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ヤクルトはギルメットをどう評価したか

写真提供:共同通信

■投球内容だけを見ればクローザー級

 優秀な投手がまたひとり、日本球界を去ることになりそうだ。

 といっても、今オフのストーブリーグの主役、大谷翔平のことではない。今年、ヤクルトで来日1年目のシーズンを過ごしたプレストン・ギルメットのことだ。公式な発表はまだ出ていないが、いくつかの報道を総合すると、球団は彼を放出する意思を固めたと見られる。

 たしかに、ギルメットのシーズン成績は28試合、54.2イニングで防御率3.62とそこまで特筆すべきものではなかった。だが、投球内容はそれ以上にハイレベルだった。セイバーメトリクスでは、投手の基本的なパフォーマンスを奪三振、与四球、被本塁打の三要素で評価する。これらは、味方の守備力や打球の運といった外的要因の影響を受けないため、防御率よりも投手の本質的な能力を映し出すとされているからだ。

 それを踏まえた上で、今年来日した外国人投手の成績を並べてみると、ギルメットのそれは多くのライバルに負けないものであることが分かる。奪三振率が9を超え、与四球率が3を下回り、なおかつ被本塁打率が1を下回るのはパットン(DeNA)とギルメットの2人だけだ。前述した三要素すべてで優秀な数値を残した希少な投手、という評価ができる。右端のFIPは三要素を総合的に評価し、失点への影響を加味した上で防御率の形式に置き換えた指標だが、これを見ても彼の投球のクオリティーが高いことが測り知れる。

 また、チーム内での序列を見ても、ギルメットが貴重な戦力であったことは間違いない。同様に優秀なFIPを残していたルーキも退団が濃厚と見られており、球団は今オフの新戦力獲得、もしくは既存戦力の強化によって、この穴を埋めなくてはならない状況となった。応用的な分析では、仮にこの2人が平均的な能力の投手に置き換わった場合、チームの失点は年間で16.5点増える計算になる。報道ではすでに新外国人候補の名前も挙がっているが、そこで誤算が生じるとダメージは決して小さくないだろう。

■先発への適性はあったのか

 話をギルメットに戻そう。ここまでの内容を見ると、ギルメットの放出はあまり良い選択ではないように思える。本当にそうなのだろうか。球団の意思決定にはさまざまな事情や背景があるため、この場で正解か不正解かを断言することはできないが、もう少しだけ掘り下げて考えてみよう。

 ここまでのデータはすべてシーズン通算の成績であるため、時系列など詳しいことが分からない。しかも、ギルメットは7月まではリリーフ、9月以降は先発と、異なる役割で起用されていたため、色々な条件が混ぜこぜになっている。ここを分解して見ることで、ギルメットが送ったシーズンの実態に迫ってみたい。

 まず、中継ぎを任されていたシーズン序盤だが、FIP1.58と非常に優れた投球内容であったにもかかわらず、防御率4.76と結果が伴っていなかった。これを単なる不運と解釈するのは安直だが、さまざまな巡り合わせなども絡んだ上で、投球内容に見合った成績を残すことができず、これが首脳陣の評価を下げてしまったことは確かだろう。

 6月以降も引き続き多くの三振を奪い、FIP2.35という投球内容だったが、やはり防御率が伴わず、7月22日に出場選手登録を抹消されると、外国人枠の関係もあり、そこから1か月半以上も一軍のマウンドから遠ざかった。

 しかし、9月に故障で離脱したブキャナンに代わって先発を任されると、2試合連続で7回以上1失点以下に抑えるなど好投を見せ、4試合で防御率2.66を残した。これによって、ギルメットの残留の可能性はそれなりに高まったと想像できる。

