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「第2のデスパイネ」を補強すべきチームは?

写真提供:共同通信

 今年の日本シリーズは劇的な幕切れとなった。ソフトバンクの3勝2敗で迎えた第6戦、ソフトバンクの1点ビハインドで迎えた9回裏に内川聖一が起死回生の同点弾を放つと、11回には川島慶三がサヨナラタイムリーを放ち、ソフトバンクが2年ぶりの日本一に輝いた。

 これで、ソフトバンクは2010年以降の8年間で5度のリーグ優勝、4度の日本一と、近年のプロ野球界では圧倒的な力を見せつけている。

■ソフトバンクはどこが強かったのか?

 では、今年のソフトバンクはどのポジションが優秀だったのか。ポジション別の得点貢献を見てみよう。この図の打撃はwRAA、投球は打球を加味したRSAA、守備はUZRをもとに、2017年の各ポジションがリーグ平均に比べて生んだ利得を示したもので、各リーグのポジションごとの合計がゼロになるようにつくられている。

 リーグ平均と比べて30点程度の利得を生んでいるのは「救援投手」と「中堅手」。先日、外国人選手で初の正力松太郎賞に輝いたサファテ、スイングを改造して2年ぶりに30本塁打以上を放った柳田悠岐の存在が大きく効いている。

 ただし、サファテも柳田も昨年から存在する戦力であり、「救援投手」と「中堅手」は昨年からチームの強みであった。昨年からの得点貢献の変化分を見ると、むしろ際立っているのは遊撃手の増加分。5年連続5度目のゴールデングラブ賞にも輝いた今宮健太のポジションだ。

 今宮は特に打撃での貢献度が目立ち始めている。ホームランテラス設置の追い風はあるものの、ここ3年は本塁打数が伸び続け、今年は14本塁打をマークした。さらに、今年はロッテ、日本ハム、オリックスの遊撃手がかなりの打撃不振だったことも差が開いた要因となっている。

 そして、遊撃手の次に増加分が大きいのはデスパイネを補強した指名打者だ。

■指名打者の得点貢献

 ここで、ソフトバンク指名打者の得点貢献がどのように変化してきたのか、年度別の得点貢献と変化分を見てみよう。2017年の得点貢献は6.1と目立つほどのプラスではないが、昨年と比較すると14.4点分増加していることが分かる。ソフトバンクになって初めて優勝した2010年以降では、李大浩が加入して日本一を奪還した2014年に次ぐ数値だ。

 デスパイネが去ったロッテ指名打者の得点貢献と比べてみよう。この表にあるように、デスパイネの穴を埋められなかったロッテは7.1から-12.4へと大きく数値を落としている。もちろん、ロッテにデスパイネに代わる戦力がいればここまで落ち込むことはないのだが、事実上、ロッテの長所がソフトバンクの長所に入れ替わっている状態となっている。昔のクイズ番組風に表現するならば、ソフトバンクが「横取り40萬」を発動したような状態だ。

 選手層の分厚さを考えるとソフトバンク指名打者の利得は毎年大きなプラスになっていても良い気がするが、実際はそれほどでもなく、意外とマイナスの年もある。李大浩やデスパイネの補強は一見すると余剰戦力のように見えるものの、利得の変化分を見る限り、日本一奪回を強く求められるチームには欠かせないピースだったといえる。

 もちろん、サファテや柳田という絶対的な存在があってこその日本一奪還だが、他球団との相対的な視点では今宮の打撃面での成長、およびデスパイネの補強は大きかった。

■最も改善したポジションは?

