017年シーズン終了時点

文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