 だが、中継ぎを務めていた期間とは逆に、先発のギルメットは決して優れた投球内容とは言えなかった。奪三振率が7.23まで低下し、本塁打も23.2イニングで3本浴びてしまった。もちろん、こうした数値の悪化は長いイニングを投げなくてはならないことの副作用とも言える。リリーフのときよりは球速を抑えて投げなくてはならないし、ウイニングショット以外の球種も幅広く使う必要が出てくる。それでも、先発で残したFIP3.80はセ・リーグの先発投手としては平均レベルで、リリーフで投げていたときほどの優位性はなくなっていた。

 被本塁打の少なさを支えていたゴロを打たせる投球も、先発のマウンドでは影を潜めていた。4試合というわずかなサンプルで判断するのはやや危険だが、おそらく、彼の適性は先発よりもリリーフにあったのではないだろうか。

 ここで、ギルメット放出の妥当性について考えてみよう。もし、球団がギルメットを来季の先発候補のひとりとして検討していたならば、最終的に契約を更新しないという判断は、一定の正しさを持っていると言えるだろう。実際はどの部分をどう評価したのかは不明だが、先ほどのデータからすると、先発として起用し続けても、あまり高いパフォーマンスは期待できなかったと思われる。

 一方、リリーフでは十分残留に値する投球内容と言えるが、結果として多くの失点を喫してしまったため、比較的早い段階で来季のブルペン構想から外れてしまい、別の新外国人投手に焦点を絞っていた可能性もある。もちろん、仮にギルメットよりも優れたリリーフ投手を獲得できるのであれば、それに越したことはない。あくまで憶測になるので深追いはしないが、ギルメットにとってみれば、シーズン序盤のリリーフ登板で能力に応じた結果を残せなかったことが、災難と言えば災難だったかもしれない。

■選手の処遇を決める物差しとは

 最後に、近年来日した外国人投手の成績と処遇について確認しておきたい。上の図は、横軸に防御率、縦軸にFIPを取った散布図で、2005年以降、来日1年目に50イニング以上を投げた投手をプロットしてある。さらに、2年目もNPBの球団に残った投手と、そうでない投手で色を分けている。中には複数年契約による残留なども含まれているが、おおまかに、どの程度の成績を残すと残留できるのかが把握できる図となっている。なお、2017年に関しては報道をもとに、現時点で去就情報の確度が高い選手だけを反映している。

 見ての通り、やはり成績が優秀な投手ほど残留を勝ち取っているケースが多いが、防御率4.00未満でFIP4.00以上の投手が全員残留している点が気になった。これは、投手個人のパフォーマンスを表すFIPよりも、味方の守備力などの影響を強く受ける防御率が選手の処遇に強く影響していることの示唆と言えるのではないだろうか。それが必ずしも間違いとは言い切れないが、現場では依然として伝統的な指標が重要視されているのかもしれない。ちなみに、来季から2年契約を結んだブキャナンもそのひとりだ。

 また、ギルメットのようにFIPが3.00未満でありながら残留できなかった例はほとんどない。唯一、2011年のアルバラデホ(巨人)がそれに該当するが、当時は低反発球が使用されていたため、2017年とはリーグ平均FIPに0.6ほど差がある。相対的なパフォーマンスの高さという意味では、ギルメットレベルの投手が1年で放出されることは稀なケースと言えるかもしれない。もっとも、他球団が獲得すれば、この図においては残留の扱いとなる。

 その選手と契約するかどうかに関しては、チーム事情や市場状況にもよるため、何が最善の策であるかを考えるのは難しい。ましてやFIPが優れているからと言って、必ずしも次のシーズンで活躍するとは限らない。2015年までクローザーを務めたバーネットも、来日1年目のFIPは4.41だった。彼の場合は、一度自由契約となったあと、再契約を結んでいる。

 ギルメットに関しては、前述したように先発では少々苦しかったかもしれないが、リリーフではもう少し見てみたかったという気もする。まだ退団が正式に発表されたわけではない。一般的にはあまり注目を集める案件ではないと思われるが、今後の動向をひそかに見守りたい。

※データは2017年シーズン終了時点

文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