 では、ソフトバンクの遊撃手や指名打者のように、昨年からの利得の増加分が大きいチーム&ポジションはどこだったのか。トップ10を見てみよう。

 10位はゲレーロが本塁打王を獲得した中日の左翼手。和田一浩の引退後は弱点となっていたポジションだったが、今年はプラスに利得を回復させた。9位、8位はともに楽天で、二塁手と左翼手がランクイン。二塁手は銀次の起用が増えたこと、左翼手は打撃優位の外国人選手の起用をしなかったことで、守備のポイントが改善されたことが大きく効いている。7位には前述したソフトバンクの遊撃手がランクインした。

 6位は黒木優太、小林慶祐など新人投手が活躍したオリックスの救援投手。5位はマギーがコンバートされた巨人の二塁手で、4位は桑原謙太朗が覚醒した阪神の救援投手、3位はヤクルトの先発投手となっていた。

 ヤクルトの先発投手は小川泰弘のRSAAが-10.9から11.1へと改善されたことが大きく効いたが、まだ大きなマイナスを計上している。ただ、今回は球場ごとの補正を行っていない出し方をしているため、本塁打の出やすい神宮球場を本拠地とするヤクルト投手陣には不利ではある。

 2位となったのは西武の遊撃手。フルイニング出場した新人の源田壮亮が攻守両面で利得を大きく増やしており、特に守備面ではゴールデングラブ賞を獲得してもおかしくない成績を残していた。そして、1位は楽天の先発投手。則本昂大が34.1、美馬学が10.8と自己最高のRSAAを残したこともあるが、FAで加入した岸孝之が過去最高の16.2をマークしており、補強の効果が大きかったといえる。8勝10敗と2つの負け越しをしたこともあり、同僚の則本に比べると活躍が目立っていないが、岸は西武時代を含めてもベストに近いシーズンだったと考えられる。

■FA移籍元、移籍先の結果は?

 岸のようにFAで移籍した選手は、各チームの穴を埋める働きができていたのだろうか?昨年のFA移籍選手の移籍前、移籍後の得点貢献の変化分を見てみよう。

 まず、岸が移籍した西武の先発投手だが、菊池雄星と野上亮磨が昨年以上の活躍を見せたため、むしろ約20点のプラスになっていた。2投手とも岸が残っていたとしても先発を任されている投手であり、岸がいればさらなるプラスの得点貢献が望まれたとは思われるものの、結果的には移籍によるダメージをうまくカバーできていた。

 また、糸井嘉男の移籍も移籍先、移籍元ともに得点貢献がプラスになったケースだ。移籍先となった阪神の中堅手は昨年に比べて9.4のプラス。一方、オリックス右翼手も吉田正尚やロメロの活躍があり、昨年より15.7のプラスとなっていた。吉田が年間通して働ける状態であれば利得はさらに増えていたと思われる。

 陽岱鋼の加入した巨人の中堅手は、昨年比でわずか1.3のプラスと思うような効果が出なかった。ただし、陽自身は攻守で15.3のプラスだったが、中堅手として2番目に多く出場していた立岡宗一郎が攻守で-15.1と陽のプラス分を吐き出してしまっていた。陽が年間通して出場できていれば、穴を埋めて利得をつくる働きができていたはずだ。

 一方、移籍元の日本ハムの中堅手は-2.2とそれほど大きなマイナスになっていない。今季の日本ハムは昨年からの得点貢献の変化分がすべてのポジションでマイナスとなっているが、中堅手はその中ではマイナスが最も少ないポジションだった。左翼手から西川遥輝がコンバートされたことがその理由だが、西川の抜けた左翼手は-10.2であり、陽の移籍はチーム全体としてはダメージがあったと考えられる。

 また、日本シリーズに進出したDeNAだが、今年は昨年に比べて攻撃陣の活躍が目立っており、むしろ先発投手は大きく数値を落としていた。仮に残留していても故障で投げられなかった可能性は高いが、山口俊の穴は大きかったといえる。一方で、山口が加入した巨人の先発投手はリーグ平均に比べて40点以上のプラスをキープ。山口自身は-6.4と機能しなかったものの、菅野智之とマイコラスで62.0を稼ぐなど、昨年同様の高数値を維持していた。

