BASEBALL GATE

侍ジャパン

武田のカーブ、千賀のフォークが……。
メジャー球で削がれた侍Jの投手力。

鷲田康=文
photograph by Naoya Sanuki

メジャー球への対応は、WBCのたびに問題になる。メジャー組が合流すれば問題の一部は解決するが……。

メジャー球への対応は、WBCのたびに問題になる。メジャー組が合流すれば問題の一部は解決するが……。

まるで別人だった。

 来年3月に行われる第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けた日本代表・侍ジャパンの強化試合。その第1戦のメキシコ戦に先発した武田翔太(ソフトバンク)がマウンドで四苦八苦していた。

 武田は昨年のプレミア12でも主戦投手としてローテーションを担った侍ジャパンの軸の投手だが、この日の投球はプレミア12で見せた安定感とは異質の内容だった。

 理由は、以前から言われている米ローリングス社製のメジャー球への対応だった。

 実は昨年のプレミア12では、レギュラーシーズンで使っている日本の統一球に近いミズノ社製の国際球だった。ところがこの強化試合ではWBCの本番で使うメジャー球が使われている。

 その違いへの戸惑いだった。

 立ち上がりにいきなり先頭のナバーロに初球を左前に叩かれると、2番のペーニャには抜けたカーブを右中間に二塁打された。さらに3番のキロスにも1、2球目のカーブが指にかからずにボールが2つ。フルカウントまで持ち込んだが、最後もカーブが抜けて四球を与えて満塁のピンチを招いた。

 結果的には後続を3者連続三振に抑えてこのピンチは切り抜けたが、4回にはやはりカーブが抜けて1死からカスティーロに四球を与えて、暴投、遊失などの一、三塁から7番・ベルドゥーゴに一塁線を破られ同点に追いつかれた。

■武器のドロップカーブはコントロールがきかず。

「いつもより滑るというのはありましたが、途中から調整して投げられたとは思います」

 試合後の武田のコメントだ。

 確かに、途中からフォークを有効に使って相手打者を抑え込めたのは収穫だった。ただその一方で、20球近く投げた武器のドロップカーブは、半分近くが抜けるか、抑え込もうとしてワンバウンドになるなど最後まで思うようにコントロールできていなかった。

 要は球種によってボールがなかなか手につかない。そこでどう適応していくか、改めてメジャー球への対応の難しさが浮き彫りとなった形だったのだ。

■滑り、大きく感じ、よく曲がるのがメジャー球。

 ここでもう一度、メジャー球の特徴をおさらいしておこう。

 日本のボールとメジャーのボールでは革の材質が違うと言われることがあるが、これは日米ともに牛革で同じ。ただ製造段階での皮のなめし方が違い、日本のボールはしっとりと手に馴染みやすいが、メジャー球は表面がツルツルで滑りやすくなっている。

 もう1つはボールの縫い目の高さの違いだ。メジャー球は一般的に縫い目が高く、高さも均一ではないと言われる。結果として持つとが日本のボールよりやや大きく感じ、変化球の曲がりが大きくなる傾向にある。

 そうした傾向からスライダー系のボールは曲がりが大きくなり、特に縦に変化するいわゆる縦スラがかなり有効な球種になる。また、昨今のカットボールやツーシーム系の球種全盛というMLBの潮流が示すように、こうした縫い目の山の高さを使ってボールを細かく動かす球種を使える投手は有利となる訳だ。

■千賀のフォークにも、山崎のツーシームにも影響大。

「球を扱えていたかといえばウソになる。見ていただいた通り、高めに抜けていますし……」

 こう語ったのは2番手で投げた千賀滉大(ソフトバンク)だった。

 同点の5回から登板した千賀は、お化けフォークと言われる落差のあるフォークに影響が出て、やはり抜け球が多くなっていた。

 また4番手で9回に登板した山崎康晃(DeNA)も、4安打を浴び3失点と炎上した。

 山崎の武器はツーシームで比較的、影響を受けにくい球種のはずだ。しかし通常のツーシームとは違い、スプリットに近い握りで抜いて投げる独特の投げ方から影響が出て、抜け気味だった。そのためほとんど見切られ、結果として投げる球がなくなった感じだ。

■プレミア12で好投した大谷も計算は難しいことに。

 こうして登板した投手がメジャー球の洗礼を受ける中で、ほとんど影響を感じさせなかった投手もいる。

 3番手で投げた大瀬良大地(広島)だった。

「真っ直ぐとカットボールだけ。滑るのは滑りますけど、うまく対応して投げられたと思います」

 短いイニングならこれで十分に抑えられるということを示した内容だった。

「やっぱりカーブやフォークは難しいなと感じますね」

 この日の試合でマスクをかぶった大野奨太(日本ハム)が指摘するように、指先でボールを弾くようにひねるカーブや、挟んで抜くフォークはもろに影響を受けやすい。そういう球種を武器にする投手の中には、適応ができずにいくら実績があっても戦力として計算できないケースが出てくるということだ。これは、プレミア12で好投した大谷翔平(日本ハム)も例外ではない。

 楽に投げられるブルペンでは問題のなかった投手でも、実戦で抑えようと力が入る、滑らないように強く握るなどして、逆に抜けて制御が効かなくなる。山崎などはその典型でそこに権藤博投手コーチは苦言を呈していた。

「(ブルペンでは問題ないのに)マウンドに上がったら抜ける、引っかかるでは、それは投手じゃない。選ばれる人は(ボールに)適応できると思って選んでいるし、できなければ淘汰される。もう一度チャンスがあるかどうかはわからないからね。甘くないということですよ」

 メジャー球に適応できる投手は確実に戦力として計算されるし、できない投手は脱落していく。その選別を行うことが、この強化試合の大きな目的にもなる訳だ。

■メジャー球で大きなカーブやスプリットが使えれば。

 メジャーで超一流と言われる投手、例えばロサンゼルス・ドジャースのクレイトン・カーショーやワシントン・ナショナルズのマックス・シャーザー、デトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダーらは、いずれもパワーカーブと言われる大きなカーブの使い手である。またニューヨーク・ヤンキースの田中将大やシアトル・マリナーズの岩隈久志、ボストン・レッドソックスの上原浩治ら日本人メジャーリーガーが成功したのはスプリッットを自在に操れるからだ。

 メジャー球では扱いが難しくなる、そういう球種を逆に使いこなせる投手が出てくれば――。その投手が来年の世界一奪回へのキーマンになるということである。