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ピッチャーの回転数・回転軸・速度をデータ化!MAQ開発者インタビュー

ミズノ株式会社が開発したピッチャーの投げたボールの回転数や回転軸、速度などが計測できる専用センサーを内蔵したボール「MAQ」(マキュー)が、2018年春に発売される。
MAQを普段の練習に取り入れることで、球の「伸び」や「キレ」といった感覚的な表現を数値で可視化し、データを記録することができる上、その投手の球の特徴や課題点などの分析まで行うことができるようになる。
そんな画期的なアイテムを3年の歳月をかけて開発してきたのが、ミズノ株式会社の研究開発部センシングソリューション研究開発部の柴田翔平さんだ。
今回は、柴田さんに、MAQの開発秘話をたっぷりと伺った。

ミズノ株式会社
研究開発部 センシングソリューション研究開発課
柴田翔平さん


――今回、ピッチャー向けの回転数・回転軸・速度が計測できる「MAQ」の開発に至った経緯を教えてください。

「柴田」 最近、野球界で「回転数」に対する認知と重要性が広まりつつあるというのを感じていました。オールスターゲームで初めて回転数が表示されたり、メジャーリーグではすでに回転数を分析してチームの戦略に役立てるということまで行われています。
 そこで、ミズノ社も回転数が計測できるシステムが欲しいと思っていたのですが、当時、日本で回転数が計測できたシステムは、非常に大掛かりな装置で、持ち運びもできなくて価格も高額で、とても一般の方が使えるようなものではありませんでした。
 そこで、私どもが考えたのは、ミズノは100年以上、野球ボールを作っているので、そのボールの中に直接センサーを入れて、投げるだけで計測できるシステムがあれば、一般の人でも簡単に使えるのではないかと考えて開発をしてみようということになりました。

――硬式球の中にセンサーを埋め込むという中で、開発時に苦労された点はありますか?

「柴田」 まず一つに、「高速回転」に耐えられるかどうかという点は苦労しました。野球の場合は、ピッチャーの投げたボールが高速で回転運動をするのですが、その中で、普通のセンサーを使うと振り切れて計測ができなかったんです。
そこで、解決策としてでてきたが、普通の回転を測るセンサーではなく、地磁気センサーと呼ばれるセンサーを使用したことです。今回、開発パートナーである愛知製鋼さんが作ったセンサーを組み込むことで、高速回転でも測れるようになりました。
2点目は、普通の硬式球と、質量やバランス、触った感じが全く一緒でありながら、耐久性も高いという構造にするのには、非常に苦労しました。
最初に作った時にはすぐ壊れてしまったり、バランスが悪かったりして、投げ手側にも違和感があるなど、なかなか完成までに至りませんでした。

――改めて、MAQのシステムのウリはどんなところですか?

「柴田」 MAQの場合は、速いボールはもちろんですが、他社システムでは中々数値化できない遅いボールも計測できるというのが一つの特徴です。野球をまだ始めたばかりの選手でも、データを取ることができます。どこでも計測できる、いつでも計測できるというのは、MAQのウリだと思います。例えば、選手がキャンプに行くときに、MAQならボールと充電器とスマートフォンさえあれば、遠征中でもデータが取れますし、あるいは個人の自宅であっても、それなりのスペースがあれば18.44mなくても、データを取ることができます。
 そして、一番の私どもの強みは、『ボールを100年以上作ってきた』という歴史です。ボールの管理や触り心地、安定した硬式球としての質の部分の提供には、とてもこだわっています。決して、おもちゃではなく、本物の硬式球の感覚で投げてもらえるという点がMAQのウリの一つでもあります。


――価格(※1)もリーズナブルで、個人での購入もしやすいというのも利点ですね。

「柴田」 そうですね。野球を始めた方ですと、お父さんがクリスマスプレゼントでお子さんに買ってあげたりとか、欲しい時に購入を検討できるレベルの価格で売り出したいという思いはありました。
(※1=価格は、ボール型センサ仕様:19,800円/ワイヤレス充電:15,000円)

――これから野球界でMAQが広まっていくことによって、日頃の練習から、データと接する機会が選手たちも増えていきそうですね。ミズノ社としては、これから、チームや個人でMAQをどのように活用していってもらいたいですか?

「柴田」 まずは、ピッチャーのコンディショニングチェックをMAQを使って実施していただきたいです。自分の調子が良いか、悪いかを確かめていただいたり、試合前に投げてもらって、『今日は球が走ってるな』と思ったら、それを意識して試合に臨めますし、練習中においても、試合前においても使っていただきたいです。
 他にも、例えば、外野手の選手に投げてもらって、ピッチャーとして意外といいデータが出ているから投手にコンバートさせたりとか、チーム作りの面でも使えるかなと考えています。

――これまでは球速で判断しがちだった選手評価も、「回転数」や「回転軸」などが数値化できることで、新たな選手の評価も生まれてきそうですね。

「柴田」 まさに、球質で重要なのは球速だけでないというのが私たちの考えで、MAQで新たなに計測できる回転数と回転軸にも、ぜひ注目していただきたいです。従来ですと、160キロ投げられる投手が良いという風潮がありましたが、140キロでも回転数が多ければ、または、回転数が極端に少なければ、強打者も打ち取ることができるんですよね。体が小さい選手でも、回転数を上げることができれば、抑えられるピッチャーになれる。そういった自分のスキルを磨いていくツールとして、MAQを活用してもらいたいですね。

柴田さん、ありがとうございました。