■各球団の十八番と弱点

 なお、巨人の先発投手は毎年リーグ平均を大きく上回る高数値を残しており、詳細な打球データが揃っているこの9年間は一度もマイナスになったことがない。

 「先発投手力」は巨人の十八番となっているが故に、その戦力を常に強化し続けることが重要であり、ここ10年でもグライシンガー、ゴンザレス、杉内俊哉、ホールトン、大竹寛など他球団で実績を残した投手を多く獲得し、一定の成果を上げている。山口の獲得もこのような強化方針の一環と見ることができる。

 巨人の先発投手のように9年間連続で得点貢献がプラスとなっているチーム&ポジションはほかに3つ存在する。坂本勇人が君臨する巨人の遊撃手、田中浩康から山田哲人への世代交代がスムーズに進んだヤクルトの二塁手、メッセンジャーに代表されるように、例年三振を奪える投手を多く抱えている阪神の先発投手だ。

 表には9年中8回、得点貢献がリーグ平均よりプラスとなっている6つのチーム&ポジションも記載しているが、それぞれ各チームの看板選手が名を連ねるポジションとなっている。

 反対に、9年間で1度もリーグ平均を上回っていないのはオリックスの二塁手だ。2013年に-1.3とリーグ平均程度の得点貢献まで迫ったものの、その後は平均との差が徐々に開いており、今年も-15.1のマイナスを計上している。

 その他、9年間で1度だけ得点貢献がプラスとなったチーム&ポジションを見渡しても、やはり各チームの泣き所が並んでいる。糸井を獲得した阪神のようにFAで補強を試みたパターンも見られるが、各球団ともなかなか弱点を解消するまでには至らない。特に捕手、二塁手、遊撃手、中堅手のセンターラインは補強、育成の難しいポジションであり、軸となる選手が決まらなければ、得点貢献をプラスにすることは難しい。

 その意味で、他球団と少し傾向が違うのは一塁手、左翼手を長所にできていない楽天だろう。

■「一塁手と左翼手がウィークポイント」は浮上のチャンス

 この表はポジション別のOPSを表したものだが、主観に違わず一塁手や左翼手は打撃優位のポジションとなっており、外国人選手やFAでの補強が比較的しやすいポジションといえる。

 例えば、セ・リーグ連覇を果たしている広島の例を見てみると、エルドレッドが左翼手を主戦場とし始めた2014年から攻撃の利得が格段に増えており、新井貴浩の復帰2年目となる2016年からは一塁手の利得が大きく改善している。一方の楽天は、2009年以来プラスがなく、特に攻撃面では両ポジションとも8年連続でリーグ平均を下回っている。

 2017年の楽天のポジション別得点貢献を見ると、上の図のようになる。一塁手、左翼手以外では中堅手と指名打者がマイナスになっているが、中堅手ではシーズン終盤にオコエ瑠偉が活躍の兆しを見せており、来シーズンへの期待が持てる状況にある。

 となると、重要になるのは一塁手、左翼手、指名打者の「打撃力をある程度計算できる即戦力」であり、ここの補強次第では来季のリーグ制覇も現実味を帯びてくる。さて、それに該当する戦力は誰かいるだろうか。今年の中では「村田修一」「ゲレーロ」の名前が真っ先に浮かんでくる。

 もちろん、年俸総額や育成プランの問題、外国人枠、チームカラーにフィットするかなど、編成を進める上では総合的な判断が必要になってくるが、ポジション別の課題と来季への可能性を考える限り、村田やゲレーロのような存在を最も必要としているのは楽天ではないだろうか。

 デスパイネを補強し、得点力を向上させた今年のソフトバンク。そういえば、最後に活躍した内川、川島も他球団からの移籍選手だった。果たして、来年の日本シリーズでは岸が快投を見せ、短期決戦男の今江が決勝打を放つような場面が見られるだろうか。その行方を占う意味でも、今オフに楽天が一塁手、左翼手の補強をどのように進めるのか注目したい。

※データは2017年11月10日現在
※wRAA,RSAA,UZRは2017年版のデータスタジアム基準で算出

文:データスタジアム株式会社 金沢 慧